第120話 二人戦争
「早く逃げろ!」
「おい、押すなって!」
「皆さん、どうか落ち着いて行動してください!」
スカイレスの観客席への攻撃により闘技場は大混乱に陥っていた。
ミディールの兵たちが注意を呼び掛けながら観客達を外へと誘導させて行くが、この混乱によりあまり進んではいない。
同じ帝国に属する者としての罪悪感からか、その状況を見てポールも兵士達に加わり、まだ状況を把握出来ず動こうとしない観客達へ避難を促しにあちこち走り回っていた。
「クソ、スカイレスの野郎……とんでもないことしてくれるぜ。」
スカイレスの行動が恐らく単独での行動だと察すると、今後の事を考えポールは頭を抱える。
この事がアドラーの皇帝の耳に入れば、恐らく大会に出ていた自分達もただでは済まないだろう。
「……とにかく今は観客達を避難させるのが先だ。」
ポールが一度その事を忘れ、避難誘導に集中する。
するとこの今の状況を逆手に取り、空いた最前列でこの戦いを一番近いところから観戦を楽しんでいる三人が目に入る。
「おい、あんた達も呑気に観戦してる場合じゃない。早く避難を……」
ポールが注意しに三人へ歩み寄るが、三人の側まで近づくとふと足を止める。
「お前らは……」
そこにいたのは今大会出場者のレクアルドとミーファス、そしてバオスであった。
「紅蓮の帝王にオルダのヴァルキリア、そしてお前は……獣王バオス⁉︎」
「ほう?我を知っている輩がいるとはな、自己紹介の手間が省ける。」
その名で呼ばれたバオスが少し関心を見せる。
「……前にアドラーの皇帝の依頼で世界中の手練れの奴らの事を調べさせられたことがあったからな、しかしこれは一体どういう組み合わせだ?」
ポールが三人の組み合わせを見るや眉を顰める、とてもではないがこの三人このに接点があるようには見えない。
「偶然よ。この戦いを間近で見たいという同じ考えを持つ者同士、気が付いたら同じ場所にいただけよ。」
「それで、赤の騎士がこの僕たちに一体何の御用かな?」
レクアルドが髪をかき上げながら尋ねる。
しかしこの面子を前に避難勧告を言いに来たなど言える訳もなくポールは言葉を詰まらせる。
そんなポールに代わりにミーファスが答える。
「恐らく、危険だから私たちに避難するように言いに来たのでしょう」
「フッこの僕が流れ弾でやられるとでも?」
「フハハ、我も随分舐められたものだ」
そう言いながらバオスとレクアルドが息ぴったりに笑う。
「それにしても……どちらも強いが戦いに美がないなぁ、僕ならこれだけの実力があれば戦場にもっと華を添えられるのに。」
レクアルドが視線をリングにの方に戻すと、その光景を見て残念そうに嘆く。
「燃える大地に崩れる壁、まるでたった二人で戦争しているかのようね。」
「フハハハ、どちらも飢えた野獣の如し、今まで本気で戦える相手がおらんかったのだろう。」
「……どちらにせよ二人とも歴史に名を残すほどの化け物だな。」
三人の会話の中に自然とポールも混じる。
こんなことしてる場合じゃないとわかっていてもやはり一人の戦士としてこの戦いは見ておきたいと思ったのだ。
「どちらもまだまだ若いからな、ただ今日の二人の戦いは今後、歴史に残る戦いになるかもしれんな。」
バオスが言った言葉に全員が改めて二人の戦いを傍観した。
「……ところで、あのネロって子は年齢はいくつだったかしら?」
「確か今年で十四歳と言っていたな。」
「へぇ……十歳年下かぁ……」
「……ん?」
ミーファスのポツリと呟いた一言に男三人が少し敏感に反応した。
――
「嵐風剣」
剣先から竜巻が発生した剣でスカイレスのネロに向かって斬りつける。
斬撃共に放たれた竜巻にネロも避けようとするが、先程の攻撃により体が思うように動かず、そのまま直撃してしまう。
そして後方へと吹き飛ばされるが、上手く受け身を取るとすぐに構えを取る。
「クソッちょっと痛てぇじゃねえか」
「直撃しておいてちょっととは、舐められたものだな。」
スカイレスの剣が再び光り始める。
「ちっまた、魔法剣かよ。」
ネロが視線を周りの地面に移す。
周りの地面には先程の繰り出したスカイレスの魔法剣の爪痕として未だにあちこちに炎が残っており戦いの場は炎の海と化していた。
「クソッこっちだってやられっぱなしだと思うなよ?」
ネロが捨て身の覚悟でスカイレスに突撃する。
スカイレスもすぐに魔法剣を解き放つが、ネロはそのまま攻撃を受けながらスカイレスに突っ込みそのまま殴り飛ばす。
ネロの一撃にスカイレスも再び壁まで吹き飛ばされ、今度は壁を突き破り闘技場の外まで飛んでいくが、すぐに何事もなかったかのようにネロの前に現れた。
「まともに攻撃受けて、痛がる素振りも見せねえとはムカつく野郎だ。」
「それはお互い様だ……魔王炎武陣」
スカイレスが紅に輝く剣を地面に突き刺すと闘技場の地面が瞬く間に炎の海へと変わる。
「またこの技か!」
炎の熱さにネロが思わず上に飛び上がるが、周りの地面が全て炎で埋め尽くされており、飛び上がったところで再び炎の中に戻るだけであった。
――クソッ!なんて技使いやがるんだこいつ。
繰り出された炎は、今まで見てきたどんな炎よりも熱い。
そんな炎をを詠唱もなく一瞬でこれだけ出現させるのはまさに詠唱の必要のない剣術と魔法を組み合わさった魔法剣の特徴とも言えるだろう。
――これが魔法剣の極みか。
前世のネロは魔法剣を覚えようとしなかった。
理由としては魔法を使わなかったことと、誰もが扱える手軽な剣術として魔法剣を軽く見ていたからであった。
「それならば……」
ネロが拳に気を集めると、そのまま地面に殴りかかる。
「いくぞ……コメットパンチ!」
少し恥ずかしげに自分でつけた技名を呼ぶと、ネロが気を込めた拳を燃えさかる大地に突き刺す。
すると、ネロを中心に激しく燃えていた周囲の大地が砕け、炎が消える。
「よし、これで火が消えた。」
しかし、周りを見てみるとスカイレスもその場から消えていた。
「あいつ、どこに……」
グサッ
その瞬間、鈍い音と共に、ネロの背中に痛みが生じた。
「……おいおい、騎士ともあろうものが背後から攻撃するとはどう言うつもりだ?」
「言ったはずだ、貴様を排除すると……そのためなら手段は選ばん。」
そう言いながらスカイレスが背中に刺した剣をそのまま深く突き刺そうと押し込む。
しかし剣は、ネロの背中の表面程度にしか刺さっておらず、どれだけ力を込めてもそれ以上深く刺さることはなかった。
「……」
これ以上は無理だと判断するとスカイレスはすぐに剣を引き距離を取る。そして一度今手に持つ剣をしまうと帯同してあるもう一本の禍々しいオーラを放つ剣を取り出す。
それは剣というよりは剣の形をした魔物の様で取手の上の部分には三つの目がギョロギョロと動いている。
「趣味の悪い剣だな。」
「だが、性能はたしかだ。」
スカイレスが斬撃を放つ。
ネロは手で弾こうとするが、直感で斬撃を躱す。
躱した斬撃がそのまま後ろの壁に当たると、直撃した壁がジュッと音を立て溶けていった。
「……毒か。」
「今までの戦闘から貴様を物理的にダメージを与えることは不可能と見た。だが、状態以上に関しては通用の余地はありそうだからな。」
ネロの顔つきが険しくなる。
一応、毒に対する装備や解毒剤は整えてあるがそれは全て一般的な毒に対するものばかり、スカイレスの持つ剣の毒にはおそらく通用しないだろう。
「上等だぁ!」
――大丈夫。仮に受けたとしても俺のステータスならすぐに死ぬわけじゃない。
そう言い聞かせると。ネロは一つ息を吐き、スカイレスへと突撃する。
それを読んでいたのかスカイレスも同時に上へと飛びあがる。
「雨竜」
飛び上がったスカイレスが空中で複数の姿に分かれると、剣を下に向けながら雨のように一斉に降り注いでくる。
「影分身か⁉」
かつてミーアとの戦いでは似たような技に苦しめられたが、今のネロには破る事ができる。
「こう言う時のための技だ!喰らえ、土竜拳!」
ネロが地面に拳を突き刺すと、今度は爆発せず、そして複数のスカイレスの影の一つに向かって気弾が飛び出す。
「なに?」
「これは相手の気に対して反応する技だ。分身なら見破れる。」
飛び出した気弾がスカイレスに直撃すると、それと同時に他のスカイレスの姿が瞬く間に消滅する。
そして、地面に降り立つと丁度二人との間に適度な距離が保たれる。
次で決める。
これまで争いを続けてきた二人が初めて同じ考えを持つ。ネロが拳を構えると、スカイレスは剣を激しく輝かせる。
先程まで激しく争っていた二人が荒れ果てた戦場で微動たりともせずにただ無言で睨み合う。
その時間は長くも感じ短いようでもあった。
もう観客もほとんどいないこの闘技場に静寂が訪れる。
そして、なにが合図となったかはわからないが、互いが全く同時に動いた。
その瞬間、闘技場にはこれまでの衝撃とは違うまるでこの場の空気を奪うような、圧迫感に包まれた。
闘技場の中心にはネロの突き出した拳とスカイレスの剣がぶつかっていた。
「……っ」
剣を素手で受けたネロの拳にスカイレスの禍々しい剣の刃が刺さるとネロは今まで味わったことのないほどの痛みと衝撃が走り、表情を歪める。
だがネロはそのまま拳を振り切ると、スカイレスの剣はその拳の衝撃に耐えきれず、まるで剣が悲鳴をあげたような醜い音を立てて折れるとそのまま剣先が宙へと高々と舞い上がった。
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