第10話 対決

 エーミル君の試合から二組の試合が行われとうとうチャールズとの対決が始まる。

 心臓がどくどくと脈打ち、緊張で体が震える。


 エンゲを抱きしめると安心する。

「エンゲ、僕頑張るよ。相手と向き合うって怖くて仕方がないけど、約束したから」

 僕の顔の前にエンゲを持ち上げて微笑む。

「それに今はイグナーツ君とエーミル君がいるから心強いんだ」

 味方がいるってこんなに力が出るんだ。初めての感覚が心地いい。


 先生に防護魔法をチャールズと一緒にかけられてステージに立つ。

 チャールズとその召喚獣――ディスニウスににらみつけられる。

 こう対面する事を想像してはいたけど実際は想像していたよりとても怖い。

 逃げ出したくなる。でも背中を押されているから逃げない。頑張れる。

 エンゲが頬にすり寄ってきた。

 僕にはエンゲがいる。一生のパートナーがいるんだ。


 チャールズをまっすぐ見つめる。僕が今まで目をそらしてきていたからかチャールズが驚いていた。

 そして憎々しげににらみつけてきた。


 開始の鐘が鳴る。

「ディスニウス、Sturmシュツルム!」

 ディスニウスが風をまとって突撃してくる。


Blitzenブリッツェン

 僕はディスニウスに向かって閃光を放ってエンゲと共に手前から二番目の壁に隠れる。

 ディスニウスは突然の光に目をやられ壁に激突して壁が崩れる。頭を振って視力を回復させようと瞬きをしきりにしている。

「ちっ、役立たずめ」


 チャールズの言葉に僕は悲しくなった。

 召喚者の言う事はなんでも聞くから召喚獣は道具扱いされる。僕はそれをもったいないと感じる。

 絶対裏切らない召喚獣は便利な存在だけど、仲良くなって一緒にいろんな事を共有できる貴重な存在でもあると思う。

 僕は三男二女の兄弟の下から二番目で気が弱かったから家族にあまりかまってもらえなかった。

 今甘えたら邪魔になるんじゃないかとか遠慮してしまってうまく甘えられなかったせいでもある。

 だから僕は召喚獣と家族以上の関係になりたかった。

 チャールズとの対決で全力を出せば、少しはエンゲに認められて下がってしまった関係が一歩進めるような、そうなってほしいという下心もある。

 勝てる気はしないけど勝とうとしよう。


 だから。



 「Fangenファンゲン

 ディスニウスの動きを止める。光でできた縄がディスニウスに巻きつく。目がまだ見えず、動けない状態でもがき、叫ぶ。

 チャールズの位置を確認する。こちらを警戒しながら近づいてきている。距離はだいたい九、いや八メートルくらいか。


Raketeラケーテ

 薄い白い半透明な魔力のロケットを設置する。

 そしてチャールズに向かって走り出す。


Windヴィント

 チャールズは驚いたもののすぐに判断して風の刃を撃ってきた。

 チャールズが僕に注目している時、ロケットが打ち上げられる。

 僕はロケットが打ちあがったのを感じとりながら近くの壁の後ろにスライディングして風の刃をよけた。

 チャールズの近くにロケットが落ちる。


 その衝撃で吹き飛んだチャールズはゆっくり起き上がると、鬼のような形相でぶつぶつと何かを呟いている。

「ふざけるな、僕は貴族だぞ。平民の雑魚のくせにくそがくそがくそが」

 狂気を感じる。背筋が冷える。

「おい、いつまでそうしているつもりだ」

 一瞬、僕に言ったのかと思ったけど違う。

 風の流れを後ろから感じる。

 振り向くと光の縄を振りほどいたディスニウスが僕に向かって風をまとい突撃してきている。


Eisアイス

 とっさに出した氷のつぶてがディスニウスに当たり一部が凍るも止まらない。

 たぶん逃げても向きを調整して追尾してくると思う。

 今から防護魔法を使っても間に合わない。衝撃に耐える体勢を取る。

 その時、エンゲがディスニウスに体当たりをした。

 エンゲは弾かれてしまうが風が消え、ディスニウスは体勢を崩し落下する。

 ディスニウスの巨体に小さいエンゲが体当たりをしたくらいでディスニウスの勢いが止まるのかと疑問に思ったけど切り替える。


Fererフォイアー!」

 エンゲの作ってくれたチャンスを無駄にしないようにチャールズに向かって火の玉を放つ。

 よけようとしたチャールズに見事当たり防護魔法が発動するも衝撃で倒れる。

 倒れたチャールズに近づき火の玉を向ける。


 終わってみるとあっけなかった。僕は信じられなかった。

 強大な人だと思っていた。それは僕が勝手に思い込んでいたのだろうか。

 それともイグナーツ君の訓練のおかげだろうか。あれのおかげで体力がついて思うように動けたから僕が強くなったのだろう。

 

 もう、誰もが僕の勝ちを確信した。

 先生が終了の鐘を鳴らして終わったと思った瞬間体の力が抜けた。

 火の玉を消し、エンゲを探そうとしたその時、チャールズが不気味な笑い声をあげる。

「フハハ、このボクが負けた?いやそんな事はない。あってはならない。そう、平民に貴族のボクが負けるはずなんてないんだからな!」

 次に彼は自分の召喚獣の名前を呼んだ。ディスニウスはボロボロの体で現れた。






 ――エンゲをくちばしではさんで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星に願いは届くのか 三毛猫迷子 @mikeneko-maigo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ