情熱犬陸「世界最後の童貞」
ちびまるフォイ
ドキュメンタリー撮影開始!
「あなたでドキュメンタリーを作りたいんです」
「え、本当ですか!? 番組名は!?」
「情熱犬陸です」
「おおおお!!」
番組名を聞いて断る理由がなかった。
あの有名なドキュメンタリー情熱犬陸からオファーが来るなんて。
快諾した翌日にテレビクルーがやってきた。
「では、撮影をはじめます」
「ちなみに、僕はどういった風に紹介されるんですか?
一般の仕事人とかですか? それともゲーマー?」
「いえ、世界最後の童貞です」
撮影がはじまった。
――童貞であることの誇りは?
「そうですね、まあ、人間の三大欲求に勝ったという自負はありますよ」
――女性をどう思いますか?
「最初は気にはなりました。眠れない夜もありましたね。
ああ、でも、今では普通に魅力的な異性として見ることができますが
普通の人みたいによだれを垂らしたりと、はしたない感情は出ません」
――これからも童貞を貫くことにたいして
「童貞でしか見れない世界もあると思います。
僕はそれを世界に発信していけたらいいなと思いますね」
テレビクルーからの質問に答えながら撮影が続けられる。
童貞だとさらされるのは気になったが、それでもテレビに出られるのはいい気分。
撮影は翌日も、その次の日も、その次の次の日も続いた……。
――食事と童貞の関係について
「いや、あの、その前にひとついいですか? この撮影っていつ終わるんです?」
「後で良い所だけ編集するので長めに回してるんですよ」
「もう一週間ですよ!? 俺の私生活まで撮ってるじゃないですか!?」
何度言っても撮影は続行された。
カメラには寝ている姿はもちろん、トイレに行っている姿すら撮影される。
日常生活はどんどん壊されて、俺は限界まで追い詰められた。
「ダメだ……! これ以上撮影され続けるとストレスで血液が沸騰する!!」
なんとかしなければ。
思いついたのはごくごく簡単なことだった。
「そうだ、童貞だから撮影されてるんだし、童貞じゃなくなればいいんだ!」
けれど、町に出て声をかけてもダメ。時間だけが過ぎていった。
――数百人をナンパして、一人も相手にされなかったのはどういう気持ち?
「うるせぇな!! これが童貞だよ!!
どーせ誰にも相手にされないんだよ、ちくしょーー!!」
カメラに八つ当たりしても撮影は終わらなかった。
ドキュメンタリー撮影からしばらく経った。
久しぶりに友達に会って愚痴を聞いてもらうことに。
「お前……ずいぶん老けたな、まるで別人じゃないか」
「……別人? そうか! その手があった!!」
ドキュメンタリーを絶対に終わらせる方法。
それは別人になることだった。
向かったのは日本でも有数の研究所だった。
「にゃるほど、別人ににゃりたいということですな」
「はい! できるだけ今の自分とは似つかない体になりたいです!
この研究所の別人装置ならできるんでしょう!?」
「いかにも。では君を別人にしてあげよう」
指示されたカプセルの中に入ると、装置がゴゥンゴゥンと動き出した。
カプセルが次に開いたときには完全な別人になっていた。
博士が鏡を見せると、自分でも驚いた。
「どうかな?」
「すごい!! 私別人になってる!!
性別まで変わっていれば、もう絶対に私だと気付かれないわ!!」
どこからどう見ても別人。
整形だとかそういうレベルではない。別の生き物だ。
これで晴れて自由の身だ!!
そして、研究所を出たとたんにテレビクルーがやってきた。
「あなたが世界最後の処女ですね!! ドキュメンタリーを撮りましょう!!」
情熱犬陸「世界最後の童貞」 ちびまるフォイ @firestorage
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