第6話
『T1206Kは連絡線を通過、鶴舞線に入ります』
鶴舞線の運行管理を行うセクションは、桜通線の同セクションの隣に存在する。桜通線統括指令からの連絡を受け、慌ただしく動き始めた。
「浄心発のM1308Aを止めます!」
幸い、浄心・丸の内間を走行中の列車はいない。浄心駅は浅間町方に片渡り線、庄内通方の本線中央に留置線を持った島式ホームの構造を持っており、ここで本来の進行方向の線路へ転線させることが出来る。
「丸の内、通過します! 当該列車は浅間町方面に逆走中!」
運輸担当の指令員が声を張り上げる。丸の内・浅間町間は上下分離型のシールドトンネルで建設されており、本来上小田井方面に行く際には愛知県図書館の真下を通るはずだが、この列車は通らない。
「ATC信号、切り替わりました! 浄心から丸の内までの制限速度はゼロ、停止信号です!」
信号通信担当の指令員がモニターの異常事態を報告。ATCによる車内信号は停止を指示しているのに、列車は止まらない。それは自動列車運転装置ATOと共に自動列車制御装置ATCが切られていることを意味する。
「先行列車A1253M、浄心に入線。この駅にて運転を打ち切り、留置線に入れます」
本来浄心行きは深夜に終電として設定される電車。しかし鶴舞線統括指令は、そのイレギュラーをためらわず
「許可する」
一言、言う。
「で、警察屋さん、上小田井でSATは制圧可能か?」
場所まで指定しての問いかけ。
「上小田井となりますと、国道三〇二号に掛かる橋上駅ですから、SATの活動を目立たせたくない警備部が何と言うか……」
捜査員は刑事部の捜査第一課特殊犯捜査係、通称SIT所属なので、そのような答えしか返せない。SATの装備は非公開が原則のため、不特定多数が通る国道での活動は控えたいだろう、そう推測したのである。
「上小田井から先は名鉄犬山線、M式ATSは桜通線車両には積んでいない。そんな編成を走らせて名鉄に迷惑を掛ける訳にはいかない。上小田井駅を犠牲にしても一つ手前の庄内緑地公園で折り返すことが可能だから、早期に運転再開も出来る。この駅しか選択肢はないといってもいい」
「本部に聞いてみます」
捜査員は携帯電話を取り出す。
***
「了解、平田橋──いや、上小田井駅に向かう」
トラックが一台、道路を走る。そのトラックのキャビネットは真っ白に塗装され、不気味な感を漂わせていた。
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