39話「ロリへの愛は世界を救うか?⑪~ドナルド先輩の電話~」
ネタバレ全開ver
http://suliruku.blogspot.jp/2017/02/39.html
★★★
悪徳都市の門を潜り、俺たちは帰還した。もちろん、非常事態という事もあり、出入りに厳しい制限がかかっていたが、賄賂を払えば無問題である。警備兵は素直に「へーいお客さんっー。どうぞーどうぞー」と笑顔で通してくれる……行政組織が腐敗している事に喜べばいいのか、悲しめば良いのか、俺には分からん……。
『ワープゲートにて、魔物の大侵攻が発生しました。市民は避難用の自宅シェルターを購入し、すぐに避難してください。買うならシェルター建設専門店ザ・サイロにお任せ』
鳴り響く警報ですら、企業と癒着して宣伝までしている有様だ。
公職に就く人は、特定企業を優遇したり、宣伝しちゃ駄目なのが先進国のテンプレのように存在するルールだと思うのだが、悪徳都市にはそんな法律があったとしても、賄賂でゴミ箱へポイッと捨てられる程度の価値しかないのだろう。
というか警報機の内容――
『ワープゲートにて、魔物の大侵攻が発生しました。市民は避難用の自宅シェルターを購入し、すぐに避難してください。買うならシェルター建設専門店ザ・サイロにお任せ』
「無茶言い過ぎだろ!?非常事態を利用して、とんでもない高値で売るつもりだな!?この企業っ!」
『銀バッジ以上の冒険者は、ワープゲートの方へと移動してください。緊急クエストです。銅バッジ以下の冒険者は邪魔にならないよう、シェルターを購入して避難してください』
「そんな収入があったら、銅バッジやってないぞ!?」
俺の虚しいツッコミに、白真珠が低い声で反応してくれた。
「お師様……警報機にツッコミを入れても無意味ですよ……?」
「電話が中々繋がらないから、ちょっとストレス発散」
「そういえば、なんで繋がらないんでしょう?僕、電話の原理って分からないんですよね……」
「都市のあっちこっちにアンテナがあるだろ?あれを幾つも経由して他の携帯端末と通信ができるんだ。恐らく、皆が電話をかけすぎて通信回線に負荷がかかりすぎているんだろう」
「あれ……でも、お師様は都市の外でも電話してましたよね……外にはアンテナがありませんよ?」
「俺の携帯端末は電力を大量消費して、遠くにある通信設備を経由して通信しているんだ。バッテリーを幾つも用意しないと使えないし、結構料金が高いが使い勝手が――」
プルルップルルっ。俺の携帯端末が着信音を奏でた。電光掲示板には『ロナルド・マクドナルド』と書いてある――つまり、ドナルド先輩が俺に電話をかけてきたのだ。
しかも、誰も使っていないような特殊な通信回線で。
「お祖父様を裏切った悪党ですね!殴って骨を折りたい気分ですけど、邪魔になるだろうから黙っておきます!」
文字を読めないはずの白真珠が、ロナルド・マクドナルドの文字を見て叫んできた。
ああ……そうか。ひらがな、カタカナは読める娘だった。そこまで可哀想な娘ではなかったな……。俺は軽く会釈した後に、通信ボタンを押した。
スピーカーから流れるのは――人生に疲れ切った男の声である。
『やぁ、トモヤ君。大変な事になったね。』
「ドナルド先輩……率直に聞きますが……先輩は……バグダインの手先ですか?」
『答えはノーだよ。あの暗号文が偽造だと思ったかい?違うね、あれは本物さ』
「じゃ質問を変えます……仮に黒幕がブラドさんだとすると……先輩はブラドさんとは無関係なんですか?」
『そんな訳がないだろう?僕は黒さ。どんなインクを使っても真っ黒クロスケさ。君と出会う前から僕は頭のネジが逝かれているよ。僕は人類の裏切り者なんだ。
冷静に考えれば……君なら理解できたと思うけどね』
ドナルド先輩の冷たい返答を聞いて――俺の中でバラバラだったピースが一つに纏まってしまった。そうだ。よくよく考えてみれば――最初から全部可笑しい人物だ。
思い出せ、数年前の事を――
~~
人生にやさぐれて絶望したサラリーマンのような男……ドナルド先輩と出会ったのは、俺が11歳くらいの年齢だったと思う。
その頃、先輩は冒険者支援学校で魔道学の講師をやっていて、とっても嫌そうな顔を全く隠さず、授業をやって生徒たちからは大不評だった。
昼休みになる度に『こんなクソガキどもに魔道教えるの面倒臭い』『ちょっと昼寝してくる』とセリフを吐いて、どっかにトンズラして授業をサボった事もある不良講師だ。
人生が面倒臭い、生きるのも面倒臭い、魔物を狩るのも生活のために渋々やっていて、とっても生きるのが不器用な人なのだが……最悪すぎる第一印象を覆すくらいに、魔道に関する知識が凄い男なのである。
『敵対陣営である魔族から学んだとしか思えないくらいに、適当に話す内容が高度すぎて、生徒のほとんどが魔道の道をやめちゃうくらい、素人置いてけぼりの超上級者向け授業をやっていた』
……講師には全く向いてないから、すぐにクビになったそうだが。本に載っていない理論なども、面倒臭そうに話していた彼の事を、俺はよく覚えている。
~~
……ドナルド先輩の魔導への異常な知識。それは魔族から直接学んだ代物だった……つまり、そういう事なのだ。とっくの昔に彼は人類を裏切っていて、何もかも手遅れだったのかもしれない……。
いや、まだ止められる可能性が僅かに残っている。俺は恩師を殺したくないのだ。
「先輩は……今、どこにいます?」
『さぁ?どこだろうね?トモヤ君はどこだと思う?』
「……遮断装置のすぐ近くですか?」
『おお、正解だ。魔物の大侵攻が陽動だと薄らと気づいたようだね?正解した褒美にヒントをあげよう。今回の連続爆弾テロ騒ぎは僕がやっていた。バグダインの事務所の奴らを洗脳して、後腐れなく爆発させてやったのさ。要人を次々と殺しまくった犯人は僕って事だね。
だがまぁ、これはブラドさんの復讐も兼ねた爆弾テロな訳なんだが……二つほど、関係がない場所を爆破している事に気づいたかな?これ以上の情報は要らないよね?トモヤ君なら推理して来てくれる……僕はそう思っているよ』
「タワーマンションを省くと怪しいのは……ダンジョン学園……」
『そうさ、正解だ。さすがは魔導学の天才だね。今、僕はダンジョン学園にいる。世界を救いたいなら来るといい。真実はそこで話そう
ああ。そうだ。僕がバグダインの手先とかどうか聞いてたよね?』
怖い冷めた声だった。ドナルド先輩は少しの間を置いて言葉を続ける――
『 本 物 の バ グ ダ イ ンなら、今頃ストレス家畜として何処かで生活しているんじゃないかな?ブラドさんが拷問した後に、苦しみの魔族にプレゼントしていたよ。テレビに映っているのは立場が逆転して調子に乗っているバグダインの影武者じゃないかなぁ?
向こうは向こうでブラドさんが邪魔だから、色々とロシアとかに根回ししていたようだけどね。それじゃ……またあとでねトモヤ君』
電話が切れた。全てはダンジョン学園で決するという事なのだろう。
俺は手が震えた。人間は殺した事がある。というか、軍人だって冒険者だって、反射的に人間を殺す訓練をすれば、平然と殺せるのだ。だが、これから魔導の恩師であるドナルド先輩と……殺し合いになると思うと、気が滅入りそうだ。どう考えても、ドナルド先輩は――破滅したがっているとしか思えない。
じゃないと、こんなに大量のヒントを俺に残さないだろう。
①ブラドさんの部屋を爆破。消去法で犯人を推理するとドナルドさんしか犯人がいない。
②レッドゴブリンのアジトへの道のりが、車輪でバレバレで適当すぎる。
➂アジトで回収した暗号文を流しただけで、一気にマスコミが動いて大騒ぎになる炎上の速さ。
ドナルド先輩は――止めてほしいのだ。罪を犯そうとする手を俺に止めてほしいからこそ――ここまで、意図的にヒントを出していたのだろう。
「お師様……?」
黙り込む俺に、白真珠が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
悩んでも始まらない。全てはダンジョン学園に行かないと、この騒動はもっとひどい事になりそうだ。
「白真珠……ダンジョン学園にいくぞ。ブラドさんも……恐らくそこにいる」
「あの……お祖父様は何をしようとしているのでしょうか……?」
「遮断装置をぶっ壊すか、支配するかして一時的に停止させるつもりだろう」
「そうなったら……どうなります?」
「第一階層にいる人類は……苦しみの魔族によるストレス家畜にされる。急ぐぞ」
「はい、お師様……」
白真珠は下手したら、祖父殺しをする嵌めになるかもしれないから、かなり辛そうにしていた。
恩師殺しよりも酷い背徳的な行いのように思える。そんな彼女が愛しい。透き通るような銀髪が美しい小さな頭を、俺は撫でてやった。
「お師様……?」
「今なら……今なら……先輩とお爺さんを止めて全てをハッピーエンドにできるかもしれない。そう考えれば良いぞ、うん。止めるだけなら殺す必要はないしな。
指の骨を全部折って、顎の骨をちょっと外せば魔法も使えなくなるし、生け捕りもたぶんできるだろう」
「僕、この事件が終わったらセレブになりたいなぁ……」
^^
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)死亡フラグだぁー!?(この戦いが終わったら結婚するんだ的な感じ)
(´・ω・`)死んで美化されるヒロインとか最高じゃな?
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)そういうオチを読者は望んでないよ!?
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