162話 サヨナラクズ野郎
「……」
ネロの屋敷の一室のテーブルに置かれた一つの剣に、その部屋にいる全員が首を揃えて注目していた。
その剣は、まるでドラゴンをモチーフにした鞘にしまわれ、中にある刃は見るだけで普通の剣ではないのがわかるほどの輝きを放っていた。
「これ、なに?」
「なにって、ドラゴンバスターですけど?」
ピエトロの問いにその剣を作った張本人であるエーコがあっけらかんとに答える。
「どうしてこんなものまで作ってるの?」
「なんか、屋敷に素材が揃ってたから、暇つぶし?」
「へぇ……」
――……こいつ、なんでメイドなんてやってるんだろ?
時代の変化により過去と産物となりつつあり、もう入手は不可能と思われていた剣を暇つぶしで作っていた、エーコに全員が心の中で呟く。
「……まあいい、それよりもこれの効果にスキルはないってのは本当かい?」
「はい、ドラゴンバスターはドラゴンの鱗を斬りやすい硬水晶とオリハルコンを混ぜ合わせてつくってあるだけで基本構造は普通の剣と変わりませんよ?」
「硬水晶か……料理用の刃物とかにも使われている素材だね」
――という事は剣が理由ではない?それとも、剣の構造が根本的に違うのか?
ネロから頼まれたバルオルグス攻略の糸口を見つけるため、かつてバルオルグス討伐に使った竜殺しの剣の元となった対ドラゴン用武器、ドラゴンバスターの特徴を調べてみたがこれといったものは見つからないでいた。
「ピエトロ!」
ピエトロが頭を悩ませている中、部屋の扉を開けるとともに自分の名前を呼ぶ少女の声がする。
入ってきたのは別室でメリルの治療をしていたエレナだった。
「エレナ、どうしたんだい?」
エレナが用もなくこっち来るはずはない、何かあったのだろうと考えるが、エレナの様子を見る限り深刻な事ではなさそうだ。
「えっとね、今困っていることはない?」
「え?」
「今なら私なんでも答えられるから。」
唐突な問いにピエトロは少し戸惑いを見せるが、何やらエレナも慌てているようにも見えたのでピエトロはとりあえず今の状況を説明した。
「それでかつてバルオルグスを倒した龍殺しの剣のことを調べててね。」
「なるほど龍殺しの剣の特性についてね。わかった、考えてみる」
そう言うとエレナは言葉通り目を瞑ってなにやら考え始める。
そして僅か数秒後。
「わかったわ、龍殺しの剣は対バルオルグスのために神鳥レアードから授かった聖なる羽根を使って打った剣で、元のドラゴンバスターの性能の他に斬ったドラゴン種の力を封印する「竜族封印」のスキルが付いてあるの。」
と、まるでその剣を鑑定でもしたかのような回答した。
「それ、本当なのかい?」
「うん、本当よ。スキルがそう言ってるわ」
――スキル?つまり、今エレナはなんでもわかるようなスキルを手にしていると言う事?
エレナには英雄の血が流れている、そんな特殊スキルを覚えたとしてもおかしくはない、しかしそれでも……
と思考を巡らせたところでピエトロは考えたことをやめた。
――いや、そんなことどうでもいいか、今はただエレナの言葉を信じよう。
「エレナ、今ならなんでもわかるって言ったよね?ならそのスキルでネロにバルオルグスの生態について教えてあげて。」
――
「あ、ネロ君、ボイスカード光ってるよ!」
ピエトロからの連絡を待ち続ける中、ネロのボイスカードに目を光らせていたリグレットがすぐさま反応した。
言われたネロは、すぐにボイスカードを取り出す。
「俺だ、ピエトロか?。」
『ネロ?私だけど。』
「その声はエレナか⁉︎」
「なにぃ⁉︎」
声をあげてエレナの名前を呼ぶと、その名前に敵であるテリアが反応した。
「お前、無事なのか?」
『なんのこと?』
「まさか、ヘルメスのやつしくじったのか?」
まるで何事もなかったようなエレナの反応にネロは安堵し、テリアは怒りで肩を震わせる。
『そんな事より、バルオルグス、倒し方わかったよ!』
「え?本当か!と言うよりどうしてお前が?」
『詳しくは後で話すわ、それよりバルオルグスについてなんだけど、バルオルグスは二つの首がそれぞれ無効スキルを持っているの!右の首が物理無効、そして左の首が魔法無効のスキル、だから龍殺しの剣をも持ってしても倒し切ることはできなかったの!』
「そうか、私は上空から全体を通してステータスを見たから両方が現れたのか。」
「それに言われてみればそうだわ、私達は普通に戦っていたように思ってたけどどちらかが片方の首にしか攻撃してなかった、きっとそのあたり、テリアの奴にしっかり誘導されてたのね。」
話を一緒にい聞いていた二人が、その真相を知るとそれが的中していたのかテリアは悔しそうに歯を食いしばる。
『私、役に立てた?』
「ああ、お前のおかげで奴を倒せる、ありがとうな。」
ネロが感謝を告げると、ボイスカードからはエヘヘと褒められた子供のような笑い声が聞こえた。
『じゃあ、あまり邪魔しちゃ悪いしそろそろ切るね。……ネロ、絶対負けないでね』
「ああ、負ける理由が見当たらねえよ。」
そのセリフとともにネロはボイスカードを切ると改めてバルオルグスと向き合う。
「と言うわけだ。てめぇの体の仕組みさえわかればもう怖くねぇな。」
「フ、フン、体の仕組みが分かったからと言ってどうしたというんだ?それ以上にレベルが違いすぎるんだ、攻撃を喰らったところで大したダメージなど……」
とテリアが言っているうちにネロが左の首の頭の上に飛び乗る。
そして……
「コメットパンチ!」
気を込めた拳を一撃、頭に振り下ろすと、バルオルグスの頭は今までとは違い、拳の下からパキパキとヒビが入っていき、そして頭の一つが石が割れるかの如く崩れ落ちた。
「……まずは首一つ」
「ぎゃぁぁぁぁ!俺の首がぁ!」
首を一つ失ったバルオルグスは痛みを感じているのか苦しむようにその場でじたばたともがき始める。
そしてそれは同化しているテリアも同様のようであった。
「よし、じゃあ次はリンスちゃんが決めちゃって!」
「任せて、とっておきの魔法で決めてあげる。」
そう言うと次はリンスが魔法を唱え上空から巨大な剣を落とす。
すると、やはり、今度も効いているようでバルオルグスが咆哮に似た悲鳴を上げる。
「ぐわぁぁ、ク、クソ、クソクソクソクソクソ!ふざけるな、こんなこと……俺の計画が崩れるわけがない!お前らは俺の手で絶望を味わうんだ!泣いて、苦しんで、そして恐怖を味わって死んでいく、そういう計画のはずだあぁぁぁぁ」
「そんな計画知らないわ、私は今日この日をもって、五百年間の使命に終止符を打つ、お姉ちゃんと二人で作り出した、この魔法で!」
リンスが、次にこの日初めて見せる魔法を放つ。
しかし、その魔法を見たネロとリグレットは驚きを見せる。
「ウ、ウォーターレーザー⁉︎」
リンスがトドメと言わんばかりに放った魔法は初級魔法と言われるウォーターレーザーだった。
「ちょ、ちょっと、そんな初級魔法で倒せるの?」
「初級?ううん違うよ、これはね……」
リンスが水を発射していると、ネロの時と同様に紫の色をした電気がバチバチと音を鳴らしながら発生するとリンスの放つ水に変化が現れる。
「な、何!急にウォーターレーザーの色が変わった!」
「これは俺の時と同じ……」
「ウォーターレーザーが初級魔法?……違うよ、これはね、真の力を発揮するのに驚異的な魔力が必要なだけの、誰でも簡単に使える
ウォーターレーザーが紫の光線へと変わると、そのままバルオルグスの口から頭部を貫いた。
リンスの攻撃により二つ目の首も崩れ落ちると、残るはバルオルグスと同化して三つ目の首とみなされたテリアだけだった。
「よし!」
「あわわわわわ、まずいまずいまずい、早く逃げないと」
最後の首になった事でその場で元の体が固定されてしまったテリアは、バルオルグスの体をそのものを動かし逃げようとする。
しかしその巨体の動きは鈍く、方向転換するだけでもかなり時間がかかっていた。
「おい、もっと早く動けよノロマ!でないと――」
「でないと?」
背後からの声にテリアがゆっくりと振り向くと、そこには体に飛び乗ってきたネロが立っていた。
「おい、貴様!何俺の体に気安く乗ってんだ!さっさと降りろ!」
「よう、どうだ自分の計画が全部狂って絶望を味わう気分は?」
「は?お前は馬鹿か!良いわけないだろ!絶望は自分が味わうのじゃなくて相手に味合わせるのが良いんだろうが!」
テリアの最後まで身勝手な言動にイラッとするがそれも一瞬、ネロはすぐに不気味な笑みを浮かべテリアの頭を鷲掴みにする。
「どこまでも自分勝手なやつだ、まあお前みたいなやつの方が殺しやすいから良いけどな。」
ネロが拳を固く握るとそのまま後ろに引いて力を込める。
「じゃあな、クズ野郎……
「待て待て、まずは俺の話を――」
テリアの命乞いの言葉も聞かぬまま、ネロはテリアの顔を力一杯殴りつける。
山をも揺らすほどの力で殴り付けられたテリアの顔は跡形もなく弾け飛び、そしてその場にはバルオルグスと繋がった肉塊と、バルオルグスの本体の体だけが残った。
全ての首を失ったバルオルグスの体は機能を停止し、徐々に石化し始めると山と並んで動かなくなる。
そして、ネロは気を込めて再び力いっぱい拳を振り上げる。
「これで、終わりだぁ!」
ネロが最後となる一撃を巨体に向かって撃ち込むと、周囲を巻き込むほどの激しい衝撃と共にバルオルグスの残骸は音を立てて崩れ落ちていった。
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