182話 敵討ち
――死の王 ネクロ・ロード
かつて私と仲間たちが多くの犠牲の上に倒した魔物であり、私がこれまで見てきた中で最も脅威的な魔物である。そして、アムタリアに住む者にとって史上最悪の敵とも言えるだろう……
私はこのネクロ・ロードを討伐した後もこの魔物について調査を続けてきた、どうやって生まれ、現れたのか?今後同じようなものが現れる可能性はないのか?とにかくあらゆることを調査した。
ネクロ・ロードはそれ程の脅威だったのだ。
そして私は神鳥レアードの協力もあって、この魔物の詳細ことについて知ることが出来た。
どうやらこのネクロ・ロードという魔物はアムタリアとは別次元にある世界、通称『魔界』と呼ばれる世界を統べる王の一人であり、その魔界とアムタリアを繋げる能力『ゲート』という
アムタリアのあちこちに生息するアンデットと言う魔物は、世間では死人が生者を妬み魔物化したものと言われているがそうではない、実際はこのネクロ・ロードによって魔界から送り込まれてきた配下の魔物と言う話だ。
しかしどうやらネクロ・ロードはその力を自身には使う事はできないようで、ネクロ・ロード自身はアムタリアに直接来ることはできないらしい。
だからネクロ・ロードはこの世界の人間に憑依することにより意識と力だけをこちらの世界に送り込み、この世界を破壊、そして滅亡へと導こうとしていた。それがあの戦いへと繋がったのだ。
だが、先程も書いたようにネクロ・ロードには自身が来る術はない、そして憑依も自らの力ではできない。
ならば何故ネクロ・ロードはアムタリアの人間に憑依してこの世界を襲えたのか?
それはアムタリア側からネクロ・ロードを呼び寄せたに過ぎない。
我々の使える魔法やスキルの中には別世界のものを呼び出すものがいくつかある。
その代表的な物の一つがまず召喚魔法だ。遥か昔からある魔法で、自らの意思に応じた精霊や聖獣と言った別次元の存在と契約を交わし、自らの身体をゲートにすることで呼びだすことのできる魔法である。
しかし、これは自らの魔力に見合ったものしか呼び出すことが出来なく、ネクロ・ロードのような存在を呼び出す人間は恐らくいないであろう。
二つ目はスキル『悪魔召喚』
命を代価に魔力に見合わない物を召喚できる能力で、犠牲が大きければ大きい程強大なものを呼び出すことができる、しかしこの召喚に応じる精霊や聖獣はほぼ皆無で結果的に呼び出されるのは悪魔や魔族が多いと言われている。
遥か昔には魔法大国テスがこの二つの召喚を使い、大掛かりな魔法実験により魔界からバルオルグスを召喚しているが、結果制御できず失敗に終わっている。
そして三つ目はスキル『ネクロマンシー』
別次元の存在を依り代となる体に憑依させることで呼び出す特殊スキルでこれこそがネクロ・ロードをアムタリアに呼び出した能力である。
しかし、この能力は元々は別次元の存在と会話するためだけの能力で、力までも憑依させることなどは出来ない。
恐らくネクロ・ロードはこのスキルを持つものが召喚魔法と複合させたことによって生み出した新たな召喚魔法、もしくはスキルのよってアムタリアに呼び出すことができたのだろう。
私は仲間たちと共に
これでネクロ・ロードがこちらに来ることはないであろう。
だがこの先百年、千年先の未来にまたこのような力を持つものが現れる可能性がないとは限らない。
だからは私はこの調べた内容を図鑑に記し後世に伝えていこう。願わくばこの調べた事が無駄に終わる未来が
来ることを……
――
「……つまり、僕たちが倒したのはあくまで奴が憑依した依代の人間のみで、ネクロ・ロードは倒せていなかったと。」
「それどころか、倒すのにあれだけ苦労したのに肝心のあ奴は別世界にいて傷一つを受けていなかったと言うのか……」
エレナから聞かされたセナス・カーミナルの書の内容に先程まで二人の英雄が悔しさを滲ませる。
「そしてこのアンデットの大軍を見るに、今その能力を持つ者が再び現れたという事か。」
「どうやら、事はリリアナだけの話ではなさそうだね。」
「ああ……」
テトラとレオパルドはと顔を見合わせ頷くとネロの方に顔を向ける。
「坊主達、悪いがこ奴らの大元の相手は俺達に任せてくれんか?」
「……大丈夫なのか?」
話通りならこの二人が戦ったのは三百年前、当時とは年齢も違うし何よりエドワード・エルロンという物語の主人公もいない。
「フン、なあに三百年など長寿の俺達にとっては大した時間ではないわ。まだ坊主どもに心配される歳ではない。」
「トールはもう限界っぽいけどね。」
「そうだな、あ奴もそろそろ死期が近い頃だろう……だからこそ、この最後になるであろうこのパーティーで過去の遺物にもう一度終止符を打たせてほしい!」
レオパルドの言葉にネロはしばらく考え込むが、レオパルドの身体から溢れる闘志を具現化したような炎を見ると、ネロは頷いた。
「……わかった。なら俺たちはこいつらを潰してから行く。」
「済まねえな、この戦いが終わったら是非うちの国へ来い、その時改めて昔の話を教えてやるよ。」
「ああ、必ず。」
レオパルドの言葉にネロは小さく笑みを浮かべ頷く、すると図ったかのように第三波となるアンデットが押し寄せてくる。
「また新しいのが来ましたよ」
「よし、じゃあ行くぞ、テオ!」
「了解!」
レオパルドとテオがアンデットの大群の中を一直線に突っ込んでいく、レオパルドが炎で道を作りテオも走りながら呪文を唱えてモンスターを吹き飛ばしていく。
ネロはそんな二人を援護するためもう一度、ウォーターレーザーの呪文を唱え始める。
「喰らえ、ウォーターレー――」
「……ケタ……」
「え?」
魔法を放とうとした瞬間、突如頭上に覆い被さった影に気づくと、ネロは魔法を中断し慌ててエレナ抱えてその場から離れた。
すると、ネロのいた場所に何かが落下してくるとその衝撃で辺り一帯が土煙に覆われる。
「なに?なんなの?」
ネロとエレナが落下してきたところに注目する。
土煙により隠れていた場所が徐々に晴れてくるとそこには隕石でも落下したような穴とその中心に一体の獣人族がいた。
「……アジンノ……がキ……ミーアの……カタキぃ!」
「そんな……」
「こいつ……」
二人は相手の姿に驚きをみせる。
落ちてきたのは虎の姿をした獣人族であるが、その姿は異様な物だった。
眼球は片方が抉れており。全身を覆っている体毛の一部が欠けている。
そして、体のあちこちが腐敗していて骨があらわとなり、白目を見せたまま動く姿はアンデットそのものだった。
「ネロ、これって……」
「ああ、こいつ、ネクロ・ロードとかいう奴に体ごと売りやがったみたいだな。」
「アジンの……ガキぃ……ミーア……カタキい!」
――こいつ……
完全に正気を失っている獣人族は同じ言葉をただひたすら繰り返す。
かろうじて聞き取れる言葉にネロは顔を歪ませる。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「アジンの……ガキぃ……ミーア……カタキい!」
繰り返される言葉にネロは舌打ちをする。
そして襲い掛かってきた獣人の攻撃を避ける事も防ぐこともせずそのまま体で受け止める。
「ネロ!」
ネロの頭に獣人が持つ巨大な斧が勢いよく振り下ろされる、ネロに直撃するとその衝撃に辺りが揺れるがネロには傷一つ付かず逆に斧の方が折れてそのまま真上に飛んでいく。
「お前、名前は?」
再度尋ねるが、返ってくる返答は同じだった。
「アジンの……ガキぃ……ミーア……カタキい!」
「……ミーアの仇だぁ?心にもないこと言いやがって。」
武器が折れた獣人族は今度はその拳でネロを何度も殴りつけるがネロは一切防がない。
そして、獣人族が無意識に口にしてる言葉にネロは苛立ちを募らせる。
「アジンの……ガキぃ……ミーアの――」
「……ダセえなぁ、お前、そして弱い。『ヘルン・ミーア』はもっと強かったぞ。」
「⁉」
ネロが呟いた言葉に獣人族の動きが一瞬止まる。
「お前、良いのかよそれで?そんな自我もない状態で敵討ちして満足かよ。」
「……ウグググガガガガガ!」
「そんなに俺が憎いならなあ!自分の意思で俺を殺してみせろぉ!」
ネロの言葉を乗せたような拳が獣人族の腹を抉った。
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