第9話 模擬戦の初戦

 とうとう模擬戦の日になった。結局的に当てられたのは十回中三回のみ。

 不安だけどやれる事はやった。

 もし今日負けてもまだチャンスはあるはずだ。

 エンゲと一緒にいると前向きに考えられるようになった。

 これがエンゲの力なのか僕が変わったのかはわからないけど僕はやる気に満ちていた。

 

 

 会場は円形になっており真ん中に戦うステージがあり相手の攻撃を防ぐために用意されたのか低い壁がランダムにある。

 そのステージを囲うように客席があった。

 

 先生がみんなの前に立ち、ルールを説明する。

 戦う時には防護魔法をかける。

 勝敗はどちらかが負けを認めるか、先生が状況を見て判断する。

 これは学んだ事をどういかすか、適切な状況判断ができるか、現在の実力はどのくらいなのかを知るためであって、無理な行動は慎む事などを説明された。

「もし、危険だと判断したら即刻中止するからな。まあ、成績には影響しないから気軽にやれ」


 そう先生は言ったが、僕は勝てるチャンスがあるなら多少無理をしたい。全力を尽くせば次に行ける気がする。


 



 初戦はエーミル君と女子生徒だった。

 エーミル君の召喚獣は六メートルほどのグリフォンで名前はクラレ。

 相手の召喚獣は八メートルほどのゴーレム。

 

 戦闘開始の鐘が鳴ると同時にクラレが飛び立ち竜巻を起こす。

 竜巻の範囲が広くておそらくどちらもお互いの姿も見えないだろう。

 ちらっと見えたけど、エーミル君が相手の方に走ったのが見えた。

 クラレがゴーレムに向かって前脚の鋭い爪で襲い掛かる。

 そこでゴーレムの腕が迎え撃つ。

 クラレはにぶいゴーレムの動きをかいくぐって攻撃をする。

 女子生徒がクラレに向かって攻撃魔法を撃つ。

 あれはFeuerフォイアーという火の玉を手のひらから撃つ初級魔法だ。

 クラレに当たると思われたそれは当たる直前で風にさえぎられた。

 クラレは風を自在に操る召喚獣のようだった。

 おそらく真空をつくり火の玉をかき消したのだろう。

Blitzブリッツ!」

 いきなり飛んできた稲妻が女子生徒を襲う。

 確かに女子生徒に当たったが、白く光る膜が女子生徒を守っていた。しかし衝撃は伝わるようで女子生徒は悲鳴をあげて倒れる。

 いつの間にか女子生徒の近くの壁に隠れていたエーミル君が出てきて風でできた槍を女子生徒に突きつける。

 そこで女子生徒は降参した。

 風の槍なんてまだ習っていない。まだ僕らは初級魔法しか使えないはずなのにエーミル君は使っていた。

 なんだかエーミル君が遠くの存在に見えた。

 先生は頭をぼりぼりとかいて紙に何かを書き込んでいた。


 エーミル君は女子生徒に手を貸して起き上がらせてからこっちにきた。

 イグナーツ君はエーミル君を明るく迎えて背中をばしばしとたたいている。

「なかなかよかったぞ。しかし、さすがだな中級魔法をいくつも使えるとはさすが、魔法の名家ガウロリアの三男だな!」

 僕には中級魔法は風の槍しかわからなかった。他にも使っていたなんて。

「三男って微妙になるから言わなくていいよ。これくらいできないと家族に認められないという事、お前も知ってるだろ」

 エーミル君はあきれたようでため息をついている。

 エーミル君が魔法の名家だったなんて知らなかった。やっぱり最近一緒になる事が多くなったとはいえ、全然知らない事があるんだ。

 少し置いてけぼりにされたようで寂しくなった。

 そんな僕を慰めるためか、頭の上に乗っていたエンゲが頭にすり寄ってきた。

 お礼の意味を込めてエンゲの頭をなでる。

「さあ、あと三戦目でシュテルヒェの番だぞ。十分に準備運動をするといい」

 イグナーツ君に言われて気持ちを切り替える。そうだ、僕は精一杯自分の力を出し切らなければならないんだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る