第4話「特捜」

第四話(特捜)


「東京地方検察庁特別捜査本部」、通称「特捜」から木戸にがついたらしい。

「特命」は動くなーーーという圧力である。むろん、功名心に逸る木戸はやんわりと突っぱねたと言う。


ーーーは、あくまでで動いてますんで、、、


つまり、政治家への”贈収賄”に関してはを通すということである。その旨を爬虫類のような声音で橙子に伝え、くれぐれも暴走するなと念を押して、さっさとを切った。携帯電話の待ち受け画面のデジタル時計がーAM7:07ーを示している。


ーーー(ちっ、、、失敗は部下の責任、手柄はオレのもん、、、か)


 橙子はスマートフォンを枕に投げつけ、もう一眠りした。

まどろみの中、橙子はかつて激しく肌を合わせ将来をも約束していた男のことを思い出していた。その男もまた「検事」であったから。


      ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


にある「検察合同庁舎」(6号館A塔)が、そのである。

 朝晩の気温が20℃を切り出した九月も半ばの朝、羽田健太がその”本丸”目指して霞ヶ関にやって来た。先々週、勤務地の「高松地検」の庁舎で辞令を受けたのである。


【東京地検特捜部】勤務を命ず。


 その辞令は、検事を目指すものなら一度は夢見るものらしい。検察のエリート集団「特捜本部」ーーー望んで誰もが行き着ける場所ではない。

 羽田は大股闊歩してその庁舎に入って行った。


羽田健太ーーー(36歳)中央大学法学部法科大学院卒 


羽田が、検事を目指すと言い出したのは、法科大学院の二年の頃であった。大学の後輩である橙子とはこの頃知り合っている。

 橙子が”準キャリア”(国家公務員試験二種)を受け警察庁に採用になってまもなく、羽田は研修を明け、検事として歩き始めた。

 羽田は、地方の検察庁やAでの勤務を交互に繰り返す中も”遠距離”ながらそのは続いていたーーーそう、があるまでは。


     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 橙子は、すでに眠気も覚めていたが”あの事”の記憶が蘇って来て枕に顔を沈めて息を潜めた。

”あの事”ーーーいや、”あの男”の記憶である。それは未だにひょっこりと顔をもたげ脳の奥底に深く染み込んだのように、橙子の身体を邪悪な欲望に駆り立てるのであった。


 橙子は疼き始めた身体を鎮めように熱いシャワーを浴びながら、斎藤亜希サイトウアキとしてどう小野田健斗に近付くか、それだけを考えようとしていた。

  


                      (第四話 了)

            

 

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