第28話「明石」
第二十八話ー「明石」
明石の元に、衆議院議員 袴田幸太郎の秘書、朝倉から電話が入った。
ーーー明石さん、ちょっと尻に火が点いてきましたよ。
ーーーと、、、申しますと?
明石は、朝倉の声音にいつもの冷静さがないことに不安を感じた。
ーーー鹿島さんと、先生の関係を地検がかなりのとこまで追い込んでるらしくて、近く私は特捜部に呼ばれるかもしれません
ーーーしかし、「鹿島」さんとこに、
ーーーええ、それは万全だと鹿島さんはおっしゃってますが、特捜は同時にFDCさんサイドからも追ってるらしいんですよ。私が心配するのはこっちなんです。
大丈夫なんですか?明石さん、、、
ーーーいや、うちも万全に手を打ってます、ご心配には及びません。
ーーーオタクと大川さんとの関係が表に出ても?、、、ですか?
ーーーえ?、、、それは
明石は瞬間に悟った。そっちの線は甘い、、、と 「FDC開発」は部下の木下を通じてコントロールさせているが、元々、名古屋地盤の中堅不動産開発会社を買収して出来た会社であり、実務は元の社員の殆どが担っていたので、目の届かないこともあるのは事実だったのだ。
ーーーそっちから火が点けば、芋つる式に、こっちまで火の粉を被りかねませんよ?
朝倉の声は抑揚が無い分、迫力があった。
ーーーわかりました、私が責任もって綺麗にしておきます。
ーーーお願いしますよ?事態は急を要します。県警のマル暴が動くという情報も入手してます。
今、マル暴に動かれたら、万事窮すだ。あそこは一番守りが甘い
ーーー私は、万が一事情聴取されても黙秘で通します。絶対に先生を守らねばなりませんので。ただ、、、
ーーーただ?
ーーーその為には、我々はなんでもする覚悟だと、だけお伝えしておきます。
電話を切った明石は、朝倉の「なんでもする」という言葉が不気味で直感的に身の危険さえ感じた。
明石は、急ぎ背広を羽織り「FDC開発」へ向かおうとしたが、役員室のドアの前で踵を止めた。
そしてデスクに戻り木下を呼び出し、すぐに部屋に来るように命じた。
木下は、明石の配下でFDCでは財務部長という役職にある男だった。明石はこの男の生来の「渉外能力」を高く買っていて、「裏の仕事」にも使っていた。
ーーーすぐに「FDC開発」に飛んでくれ、
「FDC開発」は岐阜に事務所を構えていた。
木下は、ザビエル禿げの頭をチョコんと下げて、役員室を出て行った。
明石は、袖机の上の引き出しの裏に貼り付けておいた メモリーチップを剥がし、そっと財布にしまって部屋を出た。
(第二十八話ー了)
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