第5話

母に・・・


ぼくは、あなたに、なにをお詫びすればいいのでしょうか?

たぶん

すべてなのでしょうね


ぼくは、あなたの最後の期間

あなたを、家から離して

病院と、老人ホームに

閉じ込めてしまいました


確かにあなたは、周囲の多くの方と、

妻と、その家族と・・・

たびたびトラブルを起こしてしまい

多くの方に

迷惑をかけてしまっていました


でも、

なぜ、あの、あなたの最後の時、

あなたの最後を、

きちんと看取ってあげられなかったのでしょうか

どうして、あの日、もっと早く仕事を切り上げて、

もっともっと車を飛ばして

駆けつけられなかったのでしょうか

ぼくは

あなたの最後に

ほんの十分くらい、間に合いませんでした

でも、その十分は

永遠の時間となって

僕の中で、その時に固まりました


これは僕だけの罪なのだと

だって、他の誰にも、

地球にも、宇宙にも

なんの落ち度もないのですから


それは、僕の永遠の苦しみでした

本当を言えば

そこから助け出して欲しかったのです

お母さんに


でも、これは内緒ですよ

だって

この世の中では、あまりに恥ずかしい事だからね


今、道路を猛スピードで駆け抜ける方をみるたび

ああ、

あの方は、ご自分のお母様の為に

我を忘れて

走っているのだ、と

そう思うのです


走りましょう!

それが正しいのだったら

走って、けっして遅れないように

さあ、走りましょう

永遠の中で、時間はたったこのときしか

あなたの傍を走らないのだから


でも、かなりの時間が流れ

ぼくのなかの固まりは

溶けて、もう、たぶん、ありません

何もかも許してくださいね


                  永遠に安らかに・・・

                     大好きな、お母さんへ



              だって、交通違反は、ダメですよね

                  交通事故が、もう起こりませんように!























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る