181話 合流

 ネロ達は結界を出ると、リリアナの指示に従いそのままひたすら真っすぐに進んでいく。

 ネロはエレナの体力を考慮しつつも急ぎ足で進んでいくと、前方に蠢く何かが見え始める。


「なに、あれ?」

「……もしかしてあれ全部死霊アンデットかよ。」


 目の前の辺り一帯を埋め尽くすような数の死霊系アンデットのモンスターを見て思わず立ち止まる。

 その数は肉眼で確認できるものでも軽く千を超えており、その数は以前増殖し続けている。


「行くぞ」

「う、うん」


 止めていた足を動かし再び前進する。

 すると、今度は大きな轟音と共に前方に巨大な火柱が立ち上がった。


「今度はなんだよ?」


 ネロが火柱が立った所に眼を向けると、その場所には火柱の根源とみられる全身に炎を纏った筋肉質の大男と、その隣で魔法を唱えているエルフの男が立っていた。


――


「おらぁ、派手に燃えやがれぇ!業炎火拳ごうえんかけん!」


 レオパルドが地面に向かって巨大な拳を振り下ろすと、振り下ろした地面から天に上るような勢いの火柱が立つ。


「……吹き荒れろ、サイクロン。」


 それに続くようにテオが呪文を唱えると、その火柱を囲うように竜巻が発生する。

 そしてその二人の炎と竜巻が混ざりはじめ、炎の竜巻となると、辺り一帯のアンデットを巻き込み一掃していった。


「ふう、やっぱり久々の魔法は堪える、しかし倒しても倒してもキリがないねえ」

「やはり断つなら根本からだな、先行させたあ奴らでどうにか対処できればいいが……」


 殲滅したことにより周囲が静かになる、しかしそれも束の間で再び前方から死霊の大群が押し寄せてくる。


「あ、また来たね。」

「ったく、面倒な奴らだ、どうせなら大量の雑魚より強い奴を一匹連れてこいや」


 再び現れるアンデットにレオパルドたちも戦闘態勢をとる、しかし今度は後方から勢いのある水が飛んできたかと思うと、目の前のアンデット達を吹き飛ばしていく。


「なんだこれは?水?」

「初級魔法のウォーターレーザーだね、でもこの魔法じゃ肝心のモンスターを倒すには……」


 すると水は徐々に紫色に変色し始めると、その威力が格段に跳ね上がり、水圧で吹き飛ばしていただけだった水がアンデットの体を貫いて粉々にしていく。


「あれぇ?」

「なんだ、この威力の魔法は……」


 あっという間に再び殲滅されたアンデット達をみて二人がポカーンとしていると後ろから二人の人間族の少年少女がやってくる。


――


「アンタ達が女王の言ってた協力者か?」


 ネロが出現した死霊を超級魔法と化したウォーターレーザーで瞬時に葬ると、エレナを置いて一足先に同じく死霊達と戦っていた二人の男に駆け寄る。


「そうだが、そういうお前さんもそうなのか?」

「ああ、俺はネロであいつがはエレナ。」


 ネロは自分の名と、後ろから追ってくるエレナを紹介をする。


「そうか、わしの名は――」


 ネロが名乗った事に対し燃える大男も自分の名を名乗ろうとするが、本人より先に他の者から名前が告げられる。


「あぁー!レオパルド王だ!」


 名前を言ったのは全速力で走って追いついてきたエレナで、エレナは何故かレオパルドを見て目を輝かせていた。


「エレナ、知ってるのか?」

「うん、この人はエレメンタルランドっていう火、水、風、土の四属性のマナが特殊な大陸にすむ種族の一つ『火の民』の王にして最強の人物で紅蓮の帝王の名前で知られている人よ。その体に纏った炎と武術を組み合わせて敵を瞬時に葬り去るの!」

「ほう、お嬢ちゃん、よく知ってるじゃねえか。」


 エレナの説明にレオパルドはまんざらでもない様子を見せる。


「はい、モンスター図鑑に載ってましたから。」

「そうか、図鑑に載ってたか……図鑑?」

「はい、私の家、カーミナル家に伝わってきたとっておきのモンスター図鑑です。」


 エレナの口にした性にレオパルドとテオが驚きを見せる。


「カーミナルだと⁉という事はお前さん、セナスの孫か?というよりモンスター図鑑とはどういうことだ!」

「いやぁ、孫というより子孫でしょ。その調査対象を見つけたような眼はセナスそっくりだよ。」


 レオパルドともう一人のエルフの男がエレナの方をマジマジと見ながら何やら話し込んでいる。


「もしかして、お二方はセナス様と知り合いだったのですか?」

「ああ、なにせ昔一緒にパーティーを組んでいたからな。」

「そうだったんですか!」


 尊敬する自分の祖先、セナス・カーミナルのことを知っている人に出会えた事でエレナがさらに目を輝かせる。

 するとその顔を見たネロがこれ以上いくと話が脱線すると感じ、強引に本題に入る。


「それより、今の状況を教えてほしんだけど?」

「お、そうだったな。状況なんだがお前さん達も先ほどの奴らを見てたらわかると思うが、奴らはアンデットを使役しているらしい。」

「しかも、その数は無限に増え続けてるみたいでキリがないんだよ」

「アンデットを……一体どうやって……」


 話を聞いたネロが神妙な顔つきで考え込む。


「これは僕らの憶測だけど、恐らく後ろにはネクロ・ロードがいるんじゃないかと思っている」

「ネクロ・ロード?」


 初めて聞く名前にネロは首を傾げる。


「まあ、知らんのも無理はない、何せ三百年前に俺らが倒したからな。」

「三百年前って……」


 先程セナスとパーティーを組んでいたという話と、今の年数を聞いたネロとエレナは目の前にいる二人が何者なのかに気づく。

 

 三英雄物語、ヴァルハラの大決戦

 三百年前に現れた世界滅亡をもくろむ魔王ヴァルバランを剣士エドワード・エルロンが倒したとされる英雄譚でその仲間としてエレナの祖先、セナス・カーミナルも出てきている。


――でも、あの話に出てくる登場人物はエドワード・エルロンとセナス・カーミナルのみ。他の人物の名前は一切出てこなかった。


 ネロはかつてピエトロが言っていたことをふと思い出す。


『三英雄物語というのは過去の話を元に人々が作った作り話の事なんだ』


「……と言う事は今ここにきている他の人達も。」

「うむ、リリアナを含め皆、三百年前共に戦った仲間達だ。」


 レオパルドは二人が自分達の事に気づいたことを察すると、それに頷き肯定する。


「でもあの話に出てきた魔王の名前はヴァルバランでネクロ・ロードなんて名前のモンスターは出てこなかったはず……」

「ああ、たしかにあの物語はそうだけど、ネクロ・ロードとの戦いはそれ以前の話になるんだよ。」

「以前の話?」

「おう、元々俺らはこのネクロ・ロードを倒すためにパーティーを組んだんだ。ヴァルバランとの戦いはその延長線上の話だ。詳しく話してやりたいところだが話せば長くなるので今は伏せておく。」

「ならその倒した奴がなんで復活してるんだ?」

「それが僕らにもわからないんだよねぇ。」


 エルフの男がお手上げと言わんばかりにため息を吐く、レオパルドも腕を組みながら悩んでみせる。

勿論見たこともないネロは知るはずもない。


 たがエレナは少し違った反応を見せる。


「ネクロ・ロードってもしかして……」


 何かに気づいたエレナが持っていたアイテム袋から一冊の古びた本を取り出すと、慣れた手つきでページを捲っていく。


「む、それがさっき言ってたセナスのモンスター図鑑か。」

「そういや、見覚えがあるね。戦闘中にもかかわらずセナスがよく襲われながら記録してたよね。」

「うむ、しかし何故俺がモンスター図鑑に載っているんだ?」

「著者がセナスだからね、僕は載ってないの?」


 二人が懐かしき友の書いた本をエレナの後ろから覗き見て盛り上がりを見せているが、その子孫であるエレナは後ろからの声に耳を貸さず、ひたすらページを捲っていく。


「…………あった。」


 そして、エレナは目的のページを見つけると、そこで手を止める。

 開いたページにはネクロ・ロードについて書かれていた。


「おお!流石セナス、ネクロ・ロードについてもしっかりと記していたか。」

「このモンスターだけ図鑑とは少し文面が違ってたからすごく印象に残っていたのです。」

「違う文面?」

「うん、他のモンスターについては特徴や生息地とかが細かく書かれているんだけど。

このモンスターは図鑑というよりも研究書?みたいに書かれていたから……」


そう言うとエレナはそのページに記された内容を読み上げる。

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