都市伝説

愛知川香良洲/えちから

都市伝説

 とある噂を、私は友達から聞いた。

「あの街に行くと、自分が消えてしまうんだって。怖いよね〜」

 そんなの都市伝説だ、正直その時は馬鹿にして、話半分で聞いていた。世の中のあらゆることが科学的に解明され、解明されつつあるこの世の中。人間が消えてしまうなんてそんなこと、ある訳ない。SFとかファンタジーとかそういう世界の話で、実際には起こり得ないこと。一般常識レベルで共有されていることだろう。もし消えたならそれは誘拐なり拉致なりの事件で。

 「あの街」は私が住んでいる所からは少し遠くて、でもテレビなどで必ず何処かが取り上げられ身近にも感じる、大都市だ。近場でほとんどの用事が済んでしまう私には、あまり関係ない場所だけど。

 彼女はオカルト好きなのだ、だからそんな噂を聞きつけたんだろう。時たまツチノコとかキャトルミューキュレーションやらアブダクションやら、そんな話題を私に振ってくる。私の方は別に、興味があるわけではない。「怖いね」とか「本当の話なの?」とか、かなり適当に相槌をうつ。彼女が変な宗教とかにはまらなければ、趣味の一環としてなら止める理由はないと思う。趣味を持つことは悪いことじゃないし、むしろ趣味がないってどうなのかと思うし。

 たまたま、そこでしか手に入らないものがあって、私は「あの街」に行くことになった。

 土曜日の昼。街はにぎわい、多種多様な人々が行き交う。車道が歩行者に解放されても足りないくらい。私みたいに一人でこの街に来た人もいれば、友人や恋人などと一緒に、言葉のやり取りをしながら歩いている人々もいる。それらが一体となって、この街は形成されているようだった。

 用事を済ませ自分の街へ帰ろうと足を急がせている途中、ふと違和感を感じた。その違和感が私だけではないことは、周りの反応から知ることが出来る。カバンに入っているスマートフォンから、そして周りから、同じ、不安にさせる音が鳴る。私は立ち止まる。時間にして数秒後だろうか、強く、大きく、街が揺れた。

 地震が収まった後、私はスマートフォンをカバンから取り出し、ワンセグでNHKに合わせた。アナウンサーが地震発生を伝えている。画面は、街の様子を映し出すカメラに切り替わる。

 映ったのは、この街だった。

 あの角が映っている。その角はちょうど、地震が起こった時あの辺りにいたはずの所だ。けれど画面を確認しても「私」は見つからない。画質が悪いせいもあるかもしれないが、そこに私はいたはずなのに、どうして。

 私は、友人の言っていた都市伝説を思い出す。なるほど、自分が消えてしまうということは、そういうことね。


おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

都市伝説 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ