Rain
弱い雨の降り続く午後だった。白い営業車の運転席に身を沈めながら、永太は窓に滴る無数の水滴を訳もなくただぼんやりと眺めていた。窓の向こうには、何処までも続く雨雲が西から東へ、ゆっくりと流れているのが見えた。簡素なカーステレオの液晶画面に表示されたデジタル時計が、音もなく時を刻んでいる。時刻は十七時も半ばを過ぎていた。永太はもう二時間もこの車内で、何をするでもなく、無為な時間をやり過ごしていた。
車内の空気は冷えていた。車を打つ、くぐもった雨音が静寂を深め、空間を固く緊張させている様だった。その緊張に耐えかねたかの様に、永太は肩をすくめて身震いした。コートの両襟を掴んで羽織り直すと、もぞもぞと体を動かしてシートに身を置き直した。体の緊張を弛緩させるように大きく一つ息をつく。その吐息は永太の眼前を白く漂い、すぐに消えた。吐息の消えた中空をみつめていると、次第に目の焦点がずれていき、視界が霞んで見えた。急にどっと頭重感を感じ、目を閉じると、両まぶたを指で抑えた。苦痛を和らげるように深く呼吸を繰り返していると、スーツの裏ポケットにしまっていた携帯電話から着信音が流れ始めた。プリインストールされていた流行りのバラードだった。永太は目を閉じたままポケットからそれを取り出すと、画面に表示された発信者の名前を見ること無く、慣れた手つきで電話に出た。
「もしもし」
もう何日も声を発していなかったかの様な、低くかすれた声だった。それはまるで自分の声ではないような気がした。電話の向こうの相手は、その声色に滲んだ疲労を感じ取ったようだった。
「大丈夫? 永太」
「美咲か。どうした?」
永太は、美咲の心配には答えなかった。美咲はそれだけで永太が虚勢をはっている事を悟った。かと言って、決してその事を問い詰めたりはしなかった。
「今、電話出来るかなと思って。今日家来る? もし来るなら晩御飯何が良いかなと思って」
美咲の声は普段より細く慎重だった。腫れ物にでも触るかの様なその声を聴くのが今はどうしても辛かった。
「ごめん。今日も遅くなりそうなんだ」
「そうなんだね。分かったよ。気をつけて帰ってね」
美咲は、受話器から聴こえる雨音から永太の現状を推し量ったのかもしれない。そんな、どこまでも自分を慮ろうとする美咲に何と声をかけてあげれば良いのか、永太には分からなかった。そんな自分が情けなかった。心の中に罪悪感が充満していくのがはっきりと分かる。喉の奥がきつく締めあげられているような苦しさを感じた。
「本当にごめん」
「永太は何一つ悪くないよ。だからお願い。もう謝らないで」
ここ最近、何度も繰り返された会話だった。永太の安易な謝罪がさらなる美咲の気遣いに繋がる事も知っていたのに、永太には『ごめん』と言う事しか出来なかった。
「行かなくちゃ。切るよ」
永太は嘘をついた。この雨の中、自分があとどれだけの時間を冷えた車内でやり過ごさなければならないのか分からなかった。それでも今は、どうしても美咲の声を聴き続ける事が出来なかった。
「うん。気をつけてね」
美咲がそう呟いた後、わずかな間、通話は切られること無く続いた。どちらがこの通話を切るのか。言外にそんな気持ちの駆け引きがあった。通話を切った後のお互いの悲痛な様子が手に取るように分かってしまう。それを思うと切る事が出来なかった。
結果的に通話を切ったのは永太だった。このわずかな時間の間に永太の胸中に充満していた罪悪感は喉を焼き切ってしまうのではないかと思うほどに巨大な感情のうねりとなっていた。そのうねりが落ち着きを取り戻すまで、永太は携帯電話をしまう事もせずに見つめていた。そして大きく一つため息をつくと、携帯電話をスーツの裏ポケットにしまった。再び車窓の向こうに見える雨空へと視線を戻す。日没を過ぎた空は大きくその明度を落とし、刻々と夜が深まっていた。
永太がこの春、大学を卒業して入職したのは、OA機器を取り扱う中規模メーカーの地方営業所だった。配属されたのは営業部で、その中でも永太は新規顧客の開拓及び販路拡大を担当する、第一営業課に配属された。入職してから八ヶ月が経過し、二ヶ月前から先輩の元を離れ、一人で営業に回るようになっていた。
この日、永太は午前中を電話での販路拡大に費やすと、午後からは半年間自分と一緒に営業に回ってくれていた上司が取り付けた、金属加工会社のプリンタ入れ替えの案件で外回り営業に出ていた。しかし、営業所から車で一時間半をかけてその会社の本社工場に辿り着いた時、先方の担当者は急用で不在だった。三十分程度で戻るという連絡が入ったが、担当者は一向に現れなかった。永太は小止みない雨の音を聴きながらじっと待っていた。
電話をして、先方の非を暗に含ませながら、催促する事も出来ないでは無かった。帰社してからの上司への報告や、営業報告書の作成等の業務を考えれば、むしろそうした方が良かったのかもしれない。それでも永太がそうしなかったのは、顧客に対して低い立場であるという関係性以上に、この八ヶ月間で蓄積された、体を充満する重い疲労感があったからかもしれない。
この八ヶ月間、永太は慣れない仕事に戸惑いながらも必死で働いてきた。新規顧客を開拓するという仕事は永太の考えていた以上に難しく辛い仕事だった。課せられたノルマを追いかけ、顧客に頭を下げ続ける日々。買ってもらわなければならないという立場上、今日の様な顧客の非礼を黙って耐えるという事は何度もあった。顧客に振り回され、自分の思うように仕事を進める事が出来ない。業務は連日の様に夜遅くまで続いた。それでも永太は弱音だけは吐かないと決めて働いてきたが、ここ数ヶ月は限界を感じるようになっていた。先方が遅れて1時間ほど経過した時、諦めにも似た感情が永太の感情を覆い尽くし、魔が差したかの様に身動きが取れなくなってしまった。それは永太にとって、自分に降り掛かる多くの理不尽な事柄に対するささやかな反抗だったかもしれない。
結局、先方の担当者が現れたのは十八時を過ぎてからだった。その担当者は自分と同年代であろう若い男性社員で、眼鏡をかけた細身で色白の外見からは気弱そうな印象が感じられた。その男の額にはうっすらと脂汗が滲んでいた。傘をさして営業車から出た永太を見ると、真っ先に平身低頭し、自分の非礼を深く詫びた。もしかしたら、この社員も永太と同じ新入社員なのかもしれない。必死で頭を下げるその男を見つめながら、永太はまるで鑑に写る自分の姿を見ているかの様な気持ちになった。そしてその男に大きな哀れみを抱いている自分に気づくと、永太の心には言いしれない孤独が陰を落とした。
先方での営業を終えて帰途に着いたのは二十時も間近に迫っている頃だった。雨は一向に止む気配は無く振り続けていた。帰りの車の中で永太は、いつもBGM代わりに聴いているFMラジオも掛けずに、ただじっと雨の音を聴いていた。無意識にハンドル操作を繰り返しながら、永太はずっと美咲の事を考えていた。大学一年の時に出会い、半年で付き合いはじめてから、もう四年が経つ。この四年間、多くの時間を共に過ごし、思い出を共有してきた。それなのに今は、彼女がとても遠い所にいる気がした。
美咲は出会った時の印象そのままに、心優しく聡明な女性だった。友人も多く学業にも熱心で、充実した学生生活を送った美咲は、春から近隣市町村の市役所職員として働いていた。美咲の仕事ぶりは順調な様だった。持ち前の明るさと心優しさで誰からも慕われる美咲は、職場でも同僚、市民を問わず人気があった。そんな美咲の様子に反して、永太はこの八ヶ月間、仕事に忙殺され、酷くなる心の荒廃に苦しみ続けていた。自分に余裕が無くなればなくなるほどに、永太は無意識に美咲と距離を取るようになり、この2ヶ月間はまともに顔を合わせない日々が続いた。幾度救われたか分からないあの美咲の笑顔を見ると、自分の荒んだ現状がより一層明瞭になってしまう気がして、永太には距離を取る他無かった。
永太が営業所に戻ってきたのは二十一時も半ばを過ぎた頃で、結局上司には電話でしか報告する事が出来なかった。広いオフィスに僅かばかりの明かりを点け、永太は一人デスクに向かって報告書の作成に取り掛かった。ふと、永太は夕方の美咲との電話を思い出した。電話口の向こうで、細い肩を緊張させながら、努めて静かに話す美咲。きっと彼女は、自分と電話をする為に、色々な言い訳を考えたのだろう。永太を傷つけず、気を遣わせず、あくまで自然に電話を掛けるための口実を、その優しく繊細な心でずっと探していたのだろう。永太を思い遣る美咲の悲しげな瞳が、永太の心に鋭く突き刺さった。罪悪感と愛おしさとが激しく渦を巻きながら永太の心を突き上げる。永太はきつく顔を歪めて、歯をぎりと食いしばると、頭を抱えて目の前のデスクに突っ伏した。
自分が悪いのだ。何もかも。美咲の明るい笑顔が自分を苦しめるなどと、狭量で自分勝手な理由を持ち出して、彼女から笑顔を奪っていたのは他でも無い自分なのだ。細い肩を震わせ、要らぬ心配をさせながら、電話を掛ける為の口実を探させていたのは他でも無い自分なのだ。充実した美咲に嫉妬して、苦しみを共有させようと優しい彼女を追い詰める。そんな自分の醜さが酷く恐ろしかった。情けない。馬鹿馬鹿しい。自分の余裕の無さを理由に、この世で最も大事なはずの女性を苦しめてしまうなんて。
永太はゆっくりと目を開けた。デスクの上に置かれた報告書をおぼろげにみつめながら、激しい感情の奔流をやり過ごそうとしていた。しかし、ひとたび爆発したその感情を上手く制御する事は出来なかった。永太はもう一度きつく目を閉じ大きく息を吐くと、書き掛けの報告書を乱暴に鞄の中に突っ込み、すっくと立ち上がった。そして、決然とした表情を浮かべると、足早に営業所を後にした。
市内北部にあるターミナル駅のロータリーから一つ裏路地に入ると、美咲の住む賃貸マンションがある。独身者向けの低層マンションで、美咲はこの春から1DKの部屋を借りて一人暮らしを始めていた。
カーテンを閉め切った暗い室内の隅、そこに置かれたベッドの中で、美咲は細い体を小さくして、眠れない夜を過ごしていた。窓の向こうには、いつ降り止むともしれない長い雨の音が途切れる事なく続いていた。
美咲はベッドに横になりながら、自分の好みで選んだ、ベージュを基調としたチェック柄の壁を、力の無い目で見つめていた。脳裏に、四年前から変わる事の無い永太の真っ直ぐな瞳が、次々に浮かんでは消えていく。
永太に聴いて欲しい事がたくさんあった。日々の小さな幸せを永太と一緒に感じたかった。彼のあの優しい瞳の前でなら、美咲は自由に自分を表現する事が出来た。しかし、永太が仕事に追われるようになってからは、満足に会う事も出来なくなってしまった。もう限界なのだろうか。幸せだった頃の様に、彼のあの瞳に見つめて貰う事はもう叶わぬ願いなのだろうか。
その時だった。美咲の脳裏に浮かぶ永太の瞳の奥に、今まで感じた事の無い、孤独の色が垣間見えた。
美咲は目を瞠った。無意識に身体に力が入る。心臓が早鐘を打ち始める。
振り返ってみればどうだろうか。自分は永太に自分の事しか話して来なかったのでは無いだろうか。彼の日々感じる幸せや苦しみは放っておいて、自分の事ばかり彼に聴いてもらっていたのではないだろうか。永太は日頃口数の多い方では無い。そんな永太の瞳に言いしれない孤独を垣間見た時、美咲は自分の身勝手さを恥じた。
どうしようも無く永太に会いたかった。これまでの身勝手な自分を心から謝りたかった。そしてこれまでの永太の優しさに心から感謝したかった。そして何より、永太に聴かせて欲しい事がたくさんあった。彼の感じている幸せや苦しみを自分も同じように感じたかった。その苦しみを少しでも和らげてあげられる様に。
美咲は一層小さく体を縮こめると、声も無く泣いた。どれだけ願ったとしても、もう取り返しのつかない場所まで来てしまったのかもしれない。夕方の電話での、苦しげな永太の声が脳裏に重く響く。あの声を救ってあげるには、自分はどうすれば良かったのだろう。
会いたかった。ただ会いたかった。永太を希う気持ちだけが加速度的に膨張していく。そんな気持ちの膨隆に反するように、永太の陰は遠ざかっていった。立ち尽くしていた美咲に、追い掛ける術はもう残されていなかった。
その時だった。
テーブルの上に置いていた携帯電話がけたたましい着信音を鳴らし始めた。美咲はベッドから飛び起きると急いで携帯電話を手に取る。発信者の名前を表示する画面を見て、美咲は息を呑んだ。
『長谷川 永太』
美咲は一瞬何が起こっているのか分からなかった。永太が自分に電話を掛けている。日付も変わろうとしているこの時間に。まだ仕事を続けているのだろうか。美咲には電話の目的が分からなかった。最悪の結末が脳裏をよぎる。この通話ボタンを押せば、もう二度と帰っては来られない様な、そんな気がした。
それでも美咲は恐る恐る通話ボタンに指をかけ、大きな深呼吸と共に電話に出た。
「もしもし」
もう何日も声を発していなかったかの様な、弱く情けない声だった。自分の声を聴いてから、美咲は涙声である事を相手に気取られていないか不安になった。電話の向こうには雨音が聞こえる。どうやら永太は外にいるらしかった。
「美咲。夜遅くにごめん。寝てたか?」
永太は矢継ぎ早に言った。その声からは大きな焦りが感じられた。
「ううん。大丈夫だよ。何?」
永太の焦燥とは裏腹に、美咲は噛みしめるように言う。
「悪い美咲。夕方は行けないって言ったんだけど。実は今美咲の部屋の前にいるんだ」
「え?!」
美咲は驚いて玄関の方を振り向く。暗い廊下の先、深緑の鉄扉の向こうに永太が居る。美咲はすぐには動く事が出来ず、僅かな時間沈黙した。しかしすぐに我に返ると、立ち上がって玄関に向かった。鍵をあけドアノブに手を掛けた時には、胸の鼓動は頂点に達し、今にも張り裂けてしまいそうだった。それでも、もう美咲に迷いは無かった。
美咲はゆっくりとドアを開けた。
「美咲……」
携帯電話を持ったままドアの前に立ち尽くしていた永太は、いつになく真剣な眼差しで美咲を見て、一言、それだけしか言わなかった。
永太はこの雨の中を走ってきたのだろうか。呼吸は僅かに荒く、顔はどこか上気していた。そして、美咲にも見覚えのあるコートが雨に濡れていた。
「走ってきたの? 傘は?」
「途中までさしてたんだけど、走りにくかったから」
「そんな急ぐ事無いのに。風邪引いちゃうよ。入って」
美咲はそう言って永太を部屋に招き入れた。鉄扉を閉め、鍵を掛ける。振り向いて上がり框を上がろうとしたその時、美咲は勢いよく肩を掴まれた。
「ッ……!」
美咲の体は翻り、永太の胸に顔が触れる。その両腕が美咲の肩から背中へと伸びる。ずっと探していた温かな体温が美咲を包んだ。
その瞬間、美咲は永太にきつく抱きしめられていた。
一瞬の緊張。その後に、美咲の体を迸っていた感情が、永太の体温の中で穏やかに解きほぐされていった。呼応する様に美咲の身体の緊張も解けていく。無意識に美咲の腕も永太を優しく抱きしめていた。
二人はそうしてしばらくの間お互いを重ねていた。その時間はどこか現実感を欠いていて、一瞬の様にも、永遠の様にも感じられた。二人の意識をその場に繋ぎ止めていたのは、鉄扉の向こうに聴こえる止むことの無い雨の音だけだった。
「美咲。一つだけ質問しても良いかな」
ふと、現実を取り戻す様に、永太は言った。肩越しに語り掛けるその声音に焦燥の色はもう無い。
「うん」
「俺に美咲の傍にいる資格はあるかな」
美咲はその質問にすぐに答える事が出来なかった。答えそのものに窮したのではなく、何故そんな質問をするのか、永太の真意をはかりかねたからだった。そんなもの、答えなんて一つに決まっている。聴くまでもない事のはずだった。
「どうしてそんな事を聴くの?」
美咲は永太の胸から顔を上げ、真っ直ぐに永太を見つめて言った。その表情には、嘆きとも寂しさともつかない感情が浮かんでいた。美咲は永太の背中に回していた手をきつく握りしめる。
「何でそんな事を聴くの? この数ヶ月の間、私がどんな気持ちで永太を思ってきたと思う? 永太が一人で色んな物を抱え込んで、誰にも打ち明けられないままに苦しんでいるのに、そんな事も知らずに私はのうのうと生きていた。気づいた時にはこんなに距離が出来ていて、どうしてこんな風になっちゃたんだろうって、どうしたら良かったんだろうって、ずっとずっと後悔してた」
美咲は溢れそうになる涙を隠す様に顔を伏せて言い続けた。握りしめる両手はもう、半ば永太にすがりつく様だった。
「ずっとずっと考えていて気づいた。私は永太が好きなんだって。他の何よりも大事なんだって。永太が居なくなってしまったらって考えるだけで他のどんな事より恐ろしいんだって。なのに、なのに、資格だなんて、そんな言葉使わないで……」
取り留めもなく訴える美咲の声。最後は弱々しい涙声だった。
「俺は美咲を自分勝手な理由で追い詰めて独りぼっちにしてたんだ」
「自分勝手な理由って何? 教えてよ! 永太はいつもそうやって、自分の心の中だけで抱え込んで、私の知らないうちに遠くへ行っちゃう。もうそんな事させない。絶対に……させない」
美咲の細い肩が震えていた。小さなその手が永太をきつく掴んで放さなかった。美咲の必死の思いに、永太はいつかの愛おしさを反芻させた。
「美咲の笑顔を見るのが辛かったんだ。美咲は何も悪くないのに、美咲の笑顔を見ていると、荒んだ自分の日常がありありと感じられてしまう様で苦しかったんだ。あんなに大好きだった美咲の笑顔を、守るって決めていたのに。そんな自分に気づいた時、美咲の傍に居る資格は無いって、そう思ったんだ」
永太は静かに言った。固く鎖していた心の内を明かす様に。
「永太。独りにさせていたのは私の方だったんだよ。永太が何かに苦しんでいる事を知りながら、それを見ないようにしていたのは私の方なんだよ。だからお願い、これだけは忘れないで」
美咲は顔を上げた。涙で滲んだ美咲の瞳がまっすぐ永太を見据えた。
「私達はきっと知らない所で、同じ物を見て、同じ感情を共有してる。永太が苦しいと、同じ様に私も苦しいんだよ。永太が嬉しいと同じ様に私も嬉しいんだよ」
闇に包まれた廊下の中、二人の吐息と雨音だけが聴こえていた。幾重にも折り重なる無数の雫は、空と大地を繋ぎ止める様に、二人をただそこに繋ぎ止めていた。
悲しみも喜びも、惹かれ合った二人には同じ様に降り注ぐ。
世界を等しく濡らす、長い長い雨の様に。
世界を等しく照らす、雨上がりのあの光の様に。
―Fin―
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