その寿司は白く輝く

けい えいじ

夢の彼方、新しき寿司

「適当に握ってくれだと?」

 スシ・クインティン・ダボガーに発せられた店主のその一言は、彼を絶望に突き落とすには十分な威力を持っていた。

「ウチの品はそう言われて簡単に握れるシロモノじゃねぇんだ」

 確かにダボガーは『オススメを適当に握ってくれ』と言った。しかし、このように突き返されるとは夢にも思わなかったのだ。

「……まさか、寿司の為にこんな辺境の星で切り札を使うことになるとは」

 ダボガーはそう呟くと腕のデバイスを操作し、空中に店主が見たことの無い天体のソリッドビジョンを浮かび上がらせた。

「私が所有するこの星は莫大な地下資源を有しており、その価値はこの地球において想像もし得ないだろう。私は料理の対価として、この天体を贈りたいと考えている」

 ダボガーは銀河系の外、プロキシマ・ケンタウリの遥か彼方の銀河から寿司を食べるためだけに遥々やってきた来訪者だった。そんな彼が寿司に対して常人ならざる執念を燃やすことは至極当然なことなのである。

「お客さんは何も分かっちゃいない」

 まさか、この星の頑固親父なるものがここまでとは!ダボガーは驚嘆していた。しかし、なればこそ、それを上回る覚悟を見せねばならぬというもの。

「ならば……コイツをくれてやる!」

 ダボガーは懐から出刃庖丁を取り出すとそれを自らの右前触手に突き立て、そのまま切断した。その痛みに彼の残された触手がうねりを打つ。これは彼がこの地に向かう前にリサーチした中で、最高位の伝統的な誠意の示し方だった。

「……お客さんには負けたよ」

 店主はそう言うと厨房に姿を消した。


 五分程経った頃だろうか。厨房から出てきた店主はダボガーの前にその一皿を差し出した。

「かき揚げの握りだ」

 直方体に握り固められたうどんと、その上に載せられたかき揚げを見てダボガーは全てを理解した。

 ダボガーはその寿司を食した後、約束した星の全権を店主に委ねると、このうどん屋を出て隣の寿司屋に入った。

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その寿司は白く輝く けい えいじ @KeiAge

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