第78話 もう一人の特殊スキル持ち

ガゼル王国が誇る王国直属の精鋭部隊、ガゼル獣侍軍。


一番から十番までの十の序列部隊で作られた軍は、国の創設と共に存在し、国の窮地を幾度となく救ってきたガゼル王国民の誇りであり、憧れの存在であった。


レミーも、そんな獣侍軍に憧れる一人であった。幼い頃から獣侍軍に入ることだけを夢見て剣を磨き続けていたが当初は誰も入れるとは思っていなかった。


理由はレミーの種族だ。

獣人族は様々な種族の中でも特殊な種族で、獣人族という種族の中から更に動物の種族で分けられている。


その中のレミーの種族に当たる『マウス』は、体格も小柄で、ステータスも素早さが高い程度で、戦闘能力に関しては獣人族の中ではかなり低く、戦闘には向いていない。


本来マウスの種族は、商業や農業と言った仕事に就くのが普通なのだが、レミーは決して獣侍軍に入ることを諦めなかった。

そのレミーの夢は、他種族からは無謀だと笑われ、他のマウスの種族からも異質だ、と白い目で見られていたが、諦めずに鍛錬を続けてきた結果、その努力が身を結びレミーは史上初、マウスでの獣侍軍入りを果たした。


 ……しかしそこからがレミーの苦難の連続であった。

レミーが配属されたのは序列の最も低い十番隊、そしてその中でもレミーの扱いは酷かった。他種族との体格やステータスの違い、そして何よりマウスという種族がレミーの軍内での立場を悪くする大きな足枷となっていた。


レミーも周りについて行こうと努力をしてきたが、埋まらない種族の力の差、そして周りからの嘲笑や心無い言葉に心が折れかけていた。

 そんな時、手を差し伸べてくれたのが四番隊隊長のミーアであった。

 獣侍軍の中でも段違いの力を持つ、序列の前半部隊の隊長。

 レミーにとってはまさに雲の上の様な人物からの勧誘に最初は戸惑ったが、この出会いがレミーを変えた。


「私はあなたが周りよりも劣っているとは思いません、今ある戦闘スタイルがあなたの種族にあっていないだけ、マウスにはマウスの特徴を生かした戦闘スタイルがあるはずです、それをあなたが見つけてください、大丈夫、努力してここまで歩んできたあなたならきっとできますよ。」


 初めてかけられた、優しい言葉と共に四番隊に配属されたのはレミーは、自分の持ち味を生かした戦闘スタイルを詮索しながら鍛錬に励み、そしていつしか副隊長まで上り詰めていった……


――


レミーはふと過去を振り返っていた、理由はわからない、いや、どこかで勘づいてしまったのだろう。

先ほど聞こえてきた爆発音、そして時間が過ぎても追ってこない敵、恐らくミーアはもうこの世にいない、作戦が成功したのであろう。

 レミーはミーアが命を落とす事前提に立てられた作戦が計画が実行されてしまった事をひたすら後悔していた。

 もし、初めて相手と出くわしたとき、自分が相手を子供と見下していなければまた違っていたのかもしれない。自分の考えの甘さがミーアを殺すはめになったのだ。


「ミーア隊長……すみません……」


 レミーは走る足を止めず、手で十字を描き、天に祈りを捧げると、涙を堪え、自分の与えられた使命を果たすため、ひたすら前だけを見て走った。


――

先程の爆発の影響かレミーは敵に出くわすこともなくスムーズに道を進んでいきホワイトキャニオンを囲っている岩山までたどり着く。


――あと少しだ、ここを越えれば


焦る心を落ち着かせレミーは岩山を登ろうとする。しかし突如感じた人の気配にすぐにその場から離れ、剣に手をかける。


「見つけた!」

 

 どこからともなく聞こえた声に、レミーが辺りを見回し声の主を探す。

 すると上空から赤色の髪をした一人の人間の女性が降りてきた。

 その女は地面に着地すると体のホコリを軽く払い、こちらを見る。


「ふう、なんとか間に合ったみたいだね。」

「貴様!何者だ!」

「私はリグレット、宜しくね。」


 敵意を向けるレミーを前にリグレットはマイペースな自己紹介をすると、ニッコリとほほ笑んでを見せる。


「……一体、何の用だ?」

「私、この国のギルドに所属のダイヤモンドダストって言うパーティーのリーダーをやってるんだけど、先ほど依頼があってね……君の持つその妖精を取り返しに来たんだよ。」


 そう言ってレミーの首にかかった子瓶に指を差す、中には先ほど眠らせた妖精が入っている。


――やはりか


 レミーの剣を握る腕の力が強くなる。


――どうする?相手は女ひとり、これくらいなら……


 そんな考えが頭を過るが瞬時にそれを振り払う。


――前の一件を忘れたか?例え相手が子供であろうと女であろうと油断してはいけない、それにホワイトキャニオンここにいる時点で普通ではない。


 前回の戦いを教訓を生かし、レミーは戦いを避け、逃げることを優先させると、懐から一枚護符を取り出す。


――今の俺の役目はこの妖精を隊長たちに送り届ける事だ。ギン隊長から預かった最後の一枚、使わせていただきます。

 

 護符が燃え始めると、煙がレミーの身体を包んでいく、そして煙が晴れるとレミーの気配がその場から完全になくなり、リグレットにレミーの姿が見えなくなっていた。


「え?消えた?」


 リグレットが見えなくなったレミーの姿を探そうと辺りをキョロキョロと見回す、その隙をついてレミーは素早く地面を蹴り、リグレットを横切った。

 しかしその瞬間、目の前に突如巨大な土の壁が現れ、ぶつかり弾かれる。


――な、なんだ?


 壁に弾かれた衝撃で護符の効果が解ける。

 何が起こったかわからないレミーがもう一度壁を見ると、その壁は目のまえだけでなく周囲全体に聳え立ち、レミーとリグレットを完全に包囲していた


「なんだこれは……」

「私のスキルだよ」


 尻もちをついたまま呆けるレミーにリグレットが近づきながら答える。


「スキル……だと……」

「そう、スキル。姿が見えなくなったからせめて逃げられないように周りを土で囲わせてもらったのよ」


リグレットは得意げに話すと、能力を見せつけるように周りの地面に土で出来た花を咲かせて見る、


――こいつ、まさか土使いのスキルを⁉


レミーは昔見たスキルの本を思い出す。

スキルの中でも特定の者しか持てないスキル、特殊スキルの中には、五大元素を自在に操るスキルもある事に、ただそれだと一つ疑問が残る、リグレットが現れたのは上空からだった、それだと土を操るだけでなく他にも何か能力があることになる。


――まさか特殊スキルを二つも?


 そう考えてると、考えが顔に出ていたのかリグレットが笑顔で否定する。


「残念だけど、外れだよ。正解はこれ。」


 そう言ってリグレットが片足を軽く上げ、ゆっくりと地面を踏む、すると地面と接触した足ははまるで水に浸かるように地面の中へと沈んでいった。


「な⁉︎」


 そして離れた地面からリグレットの足が出て来る。


「私の能力はね……同化だよ。」

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