第77話 初めての敗北
「なっ⁉︎これは⁉︎」
ネロが気を込めたナイフを横に斬りつけながら回転すると、ミーアの放った攻撃など簡単にかき消すほどの爆風が巻き起こる。
そしてその爆発はホワイトキャニオン全体を大きく揺るがせた。
――
激しい音と大きな爆発よってホワイトキャニオン中のモンスターたちが一斉にに騒ぎ出す。
爆発の根源であるネロとミーアの戦いの場周辺からは、生物が瞬く間にいなくなり、その場だけが静寂に包まれる。
爆風により起きた砂塵が徐々に消え始めると、そこには身体が黒く焦げて仰向きに倒れている傷だらけのミーアと、傷は一つも付いていないにも関わらず、弱弱しく立っているネロの姿があった。
「……迂闊でした……あなたにまさか剣の心得があるとは……しかも、これほどの剣技を……」
「ハァ……ハァ……悪いが俺は剣士じゃねぇ、だから……うっ⁉︎」
極大に体力を消耗し蹌踉めく足に、追い討ちをかけるように立ちくらみがネロを襲う。そしてバランスを崩すと、地面に膝をつき、口から少量の血を吐き出した。
「ハァ……ハァ……口に血の味が……気持ち悪りぃ……しかしやっぱこの技は使えねぇなぁ……前世で覚えた技はルール違反って事か。」
ネロは血をこぼさないように口を覆った手を口からゆっくり離すと、手に付着した血を見て、眉間にしわを寄せる。
ネロは前世で覚えた技は未だに使えることができた。しかしそれを使えば体に不可解な負担が襲うようになっており、それは技が高度であればあるほど負担は重くなるため、ずっと使わずに封印し続けていた。
ネロは呼吸を落ち着かせ、少し休憩をした後、付いた膝を震わせながらゆっくりと立ち上がる。
「結局……全ての力を出し尽くしても貴方に傷一つ負わす事は出来ませんでしたか……やはり、私程度では武の極みなど届きもしなかったのですね。」
「……お前は強いよ、少なくとも俺が戦った奴等の中で一番な。」
「フフ、ありがとうございます……ですが……あなたがこれから我々と対峙していくと言うのなら、すぐに追い抜かされてしまうでしょう、我が同胞達は皆強いですから。」
「……悪いが先に行かせてもらうぜ。」
そう言い残しその場から離れようとするネロ、しかし……
「いえ、そうはいきません」
仰向けに倒れたままながら、ミーアが剣を握る。
「お前……まだ」
「剣士としての戦いは私の負けで終わりました。しかしガゼルの騎士としての私の役目はまだ終わっていません。」
ネロが再び身構える、しかしミーアは立ち上がることなく剣を上へ掲げると、逆さにしてそのまま自分の胸部へと突き刺した。
「な⁉お前」
「グフゥ!……ハァ……ハァ……フフ……」
傷みから出る声を必死で押し殺し笑ってみせるミーア。突き刺した場所から溢れる血は地面を伝いそのまま広がっていく。そして徐々にネロの下へと伸びていくと、ネロの足に絡みつき黒く染まり始める。
「な、なんだこれは⁉︎」
ネロが慌ててその場を離れようとするが、黒く染まった足はまるで鉄になったように重く、地面から離れない。
「……死の前に発動する我が一族が持つスキル……『七代祟り』……私の血が強力な呪いとなり……相手の動きを封じる……これで、しばらくあなたはこの場から動けませんよ……」
「お前、まさか初めからこれを⁉︎」
「……まだまだ青いですよ……勝利の定義と言うは時と場合により変わるものです、今回、貴方には初めての敗北を味わってもらうとしましょう。」
弱弱しくも満足そうに微笑むミーアの顔から徐々に生気が失われていくと、ミーアはそのまま静かに眼を閉じる。
「さて、では私もそろそろ眠りにつくとしましょう……願わくば今を生きる全ての獣人族の未来に永劫を……」
「あ、おい待て!」
ミーアはそう言い残すとネロの呼びかけに応える事なく眠るようにこと切れた。
「畜生!最後の最後で……」
ネロは道具袋の中から、呪い解除のアイテムを取り出し使用する。しかし呪いが強力なのか効果が全く感じられない。
――……クソ、他に何かないのか!
袋の中を全て地面にぶちまけ必死で探す、するとそこでボイスカードに目をやる。
――そうだ、
ネロはピエトロの存在を思い出すと、すぐさまボイスカード手に取り、エレナへと連絡した。
――
「た、た、た大変よピエトロ!ネロが!獣人族の呪いで動けなくなったらしいの⁉︎」
ネロから呪いの連絡を受けたエレナが悲鳴のような声をあげ、慌てふためく。
「……ああ、それは多分ネコ科のモンスターや獣人族が持つスキル、『七代祟り』だね、普通の呪いとは異なる特殊な呪いで、時間が経てば自然と解けるけどそれまでは何をしても消えない呪いだよ。」
「そ、そんなぁ、このままじゃエーテルが連れ去られちゃうよ!」
説明を聞いて更にパニックになるエレナに対し、ピエトロは落ち着いていた。
ピエトロは、相手の姿を見た時からこうなることをあらかじめ予想しており、既に打つ手も考えていた。
そして予想通りとなった今、それを実行するためピエトロは自分の持つボイスカードを起動させる。
「大丈夫、僕に任せて」
「え?」
「君達は、誰一人欠けることなくここから帰すから」
――
ダイヤモンドダストのメンバーは先程の爆発により騒いでいるモンスター達の対処に追われていた。
「クソ、なんなんだよ、さっきの爆発、おかげでモンスター共が暴れてるじゃねえか」
ブランが愚痴りながらも暴れているモンスターを次々と倒していく。
そして、他のメンバーも手を止めずに、会話をする。
「凄い爆発だったよねぇ、レクサスかネロ君が超級魔法の封印されたアイテムでも使ったんじゃない?」
「……それはない……あの爆発からは魔力は感じられなかった……」
「え?じゃあ、あの爆発は何かの技か何かって事?いくら何でも、周りの揺るがすほどの大きい爆発を起こす技なんて聞いたことないよ?」
「爆発する技……?」
ロールの言葉にブランが反応し戦いの手を緩める。
「どうしたの?ブラン」
「……いや、何でもない。」
――まさかな。
そう言うとブランは首を振り、頭によぎった考えを振り払い再び戦いに戻る。
幸い白龍がいないこともあり、モンスターの鎮静はスムーズに進んでいた。
メンバーの手に余裕ができ始めると、リンスがリグレットの道具袋が光っていることに気づく。
「……リグ……カードが光ってるよ」
「あ、本当だ、誰からだろう?」
リグレットが戦線から少し離れたところへ移動するとカードを起動する。
「はい、こちらリグレットです……へ、ピエトロ様?……ほうほう……わかりました。」
簡単なやり取りで通信を切るとリグレットの身体が空気に溶けるように消え始める。
「あれ?どっか行くの?」
「うん、ごめんだけどこの場は皆に任せていい?」
「別にいいがどこに行くんだ?」
「ピエトロ様から仕事の依頼だよ、報酬は……白龍の至宝だってさ。」
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