第3話
限りなく低次元に気疎さを感じながらも諦観しながら過ごしていくうちに、私を傷付ける者が多く現れた。意味なく殴る者、蹴る者、罵る者、ナイフで切りつけられたこともあった。
ただそれらに怒りや悲しみを感じた記憶はない。その瞬間不快なだけで、過ぎ去る物事を季節ほど気にはしなかった。
とある日に一人の青年が私の前を通りかかった。私を見て歩みを止め、深くため息をつく。表情はその日の天気に合わせたような薄暗さだ。それからしばらく時間をかけ何かを考え込んでいるようだった。
青年はまるで映写機をゆるく回しているかのように、ゆっくりと足元に両手をつき、泣きながら懺悔した。
「すまない。もう無理だったんだ。すまない。これ以上はもう…。」
私の奥に何かを見ているようだった。そして、その潤みを充分に含んだ瞳には揺ぎ無い、ある決断を秘めていた。この青年にこの先幸多かれと願った。理由はわからないが、そう願わずには得ぬほどに、青年は追い詰められていた。
しかしこの―不幸であろう―青年を幸福にすることはできないし、青年も私という存在がいることにすら気付いていないだろう。その青年にとって私は、壁でも良かったのだろうから。
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