第9話

 あの襲来から数ヶ月後。あの三人は、損傷を受けた福岡タワーの前に立っていた。直後こそマスコミの集中取材に遭ったものの、今では関心も薄れ、前と同じような暮らしを送れている。ただ一つ、藍の「ナタデココグミで勝ったんです!」という発言の影響により、ナタデココ関連商品(特にグミ)が空前のブームとはなっていたが。

「あなたが、佐野藍さんね」

 そこに一人の女性が突然、声を掛ける。

「……うん、そうだけど、誰?」

「近付かないで」

 呑気な藍と背が高い女性の間にすっと、ゆかりが割り込む。

「あなたは、誰?」

 警戒心を露にして、女性の方が聞く。

「そうね、あなた達の目的、クロスフィア研究所の目的を阻止する存在ね」

「……PAU?」

「Protection of Another world' Union」

「なるほど、そういうことね」

「また別の機会に話しましょう、ミナコ」

 もう女性は、驚くような素振りを見せない。まるで「知られていて当たり前」とでも言うように。

「そうするわ」

 ミナコは名刺を渡し、その場を去る。

「結局、誰だったの?」

ノートパソコンを操作しながら、佳奈がゆかりに聞く。

「ちょっとした知り合いよ」

「でも『もう一つの世界』って……」

「そのうち嫌が何でも知ることになるから。今は知らなくても問題ないわ」

 ゆかりは福岡タワーの方を見ながら、言う。

「その時、どのような選択をするのか、楽しみだわ」

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