第12話「糸口」

 名古屋に帰って、橙子は情報交換のために柿山を呼び出した。


ーーー「サイトウ アキ」の方、大丈夫なんでしょうね?あの男のことだからきっと念入りに調べさせるよ?


ーーー大丈夫だ、、、、ろう、たぶん

ーーーおいおい、、、こっちは、身体張ってんだよっ!

ーーー「本庁」のサーバーが破られるか、両親探し出して来てご対面でもさせない限りはバレないよ、、、うん、、、たぶん。本物はいまだに、タイで行き方知れずらしいし。


 他人事のように言うこの男の顔を殴りたくなったが、その油でテカった顔を見て止めた。


 ーーー小野田は岩田耕三を実の父親と認めたわ、公になることを怖れてない。


 ーーーまっ、岩田はもうの人だからな、今更騒がれても、影響は少ないと読んだんだろう。


 ーーーFDCをそれだけで”反社会勢力”と関わりアリ、ってするのは三流雑誌ぐらいだわね、、、ヤツを潰すには現役ヤクザ組織と直接関わっている証拠あげなきゃね。

 やっぱり「地検」事案マターか「公安」事案マターの線で攻めるのが遠回りでも確実かもね。


 橙子の言う別件事案じあんとは、「贈収賄」や「インサイダー取引」、「サイバーテロ」と言った容疑の事である。


 柿山は鞄からファイルを取り出し、一枚の写真を摘み出して橙子に見せた。


 ーーーそうでもないぞ。この男なんだが、、、、


 柿山が何か掴んで来たらしい。橙子はその写真に視線を落して柿山の話を待った。


 ーーー愛知県警の「」(組織犯罪対策課)が握っている情報を、今後が得る捜査情報と交換バーターする約束で廻してもらったんだが、この「浅井正樹」って男がFDCと繋がってる可能性があるらしい。


 ーーーほぉー


 橙子は視線を柿山に移して、その先を待った。


 ーーー「東海コンサルタント」というな会社の代表やっているんだが、何のなんの、裏では株や為替取引でかなり収益を上げてるらしいんだ。

 で、、、だ、、、


 柿山は先をもったいつけるように珈琲に口を付ける。


 ーーーその金が「大川組」に運上金として流れているらしい。


「大川組」は神戸に本拠を持つ全国組織規模の指定暴力団「山一組」の直系団体である。


 ーーーこの、浅井がFDCにどう関わってるって?


 柿山は、ファイルをめくりFDCの役員名簿のページを開き指でなぞって探し


 ーーーコイツ、、、専務の柴田大輔シバタダイスケとは、大学の空手部の先輩後輩の関係だ。


 添付されている、柴田の写真は、ゴリラがスーツを着たような男で、思わずプッ、と吹き出した。


 ーーーいかにも、鹿、って感じね。

 ーーーだが、FDCの暗い影の部分は、全部こいつが仕切ってるんだとよ

 ただ、でも、そっから先の切り崩しに手を焼いてるらしいがね、、、


 ーーー、、、か

 橙子は、少し危険を犯しても小野田からその糸口を掴まねばならないと、捜査官としての顔になっていた。


 ーーーで、、、小野田に会った印象はどうだった?

 ーーーどう?、、、って?


 柿沢の目に、よこしまな詮索の二文字が浮かんでいる。それを察してか橙子も声音に艶を乗せて応えてやった。


 ーーーイイオトコよ、、、危うくられそうになった。

 ーーーふっ、、鷺森橙子も、いいオトコには弱いか、、、


 橙子は「マルボロ」に火を点け、紫煙を柿山の鼻に吹きかけて


 ーーーそう報告してもいいわよ、 青瓢箪に、、、 

 青瓢箪、それは橙子の上司である、木戸警視正(課長)のことである


 ーーー枕捜査ハニートラップも欧米のEgencyじゃ、普通に使ってるしな、、、


 橙子はテーブルの下で柿山の膝をゴツンと蹴り上げた。

 柿山は身体をくの字にして、悶絶の呻きを漏らしている。


 ーーー次は、だよっ


柿山は、「カンベンシテ」の代わりに首を振って見せた。


 橙子はケラケラ笑った。


                (第12話ー了)

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