第5話 偵察
今回、チェイスとオリバーが仮入隊している騎士団はハーディー・アシュバート男爵が結成させた騎士団である。騎士団とはいってもまだ正式には認められてはいない。現状は実質、傭兵団と同じ様な扱いとなっている。
第一分隊のリアム分隊長と他四名、第二分隊指揮、副官のズリエルと他三名は男爵の直属の配下である。チェイスとオリバー他七名は補充用員、また入隊候補者として応じている。
ハーディー男爵は若き二代目当主であり、出世志向の強い野心家として知られ、自分の騎士団を強化する為に資産を用いその力を拡大している。
俺たちはこの召集をハーディー男爵の人材発掘の為と、自分の力の誇示する為の物と理解している。
オリバーの言った通り報酬や待遇は気前が良い。貸し出しではあるものの、仮入隊の隊員に対しても正隊員と同じ装備一式が貸し与えられている。しかも『ヴァルキリュア』が捻出するマキナのコントロールに欠かせないアンダースーツは新型だ。
その新型の故にチェイスは苦労しているのは実に皮肉な事ではあるが、
広場に着いたチェイスとオリバーは教えられた村長の屋敷を探す、までもなかった。玄関先にはハーディー男爵の紋章入りの旗が掲げられ二人の隊員が門番のごとく立っていたからだ。
成る程、わかりやすい。
二人は門番の一人に案内され、即席の作戦会議室に到着した。
「チェイス・シン、オリバー・グレイ、只今到着致しました」
「うむ、入るがいい」
村長宅の一室は村人の集会にも用いられているのであろう、それなりの広いスペースがあった。中央には長机が置かれていてその長机を挟んだ正面にリアム分隊長、副官のズリエル、右側の壁側に小柄な少年兵、偵察専門で働く猫人族の少女が立っていた。
猫耳少女は少年兵と同じか少し低い位の身長であり一見するとまるで子供の様である。しかし獣人の能力は姿形で判断する事はできない。クリッとした瞳とショートに纏めた黒髪の間からピコピコ動く耳が愛らしい。
「早速来たな!君達二人にはやってもらいたい事があるのだ。さぁ此方に来たまえ」
巨体のリアムが立ち上がり、片腕を広げる。
ただそれだけで彼の剛腕が伺える。リアムは屈強な
浅黒く日焼けした肌と、鋭い眼光が印象的。
チェイスはむしろこの男が分隊長を務めている事に幸運を感じていた。
おおっと、いきなりリアム隊長の面前に立てるとは一体何事だ?
顔には出さないが少し緊張している自分に気付く。
リアムはそんなチェイスとオリバーを長机の前へと誘う。目の前の長机にはこの近辺の地図が広げられていた。
「君達には、この二人と一緒にこの地点に向かい、状況を確認して来てもらいたいのだ。いわゆる威力偵察、と言うわけだな」
地図の上にはバッテン印が3つ程記されており、それぞれそこに至る3つのルートが線で引かれていた。
リアムの指はその真ん中のバッテンを指す。
「このポイントは先日、三人の狩人が襲われた場所だ。君達は直接此方に出向き
正直、偵察なんて専門外だ。質問だけなら山ほどある。しかし猫人が付くってことはむしろ俺たちは彼女の護衛役って事か?
そしてチェイスは机の上にある端末に気が付いた。
あれは確か、貴族達が持っているアレか!ならば俺たちの事を十分に知った上での命令ってことになる。ならば、進むのみだ!
「では一つだけよろしいでしょうか?」
チェイスは手を挙げてリアムの前に進み出る。
「うむ、何か?」
「あ、いえ、質問ではないのですが、荷馬車にある武装の中から、追加装備を頂いてもよろしいでしょうか?」
「必要な物は何でも持って行くが良い。他に無ければ準備が整い次第出発せよ」
チェイスとオリバー、他ニ名は直ちに敬礼。部屋を出た。
数分後。
早速そのままで荷馬車の前に集合する四人。
「それじゃ、まぁ簡潔ながら自己紹介といきますかぁ?」
オリバーの元気な声が響く。
確かにそれも必要な事ではあるが、全くもって時間が無い。せめて日が暮れる前に現場に到着したい所だ。
チェイスは自分の用件を優先。一人背を向けて荷馬車に乗り込みお目当の装備を探す。
「俺はオリバー、こっちの愛想のない相棒はチェイス、俺たち二人共新人なんだが腕には自信がある!大船に乗ったつもりで居てくれて良いぜ」
愛想がなくて悪かったな!
チェイスは心の中でツッコミを入れながら荷馬車を漁り続ける。
「えっと、僕はケリーです。射手の修業中ですが、皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります」
少し内気な性質なのだろうか?
俯き加減に喋るこの少年は恥ずかしがり屋の少女の様にも見える。金髪が艶やかに光って美しい。
一方、猫人族の少女は表情を変える事なく淡々と語る。
「私はソフィー、プロフィールはヒミツ、私は先に侵入口付近で待機してる。早く来て」
猫人ソフィーはそう言うと、皆の返事を待たずして姿を消す。
「素早い!って一人で出発ってどうよ?大丈夫なのか?」
オリバーは心底心配げな呟きを漏らし、ソフィーが姿を消した方向に目を向ける。
「えっと、オリバーさん?」
ケリーは訝しげにオリバーを見る。
オリバーの態度はケリーとって、不思議に映って仕方がなかった事だろう。
確かに彼らは『ヴァルキリュア』を身につけることが出来ない為、
それはこの世界における一般常識。
しかし、チェイスはオリバーのその心配そうな顔を見て思い出した。
そうか、彼女は髪の色こそ違えどアイツの亡き妹ジェリナに良く似ているんだ。そう言えばあの娘も言葉少なで感情を表に出さない娘だったな。
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