第119話 違和感


ネロは蹴りをスカイレスに防がれると、そのまま後ろに飛び距離を取る。

繰り出したのは挨拶代わりの軽い蹴りだが、今までの相手は大抵がこの蹴りを受け止めきれずに、遠くに吹っ飛んでいたのでこれを真正面から受け止めたのはスカイレスが初めてであった。


「へぇ、やるじゃん。ほんじゃあ、ここからはもう少し本気で行くぜ。」


 ネロは不敵に笑うと、地面を蹴り再びスカイレスへと突っ込む。

 スカイレスも剣を構え、ネロの攻撃に応戦する。


 二人の拳と剣がぶつかり合う。

大きな音と共に先程より大きな衝撃が闘技場一帯に波紋のように伝わる。

 スカイレスが今度も受け止めようとするが、先程よりも強いネロの力に耐え切れず、押し切られると、後方へと弾き飛ばされる。

 そのまま後ろの壁まで飛んでいくかと思われたが、スカイレスは、剣を地面に突き刺し持ちこたえると、すぐさま反撃に向かう。


 激しい轟音が何度も闘技場に響き渡る。

 その音は拳と剣がぶつかり合う音ではなく、まるで巨大なハンマーとハンマーがぶつかり合う様な異様な音だった。

 観客達は、終始無言になる。

 はっきり言って見に来ている観客達にとってはこれ以上につまらない戦いはないだろう、何故なら誰一人この二人の戦いを目で追えていないのだから。

 わかるのは闘技場に伝わる音と衝撃のみ、ただ。それだけで二人がどれだけ凄い戦いをしているのかだけはわかる。


「こいつ……」


 先程まで余裕を見せていたネロだったが気が付けばその顔から余裕の表情はなくなっていた。

 ネロとスカイレスの戦いはネロの一方的な攻撃であり、スカイレスはただひたすら避けるか防ぐの一方であった。

 しかし、ネロはいまだにスカイレスを倒しきれずにいた。


 確かにスカイレスはネロの攻撃をことごとく防いでいる、しかし、その幾多どないネロの攻撃に何度か防ぎきれずに攻撃を受けている。

だがスカイレスはネロの攻撃を受けてもまるで痛みを感じていないかのようにすぐさま立ち上がり向かってくる。


――何かおかしい……


 いくら自分が加減をして、相手も強いとしても、あれだけの攻撃を受けてダメージを受けた様子がないことにネロが何か違和感を始める。

 そしてこの違和感は以前にもどこかで感じていた。


――なんだこの感じ、どこかで……


 思い出そうと一瞬考えて混んだ隙をついて、スカイレスが斬りかかってくるととネロは咄嗟にカウンターで前蹴りを入れる。

 スカイレスの腹部に蹴りが完璧に入ると、蹴り飛ばされたスカイレスは、そのまま後方の壁まで吹っ飛び勢いよく壁に叩きつけられた。


 叩きつけられた壁が崩壊し、瓦礫の下にスカイレスが埋もれるとその場はちょっとした静けさに包まれた。


「終わったのか?」


 その静寂に観客たちがぽつぽつと口を開き始めると、その声は瞬く間に大きくなると大歓声へと変わっていった。

 周りからは拍手喝采まで聞こえ始めるが、ネロは気を緩めることなく真剣な表情でジッと崩壊した壁の方を見ていた。

 そしてそれを見ているうちにネロはその違和感について思いだし始める。


――そうだ、この感じ。まさか⁉︎


 何かに気づいた直後、瓦礫の山が崩れ中からスカイレスが出てくる。

 だがその姿は先ほどまでのスカイレスの格好とは違い、またネロはその姿を見て目を細めた。

 スカイレスは紅色の鎧を装備していた、先程までの顔だけを仮面で隠した姿ではなく、体中がその鎧で覆われ頭には見事な翼の装飾が付いている、中でもネロが驚きを見せたのがその鎧の材質だ。

 紅色の素材など、この世界では限られておりネロはその鉱石を一度見ていた、そして先程までの戦いでの違和感と合わせて疑問が確信に変わる。


「まさか、アルカナか!」


ネロの表情がみるみる険しくなる。


「なるほど……確かにこの男は危険のようだなだ。」


 スカイレスがポツリと呟き、ネロに向かってゆっくりと歩き出す。


「てめぇ、その鎧……」

「鎧?……そうか鎧にかけた透明化ステルスの魔法の効果が切れてしまったか。今までは魔法が切れる前に終わらせていたのが、貴様相手では無理だったか。まあ仕方がない。」


スカイレスがネロに向かって剣を構える。


「やはり貴様は排除すべき存在だ、だがその前に……」


スカイレスが横に一閃の斬撃を繰り出す。

ネロもすぐさま構えるが、スカイレスの攻撃はネロを無視して観客席に向かって放たれていた。


「な⁉︎」


スカイレスの放たれた斬撃が観客席に直撃するとそこから多くの悲鳴が上がった。


「おいてめぇ!何してやがる。やめろ!」


ネロの声を無視してスカイレスはドンドン客席を攻撃する。


「今の姿を見られるわけにはいかないのでな……余興は終わりだ、死にたくなければこの場から離れるがいい」


スカイレスの斬撃に会場がパニックになり始めると、観客達が一目散に外へと避難していく。


「やめろって、つってんだろ!」


そしてそんなスカイレスにネロが殴りかかる。

しかし、スカイレスはそのネロの攻撃をいとも簡単に避けた。


「なに⁉︎」

「お前の攻撃は見切った。」


 そう言うとスカイレスの剣が紫色雷を纏い始める。


「紫電雷神衝!」


 周囲を紫の雷がバチバチを音を立てながら暴れる剣でスカイレスがネロを突き飛ばす。


「ぐっ!」

「……確かに貴様は強い、恐らく全てにおいて圧倒的に自分より上だろう、だが貴様の動きや癖から次の動作を読み取ることくらいはできる。」


「……そうかよ、なら今度はわかってても避けられないほどの速いのを――」


 ネロが攻撃を受けた箇所をさすりながら再び身構える。

 しかしその直後、自分の体の異変に気付く。


「か、身体が、重い……?」


痛みは残っていないが動こうとするとまるで、重力が変わったかのように体が一気に重くなった。


「紫電雷神衝は相手の急所一点に直接雷の魔法を流し麻痺させる魔法剣技。

普通ならばこの攻撃を受ければ立つことすらままならないが、まあ、それだけ鈍れば十分だろう。さて、ではこちらも反撃を開始させてもらおう。」


 スカイレスの手に持つ剣が赤く輝き始める……

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