18話「ロリに100億円を貢いだが、俺はロリコンではない終~魔氷剣~」
トラック。それは手軽なテロの手段だ。陸上の交通網が発達しているダンジョン世界には、膨大な数のトラックが運用されており、入手は容易い。
しかも、大型車両だから、その巨体を動かすエンジン出力は高く。凄まじいエネルギーを秘めている。
一般人でも、不意打ちなら高位の冒険者を殺傷できる優れ物。
しかも、コンテナ部分に爆弾を仕込んでおけば、都市区画を吹き飛ばす事もできて、応用が効く恐ろしい乗り物でもある。
……魔法の鞄と賄賂を使えば、幾らでも爆弾を都市に入れる事ができるから、最近では問題になっているのだ。
支持率0%で有名な前都市長も、駅に居た時に爆弾テロの餌食にあって死んだというニュースが流れているから、今回の暴走トラックもそれと関連があるのだろうか……?
「お、お師様!なんかすごいのきましたよー!これは魔氷剣を活躍させろっていう神様の思し召しなんでしょうか!?僕の正義の心が熱く唸って光――」
「土操作(ノーム・コントロール)!」
俺は魔法を発動した。何時だって頼りになるのは自分で考え作り出したカスタマイズ魔法やオリジナル魔法なのだ。これはダンジョン世界内にいる土の精霊に干渉し、落とし穴を掘ったり、即席の盾を作り出せる便利な代物。
無論、石には効果を及ぼせないが……コンクリート製の道路といえど、その下にある土を移動させて隙間を作れば、土台を失って――
ドシャンッ!
三つのトラックの前輪が落とし穴へと転落する。機動力を削がれたトラック相手に俺は続けて何度も何度も同じ魔法を使い続けた。
「土操作(ノーム・コントロール)!」
落とし穴はどんどん深くなっていく。トラックを破壊するのは簡単だが、もしもコンテナ部分に爆弾でも搭載していたら大事だ。俺の住んでいるタワーマンションが倒壊するとは思わないが……多数の死傷者が出る可能性がある。
しかし、爆発するエネルギーが縦方向に集中したらどうだろうか?落とし穴を深く掘れば……銃弾と同じ原理が発動し、爆発しても膨大なエネルギーが空へと向かうだけで、被害はほぼ皆無で終わるはず。
そう、このまま何事も起きなければの話なのだが――
「あ、なるほど!僕が蓋をすれば良いんですね!お師様が何をしたいのか分かりましたよ!」
そう言って白真珠が、魔氷剣を片手に落とし穴へと近づいて……巨大な氷を生成して落とし、綺麗に蓋をした。落とし穴は見事なまでに超巨大な氷で塞がれている。
もし、この状況で爆弾が爆発すると、どうなるだろうか?道路は大きく削れるだろうが、ダンジョン世界を構成している食の神の本体に爆風が届くという事にはならないはずだ。幾らなんでも掘ればすぐに肉壁に当たるような場所に、都市は作られない。近づく相手を問答無用で食べるキチガイ神を刺激したら、俺達の人生は終わりだろう。
「悪党を退治しました!正義とロリは勝つんですっ!」
白真珠は右手でVサインをしている。花が咲いたようなアホっぽい素敵な笑顔だ。そんな微笑ましい様子を見ているだけで……彼女の小さな頭を撫で撫でしたくなるのだ。
しかし俺の予感が言っている。このままだと危ないと。ぶっちゃけ死ぬかもしれない。だから念のために――
「土操作(ノーム・コントロール!)」
道路の下にある地面を魔法で掘り返して積み上げて、即席の盾を場に展開した。こうすれば何が起きても対処できる。
いざという時は頑丈なタワーマンションに逃げ込めば、生き残れるはずだ。
そう思った瞬間――落とし穴から膨大な爆発エネルギーが発生する。巨大な氷塊を一瞬だが浮かび上がらせ、その隙間から爆風が横薙ぎに飛んできた。土の盾が爆風を受け止める。このままでは危うい。呪文の詠唱も間に合わない。
土の壁が崩壊すれば、爆風に押されて土の弾丸と化すはずだ。しかし、その前に――
「えいっ!」
白真珠の魔氷剣が土の盾を凍らせる。爆発エネルギーに耐えられる頑強な盾と化し、そのエネルギーは俺達の後方へと飛んで行く。
爆発のエネルギーが減衰して無くなる頃には……周りのビルの一階や二階にあるほぼ全ての窓ガラスが割れていた。とんでもないエネルギーだ。砕け辛い防弾ガラスすら壊すとなると……これはもう……。
「この爆発力……どうやら、本格的にタワーマンションをぶっ壊す気だったようだなぁ……いや、この程度の爆発でも壊れないくらいに頑丈だったか?」
俺は後ろを振り返る。俺の住むタワーマンションには窓が少ない。窓があれば狙撃の対象となり、不法侵入者の侵入ルートを増やす事になるから少ないのだ。壁の表面に小さな傷跡が出来た程度で、被害はほとんどない。
……火事になったら膨大な犠牲者が出そうだが、冒険者なら内側から壁をぶっ壊せるだろうし、そもそも魔法で消化活動できるし……いや、それよりも――
「……白真珠。ここから見える範囲内に、変なスイッチとか携帯端末を手に持っている不審者はいないか?」
「はいっ?」
「今の爆発のタイミングから考えても……爆発させるスイッチを持った犯人は、ここから見える範囲内に居るはずだ。お前の素晴らしい視力で周りを見てくれ」
「んー、分からないです。ほら見てください。あっちこっちのビルにいる人がこっちを見てますよ?」
……なんて事だ。今の爆発騒ぎで大勢の人間が俺たちに注目している。高層ビルにいる有象無象が仕事を放棄し、あるいは買い物を中断して窓際に拠ってきているのだ。
その数は千や二千では効かない。幾らなんでも白真珠の視力が凄く良くても、この中から犯人探しができるはずもない。今の騒ぎを知人に伝達しようと、携帯端末を片手に通信している奴が山ほどいるのだから。
幸いなのは、先ほどのロリコン成金が自爆してくれたおかげで、周りにいた通行人は逃げて遠い場所へと行っている事だ……悪徳都市の住民なだけあって、危険から逃げる能力が高いなぁ……。逃げるという戦術は誰でもできて被害を抑えられる優良な戦術すぎる……。
「この爆弾テロ……バグダインの仕業なのでしょうか……?だとしたら僕、許せないです……」
「恐らく……無差別に色んな目標を狙う事で、警察のマークから外れるのが狙いだろう。幾らなんでもダンジョン学園や冒険者が居住しているタワーマンションを狙っても利益にはならないはずだ。マスコミ達にビッグニュースをプレゼントして、政敵を排除した騒ぎをできるだけ低く抑える……そういうゲスい意図を感じるな。こんな奴が都市長になったら……悪徳都市がもっと酷い事になりそうだ……発展途上国の独裁者並に酷いかもしれない……」
「つまり、お祖父様の命が危ない……って事ですよね?ああ、どうしよう。僕はこんな所で立ち止まっている訳にはいかないのに……そうだっ!バグダインの事務所を襲撃しましょう!あとは山となれ、悪党は塵となれ作戦です!」
「こらっ!?そんな事したら俺たちが指名手配されるぞ!」
「正義のためなら何をしたって良いんです!昔の偉い人が言ってたそうです!」
「大量虐殺やっていた側の理屈だぞ!?それはっ!」
「じゃ……どうすれば良いんですか?僕はどうすればお祖父様を守れますか?」
白真珠の不安そうな真紅色の瞳。俺は彼女の笑顔を見たいから、恐らく、こんな面倒臭い事をやっているんだ。ならば答えは簡単だ。俺がやるべきことは――
「……こんなところで悩んでいても無駄だ、さっさと仕事を貰いに行くぞ。この世は行動あるのみだ」
俺は右手をポンッと、白真珠の小さな頭に載せた。
「お前のおじいさんの護衛の仕事とかな。ほら、風呂で言っただろう?知り合いがいれば護衛の仕事は受けられるってな。居なかったら知り合いのプラチナ冒険者に金を払って、一緒にブラドさんを護衛すれば良いしな」
「お師様……ありがとうございます。僕、お師様が居なかったら……えと、バグダインの家に殴り込みに行って、お祖父様に迷惑かけていたと思います……」
「もちろん、その時の依頼料は白真珠の借金だ」
「僕が破産しちゃいますよ!?ロリに小判展開が欲しいです!」
俺はロリコンではない。だが、この可愛い銀髪ロリ娘のためなら一肌脱げそうな気がするのだ。
しかし、都市長の暗殺、選挙に立候補した政治家、ダンジョン学園、冒険者が集まるマンションへの爆弾テロ……魔族側の仕業の可能性もあるが、さすがに人間が魔族に与する訳がない。
組んでも待っているのは、生き地獄という有り難くない報酬な訳だし……。
一体、何がどうなっているんだ……?
内部での権力闘争に勝利するために、魔族側に組みした奴がいるのか……?いや、人類の歴史を見れば当たり前の出来事か?
敵の敵は味方っていう有名な言葉通りに――人類はどうしようもない事をしているんじゃないだろうか?
ーーーー
ボツネタ
ロリコン成金「なんじゃこりぁー!俺が死んでいるじゃねぇかぁー!」
高位の冒険者は死んでも魂だけになって生き残れるお
ーー
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) この爆弾騒ぎは何が目的なんですか?
(´・ω・`)ダンジョン学園への爆破テロを、無差別テロだと思わせるため。つまり注目されるならテロの対象は誰でもよかった
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) (ダンジョン学園に重要な何かがあるって伏線か!?)
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