第26話「刻々」
第二十六話ー「刻々」
柿山の捜査に進展があったのか、えらく勇んで例の珈琲テェーン店に駆け込んで来た。
橙子は、昨夜の自分が今ここに座っている自分と同一人物なのか、柿山が目の前に座るまで思いを巡らせていた。
ーーーなに?姐さん、、、二日酔いか?
柿山に見咎められ橙子は強引に意識を戻した。
ーーーまっ、そんなとこね。女一人、眠れない夜もあるのよ
ーーー呼んでくれたらよかったのに
ーーー要らんシ
シャキン、とガン飛ばして目の前のオヤジをねじ伏せた。
ーーーで?、なんか掴んだの?
柿山は大仰に頷いてニヤリと笑った。
ーーー「大川組」と小野田の接点が掴めた。
柿山は何も注文してないことに気づき、慌てて店の入り口で珈琲を注文し受け取って戻ってきた。アイス珈琲にストローをさして話を続けた。
ーーー小野田は、政界の要人への仲介役に大川組長を使ってたんだ。それも、間に「鹿島急便」の鹿島社長を一枚カマしてだ。その先の政界の大物、、、誰だと思う?
橙子が無言で先を急がせる。
ーーー「政友党」幹事長、袴田幸太郎だ。
ーーー(なるほど、、、そんだけの大物だから特捜もやっきになってるのね)
橙子は羽田との昨日の会話を思い起こしていた。
ーーー東京の銀座の会員制クラブで、小野田と袴田が会っている目撃情報が取れた。おそらく、小野田から袴田へのヤミ献金授受の現場だろうな。
ーーー証拠がないじゃない 秘書のメモとか帳簿みたいなのでもあるんなら別だけど。
ーーーそれがだ、、、近々 公設第一秘書の朝倉って男が特捜に呼ばれるかもしれないって、情報もある。
ーーーふーーん。で、それは特捜
ーーーまぁー、そうせかしなさんな、って
柿山は一気に喋ったからか、アイス珈琲を飲み干し煙草に火を点けた。
ーーー「栄」の料亭で、FDCの柴田と小野田が 「東海コンサルタント」の浅井も同席させて、「大川組」の大川組長、若頭に会ってるのを、料亭の中居から証言が取れている。
ーーーそれで?
ーーー三年前、『リニア中央新幹線』の途中停車駅が公になったけど、FDC傘下の「FDC開発」はその一年前から名古屋側の停車駅が岐阜のどこにに決まるのか知っていたんだ。で、駅舎候補地近辺の土地を買い占め出した。
ーーーその地上げに、「大川組」が関わった、ってことね?
ーーーその通り!。ピッタシカンカン!
橙子にはピッタシカンカンの意味が分からなかった
ーーーちっ、”なに、いってんだか、わかんない”
「FDC開発」ー「大川組」の地上げ協力。これはぴったり「暴対法」に当て嵌まる。
柿山が声を潜めて言った。
ーーー近く、「FDC開発」に県警4課のガサが入るぞ。そこにオレらも入る。
本庁から県警には根回ししてある。手柄は山分けで
橙子は、いよいよ鷺森橙子として小野田に対峙する日が近いことを知った。
(第二十六話ー了)
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