第2話

しんちゃんへ


しんちゃん、あなたは僕と同じ、しんちゃんだけれど

あなたのおうちは、お店をしていましたね

だから、「まるしんのしんちゃん」でした

僕たちは人生で最初のお友達どうしでした


ふたりとも、幼稚園に行く前に、ご近所のパン屋さんに行きました

僕は、道路のこちら側のパン屋さん

あなたは、道路の向こう側のパン屋さんが大好きでした


あの朝、いつものように、あなたはパン屋さんに行きました。


そうして、僕は、母から聞きました

しんちゃんが、バスにひかれて死んでしまった、と

パン屋さんに行く途中だったのか、買い物をした後だったのか

それは覚えていません

でも、あなたは、あの白旗神社の前で、バックしてきたバスに

ひかれてしまいました


幼稚園から

僕たちは何人かで、しんちゃんのおうちに行きました。

あなたは、小さなお布団のうえで寝ていました

でも、その顔は、まっしろな包帯で

ぐるぐる巻きにされていました

お鼻だけが、ちょこっと出ていました

どんなに痛くて、苦しかったのか

僕には想像もつかない


あなたのお母さんが、僕の両手をぎゅうっと握って言いました

しんちゃんは、聞いてくれていただろうか

「いつも、しんちゃんと、いっしょに遊んでくれてありがとう」と


それから、多分お葬式の後

あなたは自動車に乗せられて

おうちから出てゆきました

その自動車の後を

あなたのお母さんが、一生懸命走って、追いかけていたのです

そうして、道路に倒れ込んでしまいました

「しんちゃん、しんちゃん」

お母さんは、さけんでいらっしゃいました


その後の事は、僕は知りません

それから何十年か経って、僕は、あなたと僕の故郷に帰って

あなたのおうちを探しました

でも、もう見つからなかったのです

あなたのおうちのご近所に、昔からあるお店でも

昔、僕のおうちがあった、その裏のおばさん・・・

僕の事をとてもよく知っているおばさんです・・・

にも尋ねたけれど

もうあなたの事は、わかりませんでした


しんちゃん

あなたはいま天国で

昔の姿のままで

楽しく暮らしているのでしょう


僕も、歳を取ってきました

母も父も、もう亡くなりました

こんど会えた時には

僕を見て

あなたは、きっとびっくりするでしょうね


たった五年にも満たなかった、あなたの人生だけれど

それでも、あなたは確かに

間違いなく

この世界で、ぼくたちみんなと一緒に生きて、遊んだのです

僕は、そのことを、ここに記録します

             永遠に、安らかに・・・・・

               しんちゃんに

                   しんちゃんから               




























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