第2話「次回作」

「次の作品、主人公が死ぬ話にしようじゃないかと編集長から提案が出ているんですが」

 雑誌のインタビューから数ヶ月後、とある小説家は継続して単行本を出させてもらっている出版社の編集部で、担当編集からこう言われた。

「主人公が死ぬ話、ですか」

「×××××さんの作品にはなかったから、一度やってみて欲しいと」

 小説家は、乗り気ではない。担当編集にもそれは十分伝わる。

「何か、やりたくない理由でも?」

「……雑誌のインタビュー、読みましたか?」

「もちろん。担当編集としては他社の雑誌であっても目を通しておくべきものですから」

 彼は自分とちゃんと向き合っているから解ってくれる。小説家はそう感じ、安心した。

「主人公が死ぬ話、それを書いたとき、主人公に取り憑いている私自身がどうなるか、想像がつかないのです」

「……なるほど、一度編集長に──」

「そんなオカルトありえるか」

 担当編集を遮ったのは、いつの間にか近くに来ていた編集長。

「×××××君の作品は基本的に一人称が多いんだよ。確かに主人公から見た描写については僕も評価する。今まで見た作家の中で最高と言っていい。でも、そればかりでは読者も飽きてしまう。実際に世間に出るかはともかくとして、新境地を開いておくのもよいと思うんだ」

「……判りました、やってみます」

 とある小説家はゆっくりと、編集部を去っていった。

 数日後、新聞の社会面に大きく見出しが載る。

『小説家×××××、自宅で死亡 遺体に目立った外傷なし 警察、事故と事件の両面で捜査』

 もちろん、それは編集部の耳にも届く。新聞を読んだからというのはもちろんだが、もし編集部の誰もが新聞を目にしていなかったとしても、ファンからと思わしき電話が多数、編集部に掛かってきていたからだった。

「大変なことになりましたね」

 電話対応が落ち着いた所で、担当だった編集部員が編集長に話しかける。

「原因調査も必要だが、まずは遺族に謝罪に行くぞ」

「はい。──しかし、気になっていることが」

「ああ。あの作品との関連だな」

「主人公と深く結びついて小説を書く作家が、主人公が死ぬ作品を書くとき」

「作家が死ぬ。そんなオカルト、信じたくないな」

「あり得ない訳ではないんですね」

「それを否定したら、作家を否定することにもなりかねん」

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