第11話「疑念」
月曜の朝、小野田は「京都駅」始発の新幹線で名古屋に戻り、マンションに帰ってシャワーを浴びそのまま出社した。
矢神真咲に明石に部屋に来るよう伝え、珈琲を一口飲んだ。
早々に明石がスーツの前ボタンを留めながら部屋にやって来た。
ーーーこの女の素性、洗ってくれ
そう言って、一枚の名刺を明石に手渡した。
ーーー フリーライター サイトウ、アキ、、、この女が何か?
ーーー土曜日からずっと俺を付け回してた。
明石は小野田が先週末から京都に帰っていたのを知っている。瞬時に思考を巡らせ、その女が小野田の実父の件で嗅ぎ回っていると推測した。
ーーーオヤジさん、の件で?
ーーーああぁ、その件はもういい、書かれたっていいんだ。ただ、その名刺の肩書き通りの女なのか、、、どうかだ。
ーーー
ーーーちょっと、その匂いがある、とにかく調べてみてくれ
ーーー承知しました、午前中いっぱい時間ください。
健斗は、昨日、「サイトウアキ」と食事した際に、女の
珈琲カップを皿に戻し、スマートフォンに残された「サイトウ アキ」の写真を見ながら昨日の事を反芻していた。
結局、あれから出町柳辺りから四条まで鴨川べりを並んで歩き、アキはポツリポツリと自分の経歴を話して寄越した。以前、タイに住んでいたことや、そこではFX(外為投機)をやってそこそこの金を掴んだことなど。男関係は笑って誤魔化したが下世話な下ネタには付いて来た。
その途中でアキが無防備に大きな口を開けて笑っているところをスマートフォンで写真に撮ると
ーーーおねがーい、消してぇー やだぁー
と、小娘のように自分のスマートフォーンを奪おうとジャレて来たりした。
四条大橋の袂まで来ると、既に陽は西に傾いていて、
「Kyoto Westin」に宿泊していると聞き、タクシーで送っていこうかと誘ったが
ーーー送ってもらうのは、嬉しいけど、ロビーまでよ?
ーーーやらせろよ
ーーーイイオトコはそんな下品な誘いはしないのー
ーーーちっ、アホらし、、、
そんなやり取りを思い起こし緩む口元に真咲の視線を感じたのか、早々にスマートフォンの窓を閉じた。
昼過ぎに、明石が手にビニールファイルを持って部屋に来た。
ーーーどうだった?
明石はビニールファイルから資料らしきコピーを数枚取り出しながら答える
ーーー結論から言うと、、、シロに近いグレー、というとこでしょうか?
ーーーん、、、聞こうか
【斉藤亜希】:出処は京都府丹後市 地元高校を卒業後 同志社大学文学部英文科に進学、四年で卒業後、大阪の出版社に勤めるも、人間関係からか3年で退職その後タイのチェンマイに渡り、数年滞在していたようでだが、そこからの消息が曖昧で、「入管記録」では一昨年に帰国。その後フリーのライターとして活動を始める。所属の「秀文社」には、【真相エリートヤクザ】という月極め記事を寄稿している。両親はタイ滞在中離婚、兄弟はなし。
添付として、大学時代の証明写真と寄稿記事のコピーが添えられていた。
ーーーフリーですが「秀文社」には契約社員で確かに在籍してるということでした。裏はとってます。
小野田は、手渡された「サイトウアキ」の学生時代の証明写真を凝視した。それは眼鏡をかけ前髪を下ろしていて確信は持てないが、昨日の女には似ている。
ーーーで、なんで、グレーだと?
ーーーいや、それは私のカンというか、、、
ーーーいや、いい、言ってくれ
ーーー出来過ぎ、じゃ、、、ないかと。
絵に描いたような、それらしい経歴だと、、、
ーーーなるほど、、、
小野田は、この明石という男の危険回避の”嗅覚”みたいな能力を何度も垣間見て来ている。
ーーーちょっと時間は掛かりますが、この名刺に残されてる「指紋」を滝さんに頼んで、「警察庁」の「データベース」に入ってもらって調べてもらうこともできますが、、、
ーーーオマエ、、、、知ってるのか? 滝川が抱える奴らのこと。
「情報分析担当」の滝川常務は配下にサイバー攻撃部隊を抱えている。
ーーーあぁ、、、もう、何度もお世話になってますよ、滝さんには。
小野田は小考した後
ーーーその
なぜあの時明石に指示を出すのを躊躇ったのかーーーと、後に小野田は大きく後悔することになるのだが、今はまだ知らない。
(第十一話ー了)
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