第102話 大会出場者

――アドラー帝国 帝都ヘクタス

 ミディール王国から大々的に宣伝された武術大会の事は同盟国である、アドラー帝国でも話題となっていた。

 自国からは誰が出るのか?優勝は誰がするのか?街中が他国であるミディールの話で持ちきりだった。

そしてその話は当然アドラー皇帝ベリアルの耳にも入っていた。


――

「……くだらん」


 ヘクタスにも配られていた大会開催のチラシを見てベリアルが吐き捨てる。


「おや、意外ですね。てっきり陛下ならスカイレスを出場させて、世界にスカイレスの実力を見せつけようとするのではと思いましたが。」


 ベリアルの反応に少し驚きの表情を見せると、大臣は側に控えるスカイレスに目を向ける。

 スカイレスはまるで銅像のように玉座の前で微動だにせず立っている。


「フン、こんな催し物のためにスカイレスを育てたわけではない、実力を見せるなら戦場でだ。それにこいつを出したなら優勝はスカイレスで決まるだろ?せっかくの同盟国のイベントを出来レースなんかにする気が引けるからな。ま、せいぜい最強が出ない大会で最強を決めるがいいさ。」


 ベリアルはフッと嘲笑気味な笑みを浮かべるとビラをグジャグジャに丸め、床へと放り投げた。

 丸まったチラシはそのままスカイレスの足元へと転がり、転がってきたチラシにスカイレスは目を向けた。


『とある国にいるのよ、あんたと互角、いや、それ以上の相手がね。』


――……


 頭の中でリグレットに言われた言葉が蘇る……



――


ネロが獣拳を修行をを始めてからおよそ二週間。

 大会までの日にちは淡々と過ぎていった。

 大会が近づくにつれて、街には腕に覚えのある屈強な戦士から魔術師といったもの達が続々と集まり参加に意欲を示していた。

……だが、そのほとんどが出場されると噂される者達の名前を聞いた途端、目的が参加から観客へと変わり、最終的には絞られた人数での開催となっていた。


 エレナ達はネロが修行している間、カラクに言われて大会運営の手伝いを行っていた。

 試合はトーナメント方式で四つのブロックに分かれてそれぞれが急造で作られた仮闘技場で行われる。そして、そのブロックを勝ち抜いた者だけが本闘技場で行われる本戦へと進むことができる。


 ピエトロ達は大会の参加者名簿の作成と、出場選手を確認して四つのブロックへの振り分けを担当していた。

基本は全員均等に分かれるくじ引きでブロックと対戦相手を決めるが、今回の大会はあまりにも有名どころが集まったため、せめてそこら辺のメンツが同じブロックに固まらないように分けさせようとの事だった。


「え~と……候補は山賊王バラバモンさん、西の聖女エルーダ・ロッサさん、紅蓮の貴公子レクアルドさん、後はオルダのヴァルキリアことミーファスさんだっけ?」

「アドラー帝国からはナイツオブアークの赤の騎士と黒の騎士の二人が出てるみたいだね。あとダイヤモンドダストのブランも参加してるみたいだ。有名どころはこれくらいかな?」

「ほへー、なんか凄そうな名前の人ばかりね」


 大会参加の受付場所でもある本闘技場の一室で、エレナとピエトロが提出された参加申込用紙に目を通し、名の通った者をリストアップしていく。エーテルは読み上げられた選手の異名に呆けた声をあげながら作成された名簿に書かれた名前に一本ずつ線を入れていく。


「実際、凄い面子だよ。どの人物も歴史に名を残してもおかしくない人たちばかりだ。」

「や、やっぱりそんなに凄いんだぁ……でもあのスカイレスとかいう人は出てないの?」

「残念ながらあいつは出ないわよ」


エーテルの質問にどこからともなく聞こえてきた声が答える。

声が聞こえたのは部屋の床からだったので皆が床に注目すると、床からリグレットが浮かび上がってくる。


「あいつは皇帝の犬だからね。こんな大会に興味なんて持たないわよ。」

「あ、リグレットさん、こんにちは。」

「うん、こんにちは……でももう少しリアクションが欲しいんだけど。」


 驚かせようとわざわざ地面から出てきたが普通に挨拶されるとリグレットが少しうなだれる。


「お疲れ様、仮闘技場の方は準備できたのかい?」

「うん、なんとかね。あの国王、即席でいいって言うくせにやたらモチーフとかにこだわって面倒くさいったらありゃしなかったわ。まあ、報酬もそれなりにもらったから頑張ったけどね。」


 リグレットがそう言って一息つく。

 カラクは今大会の仮闘技場の作成を、ピエトロの提案によりリグレットの同化スキルを活かして彼女に依頼していた。


「それは、本当にお疲れさまでした。」

「ところで、リグレットは出場しないの?」

「私はいいわ、別に最強とかに興味ないし。リンスもロールも一緒、態々人前で力見せたがる二人じゃないしね、だからその分ブランには頑張ってもらわないとね。あのオッサン、歳柄もなく妙に気合入れちゃってさ、大会のこと知ってから一人で山籠もりし始めたのよねぇ。」

「そ、それは手強そうですね……」


 ブランの気合の入れようにエレナが少し苦笑いを浮かべる。


「で、これが参加者名簿?へぇ、なかなか粒ぞろいだね。」


 リグレットが作成された参加者名簿を楽し気に目を通す、しかし一つの名前のところで目が止まる。


「あれ?こいつ……」

「どうしたんですか?」


 名簿を見て顔を顰めるリグレットにエレナが尋ねる。


「黒の騎士はともかく赤の騎士が参加するのは珍しいわね?」

「そうなんですか?」

「うん、あいつ糞真面目だから普段はこういうイベントには顔出さずギルドや帝国の依頼に没頭してるやつだからさ、なんかこういうイベントに出るのは意外かなと思って……」

「やっぱり、一人の戦士として猛者が集まるところは放っておけなかったのしれないね?」


 ピエトロの言葉にもいまいち納得いかなそうに首をひねるリグレット、しかし考えても無駄と感じたのかそのまま名簿を元の場所に戻した。


「そう言えばネロ君も参加するんでしょ?今は修行中だっけ?」

「はい、今は知り合った獣人族の方から獣拳を習ってるところです。」

「へぇ……獣拳かぁ!うちのロールも確か使ってるわね、で?どうなの?」

「本人は大会までに全部覚えてやるって活き込んでたけど、ここ数日街に戻ってきてないところをみると……どうだろうね?」

 

 そう言ってピエトロが苦笑いを作ってごまかした。




――


 街から少し離れた先にある小さな森、そこでは少し小柄な人間の少年と、大柄な獣人族という変わった組み合わせの二人が修行を行なっており、その様子を付き人である猫耳の少女が心配そうに見ていた。


「どうした?気が上手くコントロールできていないぞ?もう一度だ」

「はぁ、はぁ……おう!」


 バオスの呼びかけに気合を入れて応えるとネロは拳に気を込めて上へと掲げる。

 そしてそのまま拳を地面へと突き刺した。


 ……しかし、拳を突き刺した地面に大きな変化はなく、それを見てネロが苛立ちの声をあげる。


「ネロ様……凄いですね……もう何日も休まずに」

「元々身体能力は人を凌駕しているからな、あの底なしの体力も納得がいく。しかし……」

 

 バオスがネロがいる場所の周辺にある穴だらけの地面を見つめる。


――こやつ……もしかすると……

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