そして、彼らはいなくなった
@junk
そして、彼らはいなくなった
――ある日。彼はいなくなった。
その事実を聞いたのは、消息を絶った翌日の事だった。
私はいつも通りの朝を過ごし、いつも通り登校しようとしたその時だった。
学校から連絡が来て確認していみると、衝撃の内容が書かれていた。
「……え?」
思わず素っ頓狂な声を上げる私。
それは「○年△組クラスの生徒達が全員揃って姿を消した」という内容だった。その為、原因解明が行われるまで少しの間学校閉鎖が行われたようだ。
学校閉鎖は合法的に学校が休みということもあり、嬉しい限りなのだが、クラス全員の消息が不明というのはどういうことだろう……? 疑問だけが残る。
全員で揃って旅行にでも行ったのかな? でも、そうだったら此処までの騒ぎにはならないか。
そう結論付けて私はテレビの電源を点けてソファーに座ると、丁度一クラス全員が消息不明というニュースをやっていた。
ナイスタイミングと思いながらニュースを聞く。すると、想像以上に事態は大事になっていた。
『○○高校の一つのクラス全員の生徒の消息不明という事件を踏まえて、専門家は海外への誘拐の線が濃厚だと見解を出しています――――』
その後もずっとこのニュースが放送されていた。他のチャンネルも同じで、それだけ重大な事件なのだろう。
実際、私の友達もそのクラスにいた。同じクラスだったこともあったし、偶にメールをする仲だったから、比較的仲の良い人だったと思う。
安否を心配してメールを送ってみる。いつもなら夜中ではない限り結構すぐに返信が来る人だったから、問題ないならすぐに返ってくるだろう。
――それから半日が経過した。
「…………」
返信は来ない。
テレビも番組が変わっただけで同じニュースを放送している。見ている限りだと進展はないようだから、もう聞いても意味ないと思う。……私個人の意見だけど。
それよりも返信が来ないことが問題だ。気が付いていないだけなのかな?
その可能性から私は電話を掛けてみる。
プルプルプルと呼び出し音が鳴る――――をう思っていた。だけど、鳴らなかった。
『お掛けになった電話は現在電波の届かない場所におられるか、電源が入っておりません』
何度掛けてもその言葉だけが返ってくる。
原因は電源が切れているのからなのか、それとも……。
様々な可能性、憶測が脳裏を過るけど、それは全てはあくまで予測であって事実ではない。私の個人的な想像で話を完結されるのも流石に駄目かなと思う。
しっかりと事実を、真実を知って受け止めなければならない。それこそが、私程度に出来ることだと思うから。
***
それから数日が経った。
何か進展があるかと思ったけど、何も変わっていない。
テレビでも学者だったか、専門家だったが陰謀論やまた○○の仕業だと発言している人を見かける。だけど、誰一人として確信的な情報を保持している人は現れないようで水掛け論にしかなっていない。
どうしていなくなっちゃたんだろう……?
携帯を確認しても未だにメールは来ず、電話が掛かってくる様子はない。完全に音信不通だ。
今はまだ警察も捜索をしているけど、このまま見付からなかったら捜索も打ち切られる。そしたら、本当に見付けることが不可能になってしまうだろう。
それまでに何か確証を得ることが出来れば可能性が見出だせるかもしれないけど……。
でも、私に何が出来るだろうか。世界から見ればちっぽけな私が。
ごめんね。未熟で弱い私で。何もしてやれない私で。
罪悪感に苛まれ、痛む心に顔を顰めたくなる。
だけど、どうすることもできない。只々、外野であり、部外者であり、他人だったのだ。
「私は、私は、私は…………………―――――――――――――――――
***
――You've got mail.
無機質な声が鳴り響いた。それは着信音であって、メールの通知音でもあった。
「…………メール……?」
いつのまに寝ていたのだろう。外を見ると空は暗い。
私は徐に手を伸ばして携帯を手に取る。
メールの送り主を確認して……飛び上がるぐらいに驚いた。
「え、え?」
その名前は、これまでも送り続けて返信が来なかった友達からだった。電話を何度も掛け続けて、電波が届かない場所にいると言われ続けた友達だった。
どうして今更、そんなことは思わない。それよりも、いち早くメールの内容を確認したかった。安否を確認したかった。
私はメールアプリを起動させ、受信メールを選択、受信メール一覧にある最新のメールを開こうとして、指が止まった。
「……」
――本当にその選択は間違っていないの?
選んでしまえば、何かを知ってしまうことになる。
――それは本当に正しい選択なの?
選ばなければ、何も知らないままで生活が出来る。
選択するという行為。その行動には相当覚悟が必要だった。
私は思わず躊躇ってしまう。
どんな結末が待っているのか分からない。もしかしたら、悪い事が書かれているのかもしれない。
その得体の知れない恐怖に、逡巡してしまう。
「だけど、私は……」
知らないのは知っているより嫌だ!
その一心でメールを開いた。
そして、メールにはこう書かれていた。
『僕は大丈夫だよ。異世界でも生き続けてみせるよ。』
異世界――それが一体どんな世界なのか、そもそもどういう意味なのか分からない。
だけど、「大丈夫」という言葉が私に安心感を与えた。
そっか……大丈夫なのか……。
それは真か否かは分からない。
もしかしたら嘘なのかもしれない。
「それでも、私は大丈夫だと信じてる。元気に生きていると信じている」
こうして私から、私達から、彼らはいなくなった。
そして、彼らはいなくなった @junk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます