第27話「切札」

第二十七話ー「切札」


 滝川が最上階のフロアを小走りに歩いて社長室に向かっている。


 社長秘書が寄越す朝の挨拶に気も止めず、慌ただしく社長室に消えていった。


ーーー出ましたよ、が!


ーーーん?


 小野田は一瞬何のことかと気色ばむ滝川の顔を見直したが、すぐに例の「機密File」のことだと悟って


ーーー例の、、、アレか?

ーーー最難関のを力技でねじ伏せて、こじ開けたら出て来ましたよ、、、が。


 小野田は、興奮を抑えるように煙草に火を点け滝川の話の先を待った。


ーーーそれが、冗談抜きの、正真正銘の「埋蔵金」だったんですよ

ーーーなんだ、それ?


 滝川は小野田のデスクの前にFileの中身のコピーを数枚広げ、言を繋いだ。


ーーー60年代の後半から、「警察庁」の機密費の一部が、庁内の「隠し金庫」の中に積み流しされていて、それは歴代の「警察庁長官」「副長官」「長官官房長」がその明細の「確認書」を作り記名捺印されたものが残されているんです。


ーーーそいつらって、まさに「警察庁」のトップ3じゃないか


ーーー「隠し金庫」がどこにあるかまでは分かりませんが、いずれにせよ、これは大掛かりかつ凶悪な「横領」ですよ。


ーーー歴代のトップ3が、皆知ってたってことになると、歴史的犯罪だな。


 滝川はその凶悪な「横領」の中身をさらに披瀝ひれきした。


ーーー2000年代に入った頃にそれらの紙書類はすべてスキャンされ電子Fileとして残されるようになったみたいですね。それで、歴代のトップ3や他、「国家公安委員会」の上層部のメンバーなどは、退官する際にそのから「慰労金」として5000万から1億近くの金を受け取っていた記録まで残ってます。


 小野田は、絶句した。と言うよりも、呆れて次の言葉が出て来なかったのだ。



ーーー腐ってる、、、すぎる、、、、それにしても、こんな機密事項が、、、


ーーーええ、、、表に出たら、、、国がひっくり返るような騒ぎになりますね。


 小野田の脳内CPUがフル回転で唸りを上げていた。


ーーー滝川!、こいつはすぎるな。とんでもない箱を開けちまったかもしれんぞ、、、


ーーー確かに、、、核弾頭なみに危険ですね。


ーーーお手柄のメンバーには相応のボーナス出してやってくれ。で、アジトも畳んで証拠残さずしばらくどっか海外で静かに冬眠させろ。このFileの元データーもお前が責任もって消すんだ!


ーーーわかりました、、、さっそく


ーーーあ、いや、待て。三枚だけ、メモリーチップにコピーしてくれ、三枚だけだぞ! そのうち一枚をお前が持ってろ、厳重に保管してな。


ーーーで、あと二枚は?


ーーー俺と、明石に渡してくれ。 これは、俺たちの最後の命綱になるかもしれん。明石にもその旨を言って、3人だけの極秘事項だと伝えろ。


ーーー柴田専務には?


ーーー必要ない、俺と、お前と、明石の3人だけだ。言っとくぞ、これは最後の最後に使う切り札だ。会社と自分の身を守るためのな、、、


ーーー承知しました。


 部屋を出る滝川の背中を目で追いながら、自分たちがどす黒く渦巻くブラックホールに巨大な力で引きずり込まれていくようで、流石の小野田も背中に嫌な汗をかき、両の膝が震えた。



                (第二十七話ー了)


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