第143話 ナイツオブアーク

コロシアムに突如現れた将軍を名乗る子供をレゴールは高い場所からじっと眺めていた。

自分のモンスターを殺されたことよりも、それを殺した子供の実力の方にレゴールは深く興味を一撃で抱いていた。


「これはこれは、ミディールから遥々こんな町までよくお越しくださったエルドラゴ将軍。して、ミディールの将軍ともあろう者が何用かね?」


 レゴールはネロの挨拶に応えるように丁寧な口調で尋ねる。


「ええ、実は以前から我が国では、アドラーで消息を絶つ民が続出おり、その事に王は頭を抱えておりました。しかし、とある伝から行方不明者がダルタリアンとこの街にいるという情報を聞き、一度調査しに参った所存であります。」


ネロの話に対しレゴールは眉ひとつ動かさずに聞いていた。


「成程。で、それは誠であったのか?」


ネロがゆっくりと頷く。


「ええ、今この場にいるもの達こそ、我が祖国の民達です。」


ネロが後ろに控えるミディールの兵士と震えている民たちを示す。

それは事実上、ブルーノがこの一件に関与していたと言っているようなものだが、やはり

レゴールは大した反応は見せない。


「そうか、ならばミディールはどうするつもりか?」

「……王の命令に従い、これよりブルーノ公爵家およびその関連都市である、ベルトナを滅ぼそうと思います。」


そう強く宣言すると闘技場内から大きくざわつく。

モンスターを一撃で倒したネロの実力に怯えるものや、無謀だと失笑するものそれぞれだ。

そしてその言葉にようやくレゴールは、小さく笑みを浮かべる。


「成程、それは困るな。ならばこちらも精一杯抵抗させてもらおう。」


レゴールの出した手の合図に合わせ、向かい側の扉が開かれると、中から複数モンスターが現れる。

ゴブリンやオークといった、どのモンスターもあちこちでで見かけるような珍しくも無いモンスターだが、外で見かけるモンスターよりも少し大きさや色などと言った生態が違っている。


「先程の戦いで、貴殿が相当な実力の持ち主なのはわかった。ならば次は数を増やして――」


しかしレゴールの話が終わる前に闘技場はモンスターの血で赤く染まっていた。


「……ふむ、この程度じゃ相手にならんか。」


再び扉が開かれると、今度は先程とは違い見たことのない巨大なモンスターが続々と出て来る。


「さて、貴様の強さがどれほどのもの是非私に見せてくれ。」



――


 ゲルマの屋敷のある町、ダルタリアンの街中では今、ゲルマの戦闘員と帝国側から送られてきた刺客による激しい戦闘が行われていた。

 街の中に配備された千人近くに及ぶ、ゲルマの兵に対し帝国側の刺客は僅か十人、しかし戦いは帝国側の一方的な展開になっていた。


「いたぞ!こっちだ!」


 一人の兵士の声に、近くにいたゲルマの兵が一斉に集まってくる、

 そして集まってきた兵はそのまま近くにいた紫色の鎧を着た剣士を囲う。


「さあ、もう逃げられんぞ!紫の騎士。流石の貴様もこの数相手に一人じゃ太刀打ちできまい。」


四方八方から剣や槍を向けられる。

しかし兵士の言葉に紫の剣士は不敵に笑った。

そしてその直後、周りを囲まれていた紫色の剣士が兵士達の前から姿を消した。


「な⁉消えただと!どこへ?」

「こっちさ。」


 背後から声がすると全員が振り向く。

 すると後ろには先程囲んでいたはずの紫の剣士とその他、青、黄、白、茶、緑の色の鎧を着た五人の剣士がおり、全員が一斉に斬りかかってきた。


「バ、バカな!?いつの間に!」


 突如現れた色鮮やかな剣士たちの奇襲に兵士達は慌てふためき、その隙を剣士たちは、完璧な連携で突くと、次々と敵をなぎ倒していった。


――


『こちら、紫、今五人と一緒に二〇ほど頭数を減らした。』

――よしわかった。だが、敵の数はまだまだ多い、無理に相手にせず、敵を引きつけることだけに専念してくれ。

『了解した。』


その返事とともに紫の騎士から赤の騎士であるポールへの連絡は途絶える。

帝国からの刺客として送られたパーティー、ナイツオブアークは数人に別れながらエレナ達がいる屋敷へと向かっていた。


ベリアルから出された指令を聞いたときは、ポールは思わず耳を疑った。


自分の眼の前でスカイレスと共に死闘を演じていたあの怪物以上に怪物をしていた少年が捕まるなどまずありえない事だ。恐らくこれには何らかの意図があったのだろう。

そう考えていたが、ポールはその指令を承諾した。


理由の一つは帝国からの強迫によるもの。

このナイツオブアークのパーティーはマルスの他にも様々な問題を抱えた者たちが多数いる。

そして中には罪人である騎士もいた。その為、その騎士の罪を問わないことを理由にこのパーティーは帝国の犬と言われるほど忠実に従っている。

そしてもう一つの理由としては、向こう側の意図が読めないこと。


もし自分たちが襲いに来ることが向こうの作戦のうちならその作戦を阻止することになるからだ。


――とりあえず、あのお嬢ちゃんを保護してから考えよう。


「よし、次は銀の方だな。」


単独でいるポールが一人呟くと、ゆっくり目を閉じる、そして頭の中で銀の騎士に語りかける。


――こちら赤。銀、聞こえるか?


ポールが頭で呼びかけて数秒、すぐに脳内に男の声が入ってくる。


『こちら銀、聞こえている。』

――そちらの様子はどうだ?

『ああ、今こちらに敵をは引きつけている最中だ、金も同じく動いているみたいだしもうすぐ東側が手薄になるはずだからそこから先は進んでくれ。』

――了解、そちらに向かう。


ポールが答えると交信が途絶える。


「東側か……」


ポールは銀からの指示通り。そのまま東方面へと足を進める。

すると、今度は他のメンバーから呼びかけが聞こえるとポールはすぐに交信を繋ぐ。


『こちら金さ。赤、聞こえるかい?』

――……ああ、聞こえている。


独特な話し方の男の声が脳内に伝わるとポールは少し。渋い顔をする。


『今、ちょうど東側の兵士達を引きつけたところさ、だから東は今ガラガラさ、だからそのまま屋敷まで突っ切るといいさっ。……ただ、引きつけたのはいいが生憎行き止まりに当たってしまってね。現在敵に囲まれ中なのさ。』


――わかった、今すぐ紫達の方へ転送する。


そう答えると。ポールは目を瞑り手を前に出す。


――金の騎士を紫の騎士の周囲に転送。


「スイッチ!」


ポールが言葉とともに指を鳴らす。

すると、別のメンバーのところでは紫の騎士達がいる場所に金の騎士が移動していた。


この脳内での交信から転送までが、赤の騎士の持つ特殊スキル。『シンクロシニティ』の能力である。

この能力は、いわば自分を親機にした電波のようなもので、能力範囲内にいる仲間へテレパシーを、飛ばしたり、メンバーの近くに他のメンバーを移動させたりできる能力である。

また、近距離ならば本人であるポールを介入しなくとも仲間内で意思疎通が可能であり、これにより完璧な連携を生み出していた。


「よし、転送完了。後は俺が屋敷に侵入して、メンバーを俺の元へ移動させればいいだけだ。」


改めて作戦を整理すると、ポールは陽動により手薄になった東側の街中を一気に駆け抜けた。



――


「ゲ、ゲルマ様!大変です!今、街に引いた包囲網が破られ屋敷内に帝国から刺客が――」


 慌てた兵士が中を確認せずに扉を開けると同時に報告をする。

 しかし、そこにゲルマの姿はなかった。


 部屋にいたのは髑髏の仮面を被った不気味な集団のみで、ゲルマが座る玉座もどきの椅子には、その集団のリーダーである男が座っていた。


「ゲルマ様はここにはおらんぞ。」

「貴様!そこはゲルマ様の――」

「だからいないと言っておろう、気づかれなければその事実はなかったのと一緒だ。」


そう言いながら男が今度は後ろの金貨の山からくすねた金貨を取り出し遊び始める。


「では、どこに……」


不満に思いながらも、それをかみ殺して兵士が尋ねる。


「街の外へ出て行ったよ、目的地は知らんがな。」


髑髏の男がが兵士の質問に素っ気なく返す。そして金貨で遊ぶのをやめると、男は足を組んで兵士の方へと顔を向ける。


「それで?確か屋敷に侵入されたんだって?」

「あ、ああ。」

「千人規模の人数で十人程度を逃すとは情けない……いや、流石ナイツオブアークといったところか。」


髑髏の仮面を震わし、カタカタと音を立てて笑う。

そして椅子から立ち上がると、ゆっくり扉へと歩いていく。


「ど、どこへ?」

「決まっている、仕事を果たしにいくだけだ。」


そう言うと男は遊んでいた金貨を後ろに弾くと、金貨は兵士の手元に渡る。

そして触れた瞬間、コインは突如黒い炎で燃え上がりあっという間に灰と化した。


「さて、せいぜい楽しませて貰おうか。劣悪種ども」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る