第17話「尾行」

第十七話ー「尾行」


 柿山は、柴田のゴツイ背中を追っていた。


 名古屋市内、「栄」の繁華街を柴田は時折背後を気にしながら歩いている。人通りの多い筋を何度か右に左に折れ、一度通った道に戻ってまた進み、ようやく一軒の居酒屋の暖簾を潜った。

 柿山も少し間を置いて店に入った。


 柴田は奥の四人掛けの席にこちらに背を向けて一人座っている。

 その四人掛けの席の向かい側がカウンター席になっていて、ちょうど一番端が空いていた。着崩れした紺のスーツに銀縁メガネで、、というサラリーマンが持つ黒カバンを小脇に抱え席に座った。


 ほどなくして、一人の男が柴田の前にペコりと頭を下げて座った。浅井正樹であった。「東海コンサルタント」の社長をしている男で、愛知県警「」の情報から、この男が唯一「事案」でFDCとの関係が疑われる人物である。

「東海コンサルタント」が指定暴力団「大川組」の企業舎弟であることは既に県警でも掴んでいたが、FDCとどう関わっているのかが未だに闇の中であったのだ。


 ただ、柴田と浅井は大学の空手部の先輩後輩の間柄なので、こうして酒を酌み交わしても疑われることはない。

 時間はまだ、夕方の5時過ぎで、会社帰りの客もまばらであったので、微かではあるが二人の会話は耳にできた。


 ーーーで、今度は赤ですか? それとも青ですか?

 ーーー赤が堅い、ってよ。


 柿山は、突出しのキムチをにビールを飲んでいる。


 ーーー(なんだ、、、赤、とか青、、、って)


 さらに聞き耳を立て二人の会話を探ろうとするが、いきなり男女6人組の客が入って来て、にわかに店内は喧騒立った。


 ーーーって、、、ことは、、、、○×▲、、、ですか?


 ーーーー、、、だな、、、それと、、 3、5、:::2、1:::


 さっきの団体客の声で二人の会話がかき消されて、それ以後、聞き取れる状況にはならなかった。


 1時間ほどして、柴田が先に席を立ち店を出て行った。柿山も伝票を掴み会計を済ませ表に出た時には既に柴田の姿は人混みに消えていた。

 先ほどの二人の会話を反芻しながら、裏路地を歩いていると、柿山は背中に気配を感じた。二つの黒い影が付いてくる。


 ーーー(気取られたか?、、、)


 柴田は足早に表通りに出ようとした時、背後から男の声が飛んで来た。


 ーーー柿山さん、、、、、ですよね?


 振り返ると、スーツ姿の男が二人立っていた。


 ーーー「」特捜の柿山さんですね?

 先ほどの声の主と違うもう一人の男が聞いてきた。

 柿谷は一瞬逡巡したが、二人の男の顔を観察し観念したように応えた


 ーーーですけど、、、、さん、、、、?


 警察は容疑者を逮捕し検事がそれを起訴し有罪、無罪を裁判所が決定する。これまで日本の刑事事件において、一旦検察官が起訴、つまり有罪だと判断すると99%近くが有罪判決が下りている。

 刑事事件を取り扱う警察組織と検察機構は相互協力が建前であるが、組織権力においては検察機構が上部に位置する。


 ーーー(ちっ、、、情報ネタのただ食いかよ、、、)


 柿山は黙って、二人にされていった。


                   (第十七話ー了)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る