第3話 戦う者

木陰で昼食を楽しむチェイスとオリバー。

隊長も副官も姿を見せなくなったせいか他の隊員達も思いの外ゆったりし始めている

隊員のランクは自分達が首元まで着込んでいるアンダースーツが目印になるのでとても分かり易い。

スーツに引かれているラインは両手足をなぞり隊長のスーツは赤いライン、副官は青、正規の隊員たちは緑といった具合になっている。尚、新人のチェイス達には黄色のラインが伸びており薄っすらと光を放っていた。


「ヨゥ、兄ちゃん達、初陣なんだってなぁ。何なら俺たちと組まねぇか?どんな時でも生き残れるコツってヤツを教えてやるぜぇ」


「うむ、ここで生き残れたら、俺たち、師事してやっても良い」


そして、チェイス達は明らかに胡散臭い二人組に勧誘されていた。

甲冑プレイトメイルの隙間から見えるアンダースーツのラインは黄色の光をおびている。彼らはチェイス達と同様、仮入隊の勇士ブレイブマンの様だ。だが、下心がありありのその様子は、勇ましくあるべき勇士ブレイブマンたるモノではない。

どんな所にも『そんな奴』が居るもんだ。

チェイスは師匠であり、養父だったロランの教えを思い出す。

俺たちを盾がわりにするつもりか?それともちょっとした小遣い稼ぎのつもりなのか、ああ、その両方か。

最初に話しかけてきた男はエスといったか?痩身で背が高くやや猫背。やせ細った顔はまるで骸骨だ。

エスより背は低いがカタコト喋りのゴツい男はゴルド。その筋肉は鋼の様であり、頬に見える傷は数多の戦場を生き抜いてきたベテランの様に、見えなくも無い。交渉はエスの役割なんだろうが、餌は寧ろこちらの方か?彼のドシンと構える姿は戦場では頼もしく見える事だろう。つまりはそう言う手を使って来ている。


「ああ、お気遣いありがとうごいまっす。大変有り難いお申し出ではございますが、実は俺たち、既に心から信頼できる師匠が居りまして、誠に遺憾ながら今回はお断りさせて頂きまっす」


オリバーは芝居が掛かった口調とウェイターの様なお辞儀ではっきりと断る。

お前は何故そんな物言いと仕草が自然ナチュラルに出来るんだ?だがその返答は花マルだ。

チェイスもオリバーに倣い、眼前に立つ二人に軽く会釈し『お断り』の意志を伝える。

案の定、エスは頬を引きつらせ今にも怒りで爆発しそうになっている。その一方でゴルドは全然表情が変わらない。いや、顎に梅干しの様な皺が出来ているか。

エスは悔しそうに俺とオリバーを交互に睨みつけていたが、何かに気づいた様にニヤリと意地の悪い笑顔を見せる。

エスの視線はチェイス、正確にはチェイスの胸元に止まっていた。


「おいおい、お前らの師匠って言うのは本当に信頼できるのかよ」


小馬鹿にしたような口振り。


「そのセリフは、俺に対する質問、何ですよね」


チェイスは少し怒気を含んだ質問を返すが、エスは意に介さない。


「おおよ、お前さんのその『ヴァルキリュア』は一体なんだよぅ。そんな旧型なんざ使った日にゃ、あっという間に干からびてしまわなぁ。今時、盗賊連中だってマシなのつけてるってのによぅ。俺が師匠だったらそんな物、弟子が取り付けようって時に黙っていられるかっつーの、いずれはお前さん、一人、『むせび泣き』ながら戦うことになんぜぇ」


チェイスはむせび泣く【sod】つまり、勇士ブレイブマンを侮辱するこの言葉を、エスが平気で自分に向けてくる事に苛立ちを感じた。


チェイス・シンは孤児だ。

親代りに育ててくれたのはロラン・シン。生粋の勇士ブレイブマンであり、多くの人々から英雄と呼ばれていた男。だが、だからこそチェイスは命を救われたのだろう。養父ロランは、赤子だったチェイスを戦場で救ったのだ。

エスが放った言葉は、せめてその生き方に倣いたいと願う人間にかけるモノではなかった。

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