第4話
飛翔体は九州本土に確実に近付く。
『至急、各隊へ。国籍不明の飛翔体は九州を起点とする日本領空へ入った模様。繰り返す、飛翔体は領空へ入った模様』
『渡辺より、イーグル隊全機・攻撃準備! 長坂キャプテン、離脱して下さい』
飛翔体から攻撃は受けていないものの、みすみす本土へ侵入を許してしまうのは自衛隊の沽券に関わる。世論を考えても攻撃した方が大きな問題にはならないという、計算もある。
主に対艦戦闘用に設計されたF-2の前にF-15Jが出ようとした、その時。
『こちら築城基地! 戦闘行動を停止せよ!』
F-15J集団は反射的に機体を大きく傾け、急旋回。再びF-2集団の後ろへ回り込む、
『──みすみすと敵を迎え入れよと!?』
命がけで飛翔体に臨み、今まさに戦闘を開始しようとしていたので、当然、現場は反発する。こうしている間にも着々と近付いてきているのだから、尚更。
『内閣総理大臣からの通達です』
『……判った』
内閣総理大臣。自衛隊に対して最高指揮権を握り、それが文民統制の根拠となる。それに逆らうということは、クーデターの意味をも有しかねない。
福岡市博多区、JR博多駅。日本の大動脈・東海道・山陽新幹線の終着駅であり、近年開業した九州新幹線との接続駅でもある。九州新幹線全通を機に大規模改築が行われ、駅舎も現代的な複合ビルに建て直されている。
その駅に、独特のサイレンが鳴り響く。有事の際に使用されることになっている、聞き慣れたパトカーなどのものよりゆっくりと音が上がっていくサイレンである。
『博多駅駅長室よりお伝えします。博多駅周辺は国民保護法に基づき避難命令が発令されました。繰り返します、博多駅周辺地区は避難区域に指定されました。──』
ざわめきが、放送をかき消す。『駅員の指示に従って冷静に行動して下さい』の部分は乗客に伝わらず、一人が走り出したのをきっかけに、周りも一斉に逃げ始める。
「皆さん、冷静に!」
駅員の制止も虚しく、四方八方に乗客は散る。それが逆効果になるのも知らずに。
有事による避難はただ、指定された場所に逃げればいいというものではない。敵はそれに構わず、襲ってくる。当然だ。よってバス等の移動手段で安全な地区へと集団避難する必要がある訳で、駅の管理を行うJR九州とJR西日本は福岡市交通局などとも協力し、既に大型バスの確保を行っていた。しかし人々が一カ所に集まらなければ効率はぐんと悪くなり、避難の遅れにもつながりかねない。
JRから連絡を受けた鉄道警察隊や周辺交番、自動車警ら隊などもパニックの沈静化を図り、拡声器を使って人々に呼び掛ける。徐々に、混乱状態は収まりつつあった。
しかし、遠くからドーン、と、何かが破壊されるような音が響く。その音に反応した乗客の一部が、再びパニック状態になりつつあった。
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