第2話 機獣
ハーディー騎士団分隊長リアム・ウィはとある家屋の一室で横たわる全身包帯に包まれた男と面談していた。ベッドに付き添う女性は彼の妻なのだろう。夫に寄り添い怪我の負担にならない様に身体を支えている。男の包帯には至る所に血が滲み出ていた。
かなりの出血だな。
リアムは男の容態を見て取り、相手が
「た、確かに、あれは
感極まった男は包帯を血の色で染めながら声なき叫びを上げる。
「了解した。後の事は我々に任せるが良い。必ずお前の仲間の仇は討つ」
リアムは怪我に苦しむ男に仲間の復讐を約束し、部屋を後にした。
リアムは外に出ると、そこに一人の少年兵が立っているのに気づいた。直属の部下のケリーだ。
美しい金髪を肩まで伸ばし、大きくパッチリとした青い瞳、そして見た目からして大人しそうなその容姿は、少年というよりより少女の様に見える。
「ケリー、村人の中に
「いえ、我々が到着するまでの間、青年団が見回っていたらしいですが被害報告どころか目撃情報すら有りません」
少年兵はテキパキと答え、リアムと一緒に歩き始める。
巨漢のリアムと小柄なケリーが並んで歩くと親子に見えるのは仕方がない。通りすがる村人達は騎士団の
「どうやらはぐれではなさそうだな」
「街道近くで暴れていた
「その件に関しては辺境伯どのが動かれた様だ。あの方が取り零しをされるとは思えんが・・・何れにせよ厄介な事になりそうだ」
ケリーの顔に緊張感が現れる。それに気づいたリアムは、隊長が部下に見せる顔ではなく、まるで(本当の)父親が子供を気遣うかのような面持ちで一言語りかける。
「お前も今のうちに休んでおけ」
「はっ」
ぎこちない敬礼と共に走り出すケリー。
リアムはその後ろ姿を見送った後、長老の屋敷を目指し再び歩き始める。
広場に面した場所に村長の屋敷はあった。他の村人の家より大きめの家屋だがそれは機能重視の為だろう外観は実に質素だ。
玄関先に隊員が門番の様に立ちリアムを出迎えた。
「分隊長、此方へどうぞ」
「うむ」
その部屋にはこの村の村長、青年団の代表、騎士団の副官ズリエルが待機していた。
ズリエルは滞在している騎士団の中で、どの騎兵よりも戦士らしからぬ風貌をしていた。全体的にふくよかな点は兎も角、大きく出ているお腹が戦闘向きでは無いのは明らかだった。
ズリエルはお腹を揺らしながらリアムを出迎え、彼に権威に相応しいと思える上座の方へ誘導する。
「どうぞ此方に」
目の前の長机の上には近隣の地図が広げられ、地図の上には黒い円形の石が置かれていた。この位置で先の狩人とその仲間が襲われたのだろう。
近隣の森ノリッチ、その奥まった所に石はおかれていた。
「どうですか?やはり、
長老は恐らく何度も繰り返したであろう台詞をリアムに対しても向ける。その表情は苦悶に満ちていていた。
「ああ、間違いないな。しかし、奴らはこの村を狙っているわけでは無い。それも確かだ」
「で、では此処は安全なんですね」
リアムの言葉に、おぉっと安堵の声を上げる長老達だったが、リアムははっきりと断言する。
「勘違いしないで頂きたい。奴らが動けば先に巻き込まれるのはこの村だと覚悟を願いたい」
「わ、私たちはどうすれば良いのですか?」
一喜一憂、慌てふためく長老の問いかけは最早哀願に近い。
「その為に我々が居る。しかし、頭数が足りない。村長、まず城塞都市に増援の要請を、ハーディー男爵に連絡がつけば倍の戦力がすぐに到着するだろう」
「は、はい直ちに」
「君達青年団は差し当り住民の安全確保に当たってくれ、号令が掛かれば中央広場に何時でも村人全員が集まれるよう手筈を!」
長老と青年団代表はいそいそと部屋から出て行く。
その場に残った副官アズラエルは少し複雑な顔を見せながらリアムに問う。
「分隊長殿、宜しかったのですか?軽々しく倍の戦力などと」
「ああ、かまわんさ、近々浮島ではでかい花火を打ち上げる予定があるらしいからな。男爵が華々しい手柄を望むならば必ず援軍を出してくださるだろう」
リアムはテーブルの上にある地図から黒い石を摘むと、
「しかし、そうだな増援が到着する前に状況を精査して置くのも、やはり必要だろう」
「では斥候部隊を幾つか準備いたしましょう」
ズリエルの提案を受け、リアムは主であるハーディー男爵から貸し与えられている小型の端末を手に取り、起動させた。
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