第142話 作戦開始
「ここがコロシアムか。」
ネロが目の前に建つ巨大な建物を見上げる。
ミディールにも闘技場はあったが、ここの闘技場は遥かに大きく頑丈に作られている。
ただ、別にこの街の闘技場が特別なわけではない、本来闘技場とは罪人同士を戦わせる為の貴族の娯楽に造られたもので、罪人達を収容できるように中に牢獄が作られているため、これくらい大きいのだ。
なので寧ろ単純な催し物の時のみ解放されるミディールの闘技場が小さいくらいであった。
「さて……と。」
ネロは選手側の入場口の門を警備する兵士たちにへと近づいていく。
「ん?なんだ貴様は?ここはガキが来るような場所じゃない。」
ぞんざいな態度で接してくる兵士に対し、ネロは丁寧な対応を見せる。
「初めまして、私はミディールの使者としてきましたネロ・ティングス・エルドラゴと申します。」
「貴様が使者だと?」
「フッ、ミディールってのはよっぽど人材が不足してるようだな。で?。その使者様がこのような場所に何の用だ。」
「はい、実はここ最近我が国ではアドラー帝国に訪れた国の民たちが行方不明になるという出来事が続いてまして、調査したところこの場所に隔離されているという話を聞き訪れました。」
ネロの話を聞いた兵士二人が一度顔を見合わせる。
「……知らんな、ここにはコロシアムに出場する罪人しかおらん」
「なら、一度調べさせてもらってもよろしいですか?」
そう言いながらネロが門へと近づく。
「知らんと言っているだろ!」
兵士がネロを追い払おうと槍を突きつける。
ネロはその槍の先端を素手で握りしめると――
「……生憎、それではいそうですかと、引き下がるわけにはいかねーんだよ!」
拳に力を込めるとそのまま槍の先端をへし折った。
「な、貴様!」
兵士が見せた一瞬の動揺の隙に、ネロはすぐさま二人の兵士のうなじに手刀を当て気絶させる。
「さて、茶番はここまでにして、中では名一杯暴れるかな。」
ネロが肩をまわしながら門へと入って行った。
――
ピエトロが地下研究室の入り口の前で待機して小一時間、ボイスカードに連絡のランプが付く。
「はい、こちらピエトロ。」
『ピエトロか?コロシアムについたぞ。』
「思ったより早かったね。」
ネロの声を聞くとピエトロは自然と笑みをこぼす。
『まあ、色々あってな……と。』
『ぎゃあ!』
カード越しから何かを殴るような音がした後男の悲鳴が聞こえた。
「何かあったのかい?」
『ああ、外野がちょっとうるさいが気にするな。で?入ってからはどうすればいい?』
周りの声が二人の会話に混じるように聞こえてくるがピエトロはネロの言葉通り会話を続ける。
「そうだね、まずは、そこに捕まっている筈のエリック様の護衛をしていた兵士を探し出して解放するんだ。」
『なんだこいつは⁉強化された兵士たちが全く歯が立たん、ええい、警備用の合成獣を連れてこい。』
『了解、それで?』
『よおし、連れて来たな。さあ、合成獣ども!その牙であ奴を噛みちぎってしまえ!』
「そして、次にその名目においてブルーノ家への宣戦布告を告げる。後は、君が好きなように暴れるといいよ。」
『へえ、じゃあ、ここを壊し、まく、っても……ああもう邪魔だ!』
『な⁉あの合成獣が一撃で⁉』
「ああ、もうその場所はいらない場所だ存分に暴れてくれ……ただ、あまり油断しないようにね」
『あいよ!』
ネロの返事の後に再び断末魔が聞こえると、通信はそこで途絶える。
「ネロ君は無事についた?」
連絡を終えると同時にリグレットが尋ねてくる。
「ああ、今は目下、警備兵と乱闘中だよ。僕たちもそろそろ準備をしよう、君達には、揺動に向かわず残った合成獣の始末をお願いしたい。」
「オッケー任せて!何せこの任務は珍しくリンスちゃんがやる気だからね。」
リグレットの言葉に合わせてリンスが拳を握る。
「……この任務、絶対、成功させる。」
「そうだね、この作戦必ず成功させよう!」
その言葉に、この場にいる全員が小さく頷いた
――
「ふう、さてと。」
カードを切るとネロは辺りを見回す。
辺りには連絡中に戦いによって気絶した兵士や合成獣の亡骸が散らばっており、とても静かだった。
「今頃静かになりやがって……まず先に片づけてから連絡すべきだったな。」
ネロが頭を掻いて反省の言葉を述べる。
「さて、まずは解放だな。」
ネロはあちこちにある牢屋ををこじ開け、収容された人々を次々と開放していく。
「あ、ありがとう。君は一体」
「ミディールからの使いだ、ここにミディールの民や兵士達が捕まってると聞いたんだが。」
「ミディール?ああ、それなら今ちょうど全員リングに上がらされているところだ。」
解放した男性の指さす方に目を向けると、小さい窓からリングの様子がうかがえる。
リングの上では、巨大なヘビのモンスターと、その蛇に対し複数の兵士が後ろの民たちを守るように立ち振る舞っていた。
「あそこにいるやつ全員ミディールの奴らか……好都合だな、」
そう呟くと、そのままリングへと向かっていった。
――
コロシアムのリングの上で、モンスターとミディールの兵士の睨み合いが続いていた。
目の前にいるのはデビルスネークというCランク級のモンスターで連携を組めば勝てない相手ではない。
ただ、それはあくまで普通のデビルスネークの話だ。
今相手にしているのはブルーノの手が施された合成獣、普通のデビルスネークと違い魔法も使い、人並みの智恵も持つ。
ハッキリ言って分が悪い、本来なら全員ばらけて時間を稼ぎそこから勝機を見出すのだが、今の兵士たちの後ろには何の力も持たないミディールの民たちがいた。
ここから動くことはできない。
智恵を持つことが幸いしたのかデビルスネークは剣を向ける兵士を警戒してチロチロと舌を出しながら様子を窺っていた。
そして、その均衡状態が続いていると、見物に来ていた貴族たちから罵声が飛ぶ。
「おいおい、さっさと戦えよ。つまんねえだろうがよ。」
「どうせどうあがいたって死ぬんだからさっさと突っ込んで死んで見せろよ!」
「く、くそ、あいつら……」
「落ち着け。奴らの言葉などに耳を傾けるな!」
周りの罵声に痺れを切らし始める兵士を兵隊長である男が宥める。
「ふむ、連携の上手い精鋭部隊の動きに対し知恵を持たせたデビルスネークがどういう対処をするか見たかったが、これでは話にならんな、もういい、こいつら全員殺して新しい奴を連れてこい。」
観客席の一番見晴らしのいい場所に作られた特等席座るレゴールが手を挙げ号令をかけるとデビルスネークはその命令に従い兵士たちに襲い掛かった。
「た、隊長!」
「く、ここまでか……我らの命に代えても民には近づけさせるなー!」
覚悟を決め兵士たちも切りかかろうとした瞬間、突如、上空から何かが落ちて来てデビルスネークに直撃すると、その巨体が潰れたトマトの様に弾け飛ぶ。
「何⁉」
「なんだ、何が起こったんだ?」
この場にいる全員が何が起こったかわからず困惑する、しかしレゴールだけはそのまま潰れたデビルスネークの方を見続けていた。
そこには肉片の中心に立つ少年の姿があった。
「鳳凰裂傷……なんか奥義書の書かれてたやり方と違うなあ?」
少年はなにか納得のいかない様子で首を傾げている。
「そ、そなたは一体……」
兵士長の言葉に顔を向けるとそのまま少年は尋ねてくる。
「ここにいるやつら全員ミディールの者か?」
「あ、ああそうだが……」
「俺はあんたらが捕まってる間に将軍になったネロ・ティングス・エルドラゴというものだ。」
「エルドラゴ……まさか、バッカス将軍の⁉」
ネロと名乗った少年はそのというに頷く。
「まさか……そんな……」
未だ戸惑うミディールの民を置いて、ネロは何かを探すように観客席を見渡す。
そして目的の者を見つけると、その者に対しネロは一度ニヤリと笑みを浮かべた後、改めて自己紹介をする。
「お初お目にかかり光栄です、ブルーノ卿、私はつい先日ミディールの将軍に任命されたネロ・ティングス・エルドラゴと言う者です。以後、お見知りおきを……」
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