第5話
その頃、福岡市某所。三人の少女が道を歩いている。皆同じセーラー服。同じ高校の、仲良し三人組だ。
「カナちゃん、今日は何する?」
一人は、道をふらふらと危なっかそうに歩く。
「ごめん、今日は忙しいの」
一人は、ノートパソコンの画面を見ながら歩く。
「忙しい?」
「世界中があんなことになってるから、利益を出すのも一刻を争うわ」
「え、何やってるの?」
「簡単に言えば株取引?」
株を始めとした証券取引やFXで、佳奈は学生でありながらノートパソコン一台で、一日で何十万もの利益を上げていた。それはこの、世界中を襲ったパニックの中であっても。知る人は彼女を「最強のノーパソ使い」と呼ぶ。対して、藍はとにかくバカである。福岡一、とも言われるほどの。
「ねぇねぇ、ユカリもおかしいと思わない? 青春真っ盛りには遊ばなきゃ!」
そういう藍も、この非常事態で遊ぶことしか考えていないのだから大概である。
「……うふふ、もうすぐよ」
一人は、意味有りげなことを呟きながら歩く。
「もうすぐ?」
「そう、もうすぐ」
ゆかりは、その意味不明な言動から学校内で「存在が宇宙人」と噂される。本人もむしろそれを狙っているような雰囲気だが。
その時、三人のケータイが同時に鳴り始める。同じ、独特の着信音。エリアメールの着信である。
「ふむふむ、こくみん、なんとかほうで福岡市がなんとかになんとかなった?」
「国民保護法による避難命令ね。ついに日本も対象か。どう売り抜けるかが勝負ね」
遠くでは、そのことを知らせるサイレンが鳴り始めている。
「つまり、どういうこと?」
「要するに、日本がピンチだってことだけど」
「ピンチ、なら戦わなきゃ!」
藍は突然、走り出した。
「ちょっと、アイ!?」
佳奈も慌てて、藍を追う。もちろん、取引の指示は出しながら。
「……計画通り」
相変わらず、ゆかりはよく解らない。
藍の思考的には「高い所が有利!」ということで、彼女は福岡タワーへと向かっていた。海岸に近く、例の飛翔体の姿は地上からでも水平線近くに見える。
「まったく、何考えてるんだか」
佳奈もノートパソコンを操作しながらも、引き続き藍に付いていく。とても人間業とは思えない。
福岡タワーは避難区域の設定に伴い、警備員達も撤収しようとしていた。鍵を全て閉め、車で退避しようとしたときに藍達が来たので、押し問答のような形となる。
「世界のピンチなんです!」
「ここは危険だ、君も早く避難しなさい!」
「でも世界が!」
そこにすっと、ゆかりが現れる。ゆかりが扉に手をかけると錠が外れる音がし、いとも簡単に開く。
「サンキュ、ユカリちゃん!」
藍はそれを確認すると警備員達を振り切り、中へ。
「まったく、もう!」
呆れつつ、それでも佳奈は付いていく。
福岡タワーの展望台は高さ一二三メートルの位置に存在する。藍はその展望台までの非常階段を、いとも簡単にのぼり切った。
「まったく、バカ力とはよく言うわね……」
息が上がっている佳奈も、走りながら取引の指示を出している辺り並大抵の人間ではない。
展望台からは飛翔体の姿がはっきりと見える。飛翔体は博多湾へと侵入しており、間もなく福岡上陸、といった所か。
藍はポケットからナタデココグミを取り出し、口に入れる。そして大きく息を吸い込み、
「ナタデココ、ビーーーム!」
大声で叫びつつ、ソフトボールのピッチングのようなフォームで左手を前に突き出した。するとその手のひらからは閃光が生まれ、ガラスを突き破り、飛翔体群へと向かう。二、三体へとそれは命中し、落下中も数機を巻き込みながら博多湾へと墜落する。
「やった、出来た!」
「危ない!」
攻撃を感知した別個体が即座に反撃。再び閃光が走るが、また飛翔体群の一部が落下し始める。
「ありがと、カナちゃん」
「私もここが滅びちゃ困るからね。経済的に生き残ってるのが日本だけだっていうのに」
佳奈が持っていたノートパソコンで、飛翔体の攻撃を跳ね返したのだ。
「そういえばユカリは、何でカメラを持ってるの?」
ゆかりの手には、小型のカメラ。
「うふふ、インターネット配信」
やはりゆかりは謎である。
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