第144話 オーマ卿

――ゲルマ屋敷前


「青、緑、紫、茶、白、金、銀、全員いるな?」


ダルタリアンの街を抜け、ゲルマの屋敷へと侵入したポールが能力で八種の色の名の剣士を呼び寄せると、全員がいることを確認する。


「皆のおかげで無事、屋敷へと侵入できた。そしてここからはさらなる警備の強化が予想される。作戦はいつもの通り全員が散らばりながら移動し、それぞれの状況に合わせて俺が皆を移動させる。従っては――」


ポールが屋敷内での動きを各自に指示していく、すると突如、上空から熱気と共に黒い影がポールたちを覆った。


「全員、後ろへ跳べ!」


その存在にいち早く気付いた銀の騎士が叫ぶと、全員一瞬のためらいもなく、指示通り後ろへ飛ぶ。

すると全員が固まっていた場所に巨大な黒い火の玉が飛んでくると、地面に落下しそのまま辺りを黒い炎が地面を焼き尽くす。


「これは、ファイヤーボール?」

「……いや、下級魔法であるファイヤーボールにしては威力が強すぎる、それにこの黒い炎は……」


全員が轟轟と燃える黒い炎を見つめる。

するとどこからともなく唸るような低い男の声が聞こえてきた。


「ほう、流石帝国一のチームと言われるだけあって見事な連携だな。」


 その言葉と共に炎の中から仮面を被った装束服を着た男が一人現れると、それに続いて後ろからも順に次々と同じような姿の者が現れる。


「お前達は……」

「オーマ卿か……」


 先頭の男が軽く指を鳴らす、すると激しく燃えていた炎が一瞬にして消え去った。


「左様、我が名はヘルメス、オーマ第三の位を持つ者にしてオーマ卿を統べる者である。」

「第三の位だと⁉」


その言葉を聞いたポールが思わず声をあげる。


「ほう、少しは我が一族について知識があるようだな。」

「……以前、皇帝の命令で少し調べた事があったからな。」


ポールはベリアルの命令でオーマ族について調べていたことがあった。


オーマ族は魔王の血を受け継いだ魔族に近いと言われている人間の種族で、見た目は普通の人間と変わりはないが、感情によって色の変わる瞳と『暗黒魔法』と呼ばれる種族専用の魔法が使えるのが特徴の種族だ。そしてオーマ族が持つ魔力はとてつもない高く、そして黒い。


 個々が持つ魔力の高さは血筋の影響が強く、その強さに応じて一族内で十から一まで位にランク分けされており、下位の者でも他種族の平均の二倍の魔力を持ち、その中でも高位とされる位三以上の者は、一人で普通の人間の魔術師百人相当の力を持つとすら言われている。


ポールもオーマ卿の存在についてはもちろん知っていたが、高位の者は里の守護のため外には出ることがないというをしきたりを聞いていたので、精々中位の者たちの集まりだと考えていたので大して気にしていなかった。


「フッ、流石は皇帝の犬と呼ばれることはある。」

「金さえ払えば赤子でも殺す冒険者を騙った殺し屋集団に言われたくないね。」


 内心の焦りを隠すようにポールが精一杯の皮肉で返す。


「それで、皇帝の犬の貴様らがこのゲルマ様の屋敷に何の用だ?」

「ここに軟禁されているミディールの使者の連れであるエレナ嬢を引き取りに来た。」

「その話は断ったと聞いているが?」

「ああ、だから、奪還という形になる。」


 ポールがそう言うと、そのまま剣に手をかける。


「……その剣を抜けばもう後には退けないぞ?」


ヘルメスが威圧的な声で警告する。


 帝国からの刺客であるナイツオブアークがゲルマ側のオーマ卿に剣を抜けば、それはゲルマと帝国の正式な対立、そして戦争の始まりを意味する。

しかし、その警告はもはや無意味であった、何故なら帝国はもうすでに動きはじめ、またゲルマの方も戦いの準備を始めている。ここでナイツオブアーク達が退いたところで変わらない。

 初めから選択肢などは存在しなかった。


ポールが躊躇いもなく一歩を踏み出す。

それを見たヘルメスは仮面の内側で薄っすらと笑みを浮かべた。


「そうか、なら仕方あるまい……皆の者、構えよ!」


 その号令と同時にオーマ卿のメンバーが一斉に手を前に突き出し魔法を唱える準備をする。

それに対し、ナイツオブアーク達も剣を構える。


――まともに戦えばこちらの分が悪い。


「こちらが九人に対し向こうは五人だ。態々相手にする必要はない。隙を見つけた者が屋敷へと侵入し、少女を奪還せよ!」

『おう!』


 全員がピッタリ声を揃えて返事をすると、それと同時にポールがヘルメスへと斬りかかる

 そして両パーティーのリーダーの剣と魔法のぶつかり合いを合図に一つの戦いが幕を開けた。


――


――どうやら戦いが始まったみたいだわ。


外から感じる魔力にエーテルが部屋の扉を見つめる。


どの魔力が誰の者かなんてのはわからないが、いくつか強い鎖のような繋がりのある魔力の持ち主達がが屋敷こちらへ向かおうとしているのがわかる。


――多分こいつらが、帝国からの刺客ね。


強い繋がりと純粋さが感じ取れる魔力、しかしその一方、それに対し、迎え撃っているのは危険な魔力を持つ者達だった。


――この禍々しい魔力は恐らくオーマ族、しかも高位の人もいる。


 強い繋がりのある魔力と禍々しい魔力、どちらも非力な妖精族のエーテルからしたらとてつもなく強くどちらかが上なのかはわからない。

しかし互いがぶつかれば周りにも影響が少なからず出てくるだろう。


――もうすぐここも戦場になる。私達も色々と準備しておかないと。


 ピエトロの話では今はまだ小競り合いだが、時間が経てば今後戦いは激化していき、いずれは大きな内戦となるだろう。

 そうなる前に出来ればこの街を出たいと思っていた。

しかし……


エーテルが中央に置かれたソファーに座る二人を横目でチラッと見る。


「それで、このモンスターは通常は見た目こそ綺麗とは呼べないんですが天候によっては、天候によって姿が変わり特に雨上がりの後の姿が凄く綺麗なんです。」

「水にぬれた体に太陽の光が当たり反射によって美しく輝かせる。そしてそれを実現させているのがこのモンスターの醜い鱗ね。なるほど、この醜さの裏にはこんな仕組みがあるのねこれは盲点だったわ。モンスターって言うのも中々奥が深いのね。」

「そうなんです!」


――二人共この状況で何楽しそうに魔物図鑑なんかではしゃいでるのよ!


この状況下で緊張感のない会話をする二人にエーテルが心の中でツッコミを入れる。


――こっちは異質な魔力を感じて気が気じゃないのに、あ〜も〜どうせなら私も話に混ざりたーい!


姿を見せられないエーテルは、はしゃぐ二人を恨めしそうに、そして羨ましそうに眺めていた。


――



「ビギャアアアアス!」


ベルトナのコロシアムに解き放たれたモンスターの悲鳴のような咆哮が響き渡ると、それと同時にモンスターが、文字通り粉砕される。

コロシアムのリングに次々と合成獣が解き放たれるが、それとほぼ同時にネロが倒していき、今や合成獣が出てくる扉の前はモンスターの血や死骸で埋めされる方たちになっていた。


「なあおい、ヤバくないか?」


 ネロとモンスターとの戦いを娯楽のつもりで見ていた貴族たちから少しずつ焦りの声が聞こえ始める。

 ブルーノの総戦力である合成獣が次々とやられるのを見て、危機感を感じ始めた貴族達は続々と観客席から退席していく。


「合成獣はあとどれくらいいる?」


周りの空席が目立つ席に座るレゴールが兵士に尋ねる。


「ハッ!今大至急で研究所からも連れて来ていますが、それでも残り半数を切ったかと思われます。」

「そうか、まだ半分か……。だが、それも時間の問題だな、まあいい、研究所の全モンスターを連れてこい。」

「え⁉まさか、あの合成獣もですか?」

「無論だ。」

「ハッ、わかりました!」


 兵士が指示を聞き速やかにその場を後にすると、一人になったレゴールはネロの戦いを見ながら小さく笑みを浮かべた。


「フフッ、まさかこれほどとはな。さあ、もっと私に強さの高みを見せてくれ。」

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