第7話

「浄心、ポイント通過。転線は問題ありません」

 捜査情報端末を介して、藤枝が報告する。6104Fは渡り線を通り、上小田井方面ホームへ進入。電車が大きく揺れる。

『本部担当、捜査一課田崎管理官よりCPへ。交通局側の要請により、上小田井駅でSATを突入させる。警備部とも折り合いがついた』

「しかし、よく承諾しましたね」

『環状二号線を止めることを条件にな。それに駅の手前、トンネル出口付近から作戦を開始することも合わせて決まった』

「了解。現在当該編成の先頭車両の乗客は全員退避済み」

『可能ならば二両目からも乗客を避難させるように。物理的に停止させる可能性も考えられる』

 物理的、とは床下機器を破壊しての停止。桜通線車両は二両一ユニットが基本となるため(五両編成のため、真ん中の車両は制御ソフトに手を加えている)、その際には二両目にも攻撃を加えることとなる。

「了解。現在浄心駅を通過しました。間に合いますか?」

『間に合わせるしかないだろう?』

 ガタガタと車両が揺れた後、車内灯を付けたまま停まっている青いラインのステンレス製六両編成が藤枝の視界に入った。現在藤枝達が乗っている車両を基に作られた電車。しかし中間には現在廃車中の形式を挟む、変わった編成である。

 電車は名古屋高速六号清須線と江川線の直下を通り、庄内通駅へ向かう。円形の単線シールドトンネルが、単純な車窓を実質的に人質となっている乗客達に与える。

 藤枝は捜査情報端末を操作し、森岡に連絡を取る。

「森岡さん、そちらはどう?」

『パニックになった運転士をようやく落ち着かせたわ。無線は聞いた』

「じゃあこっちに戻ってきて、退避を手伝ってほしいな」

『了解、今すぐ行くね』

 森岡が藤枝の元へ早歩きで戻り、要請を受けた通りに二両目の乗客退避を呼び掛け始める。

「皆様、大変申し訳ありませんが後部車両への移動をお願いします」

「安全のため、ご協力お願いします」

 しかし二度目の移動を強いられる乗客もいて、降りられないこの状況も伴い怒り始める人々も当然いた。

「てめぇら、何の権限があってやってるんだよぉ!」

 感情を露にし、二人に突っ掛かってくるサラリーマン風の男性。藤枝はやんわり返す。

「一応警察官ですから、その役割は果たそうと思い行っています」

「どこの署だぁ?」

「八白警察署になります」

「やしろぉ? 所轄じゃないのに何でこんな所にいるんだぁ?」

「愛知県警の警察官として活動出来る範囲としては県内全域です。たまたま乗り合わせていただけですが、県警本部と連絡を取り活動しています」

「何が警察官だぁ? チビっ子が生意気言ってんじゃねぇ!」

 藤枝の肩をドン、と押す。それに反応して森岡が藤枝を支えたため、倒されることはない。

 藤枝は胸ポケットから警察手帳を取り出して見せ、告げる。

「本来だったら公務執行妨害にもなりかねませんが、この状況ですし不問にします。乗客の皆様の安全を確保するため、ご協力をお願いいたします」

 再度、繰り返す。

「なら早く降ろせよ! こんな暴走列車に乗せたままで安全確保たぁ、ふざけるなぁ!」

「爆発物の存在を示唆する声明があった以上、むやみに止めることはできません」

「でも一回止まったじゃねぇか!」

「丸の内に止まることは、元々犯人の狙いだったようです。十分に完全を確保出来る状況でもなかったことから、下車して頂くこともかないませんでした。申し訳ありません」

「まぁまぁまぁ、落ち着きなよ」

 別の乗客がやって来て、怒る男性をたしなめようとする。

「警察だとしてもなぁ、こんな子たちに絡むのは可哀想じゃねぇか。一生懸命やって、最善尽くそうとしてくれてんだ、協力してやる義理くらいあるだろ?」

「ちっ、わかったよ」

 他の乗客も不満こそあれ、先ほどのサラリーマンがぶつけてくれたこともあり、スムーズに移動が行われた。

「庄内通駅を通過」

 車両はぐんぐんと速度を上げていく。

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