第122話 就任式
「やっと毒が治ったと思ったら早速就任式かよ。ったく、忙しねぇったらあやりゃしねぇ。」
玉座の間へと続く廊下をネロがブツブツと不満をこぼしながら歩く。
「でもおかしいね、あの王様ならこんなに急に始めることなんてしないだろうし……そうなると何かあったと考えるのが一番かな?」
「何かって、なんだよ?」
「確証はないけど、就任式を急かすって事は恐らく……」
「……帝国関係か。」
自らが言った言葉にネロは眉間にしわを寄せた。
玉座の間に着くと、扉の前にいる兵士達がゆっくりと扉を開ける。
すると、そこには就任式のために王のいる玉座までの道に兵士達がずらり……とはいかず数人の警護の兵士と玉座に座る王とその側近である現将軍バルゴと大臣がいるだけといういつも通りの状態だった。
「……就任式をするにしてはなんだか地味じゃない?」
「と言うより、いつも通りだね。」
エレナとエーテルが何か変わったところがないか部屋の中をキョロキョロと窺いながらカラクたちのいるところまで歩く。
部屋自体は特に変化した様子はない、ただ王のカラクはいつものようなラフな態度ではなく、一人の王としての顔つきを見せていた。
ネロ達がカラクの前まで着くと全員がその場で膝をつく。
「よし、揃ったな。」
「ではこれより就任式を始めるネロ・ティングス・エルドラゴ伯爵よ、前へ」
「はっ!」
大臣のゾシモスに名前を呼ばれると、ネロも力強く返事をし立ち上がり、前にニ、三歩出ると、再び膝を突きひれ伏す。
「ネロ・ティングス・エルドラゴよ、今日を持って貴殿をミディール王国六十五代将軍に任命する。」
カラクの静かな部屋にカラクの声が響き渡る。
「はっ!将軍の名に恥じぬよう日々精進します。」
「そして前将軍であるバルゴ男爵には将軍補佐について貰い、まだ若いエルドラゴ将軍を支えてもらいたい。」
「はっ!」
「では、両者の今後の働きに期待する。」
「「はっ」」
ネロとバルゴが揃って返事をすると、仲間と数人の兵士達から小さな拍手が送られる。
そして、その拍手をもって就任式を終了すると、カラクが一つ息を吐き、少し疲れた表情でいつもの様子に戻る。
「ふう……さて、簡易的な就任式を終えたところで本題に入ろうか。病み上がりなのにいきなり悪いなネロ。本来ならもっと人を集めて盛大に行いたいのだが、生憎そんな余裕もなくてな、すぐにでも例の話を進めていきたい。」
「……と言うと、やっぱり帝国で何かあったのか?」
「ああ、実はつい先日報告があってな。また帝国で一人行方不明者が出た。」
カラクの言葉にネロ達は顔を見合わせる、そしてその言葉に対しエレナが小さく手を挙げ質問する。
「……あの、確か今はアドラー帝国への入国は制限してたはずでは?」
「まあそれはそうなんだが……」
そこまで言うとなぜかカラクが言葉を濁す。
そして代わりにバルゴが話を続ける。
「実は一人の貴族がその禁止令を破って独断でアドラーヘと調査に出向いたようなのだ」
「はぁ?それで自分が捕まってんのかよ、誰だよ、そのバカな奴。」
ネロの失辣な言葉に何故だかカラクが申し訳なさそうな表情をする。
「ローレス公爵家の長男エリック・ローレス様だ。」
その名前を聞くと、エレナが思わずえっ?言葉を小さく漏らす、ネロも顔を険しくさせる。
「ローレス公爵って確か……」
「ああ、行方不明となったのは俺の叔母の息子、俺の従兄弟にあたる。」
「つまり、王族って事ですか」
ピエトロの言葉にカラクが無言で頷く。
「なんでまたそんな奴が……」
「エリックはとてつもなく生真面目な奴でな、十六歳ながら常に国の事を考えてるような奴だ……ただ、その考えに見合った能力を持っていないのがネックでな……」
「王と足して割ったらちょうどいいかもしれませんな。」
ゾシモスが髭を触りながら王への皮肉を吐く。
「うるせー!とにかくだ。流石にもし王族に何かあったら、知らないじゃ済ませられない、最悪戦争にもなりかねん、行方不明になった場所も場所だ、事は一刻を争う。」
「その場所と言うのは?」
「エリックはダルタリアンで行方をくらませた。」
「ダルタリアン……ゲルマ公爵の本拠地だね。」
――ゲルマ……
そのを聞くとネロがオルグスの事を思い出し自然と拳に力を入れた。
「だからお前たちには悪いが出来る限り早く動いてもらいたい、正式な就任式も、祝いのパーティーもその後だ。どうだ、行けそうか?」
カラクから今一度問いかけられると、ネロ達は互いに顔を見合わせ頷いた。
「あぁ、体のなんともねぇし、なんの問題ねぇ。」
ネロが手や首の骨を鳴らしながら不敵に笑う。
「私も大丈夫だよ。」
「私はむしろさっさと解決して私の国を助けて欲しいって感じ。」
「僕も問題はありません。と言うより実は言うと水面下で動いていましたしね。」
「え?」
その一言にみんなが一斉にピエトロの顔を見る。
「大会中に協力を得られそうな参加者や帝国関係者と接触して幾人かに協力を要請しました。それにゲルマの内部に僕の雇った間者も送り込んであります。」
「お前、いつのまに……」
「フフ、せっかくの世界を巻き込んだ一大イベントだったのに何もしないなんてあり得ないよ。」
ピエトロが笑顔でそう答えるが周りはその笑顔を見て顔を引きつらせている。
「よ、よし、ならばまず以前言ったようにヘクタスに行き使者として向かってくれ、その後、予定通りゲルマとブルーノをぶっ潰せ!やり方はは全てお前達に任せる。もし必要なものがあるならなんでも用意する。……そしてエリックの事もよろしく頼む。」
「おう!」
ネロが代表して大き声で応えると、四人は立ち上がりその場を後にした。
――
「大丈夫ですかな……本当に」
ネロ達が去ったあとゾシモスが不安を漏らす。
「さあな、ただあいつらはまだ子供だ、子供達だけに全てを任せるのもおかしな話だよな?」
「……と言いますと?」
バルゴの問いかけにカラクがフッと笑うと、そのまま玉座から勢いよく立ち上がった。
「もちろん、俺達は俺達で動く!バルゴ!出かける準備をしろ!」
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