余命十五年のチート転生

第71話 白龍の至宝

「うぉぉぉぉぉ！」

ブランが愛用の大剣を手に、声をあげながら自分より何倍も大きな白龍へと突撃する。

巨大な体には似合わない程の速度で繰り出されるの白龍の攻撃を華麗に避けると。そのまま飛び上がり白竜の頭部目掛けて大剣を振り下ろす。

「大切斬！」

名一杯の気と力を込めて勢いよく振り下ろされた大剣はそのまま白龍の頭部へと斬りかかる。

普段の敵なら真っ二つのこの攻撃も世界トップクラスの硬さを持つ白銀の鱗の前にはガキンと鈍い音を立てるだけで傷一つつけられない。ただ頭部へ与えた打撃によって白龍に僅かな怯みが見られる。

「よし、今だ！ロール！」

「はいはい、そんなに大き声出さなくても聞こえてるってば。」

ブランが大声で呼びかけると、遥か上空にいるロールが折れてないない耳をピクピクさせながら小さく返事をする。

「うーん……よし、後二三歩上がろうかな」

空中で空気を踏み台にピョンピョンと素早く跳ねると、ロールは更に高く上がる。

そして、狙いを定めると、体の向きを地面方向へと反転させて空気を蹴り、加速をつけながら一気に白龍へと急降下する。

更に体を縦に回転させて勢いをつけると白龍の頭にめがけて蹴りを入れた。

「月落兎蹴！」

落下と回転の勢いのついた蹴りがブランが叩いた同じ場所へと直撃する。その威力を物語るように、激しい衝撃に周りまで少し震える。

「かた……い」

白龍の硬さに蹴りを入れたロールが少し顔をゆがめる。

しかし二度もの頭部への激しいの打撃に脳が揺れた白龍は悲鳴をあげながら、そのまま態勢を崩す。

「よし！いけるか？リンス！」

ブランが次に後方にいるリンスに呼びかけると小さく任せて……と返事がかえってくる。

後ろでは呪文を唱えてるリンスの周りの地面に、巨大な魔法陣が浮かび上がり、リンスの魔力に反応しているマナによりあちこちの地面が宙へと浮き始めていた

「聖光をまといし神の刃よ、今こそ我が敵の前に降りかからん……シャインブレイド！」

リンスの言葉に呼び出されるように上空に巨大な光が現れる。

神々しく輝くその光は、徐々に具現化し始めるとやがて巨大な剣へと姿を変え、白龍へと落下した。

最高レベルの硬さを持つ白龍の身体をまるでやわらかい肉のように

グシャっと光の剣が串刺しにすると、白龍は周りに血を飛び散らしながら最後の力を振り絞り、高く吠えるとそのまま息途絶えた。

それを確認すると、三人が戦闘態勢を解いて一つ息を吐く。

「ふう……やったか。」

「これで三匹目だね〜」

「……さすがに疲れた。」

しかし、三人がホッとしたのも束の間、遠くから聞こえる咆哮ににロールが片耳をピンと尖らせる。

「この声……また来てるよぉ」

「おいおい冗談だろう……少しはこっちの都合も考えろって」

「そんなことより早く準備を……」

三人がすぐさま再び構えると、上空から三体の興奮した白龍が三人に突撃して来る。

「さ、三体⁉︎」

「流石にこれはキツイぞ⁉︎」

白龍が唸りをあげながら襲いかかって来る。

しかし突如地面から現れた巨大な土の壁に阻まれると、更にそこから生えて来た巨大な腕が白龍達を抑えつけた。

「これは……」

「ふう、間に合った。」

下から声が聞こえたと思うと、まるで水の中から上がって来るように地面からリグレットが顔を出す。

「リグ！」

「皆、大丈夫？」

「ああ、おかげ様でな、助かったぜ」

「当然！仲間だもの」

仲間の感謝の言葉に胸を張るリグレット。

その横では 巨大な土でできた手から抜け出そうと白龍達がもがくがその手はピクリとも動かず白龍達を離そうとしない。

「はいはい、無駄ですよ〜それにはあなた達自慢の鱗が混ざってるから強度はバリカタよ。」

「それで、偵察の方はどうだった？何かそれっぽいのあった？」

「ちょうどリンスちゃんの言ってた方向に大きな穴があったわあったわ。」

「穴？」

リグレットの言葉にロールが首をかしげる

「それ……多分、湖……」

「えぇ⁉︎だって水なんてなかったよ⁉︎」

「リグが見えてなかっただけ……」

「あ、馬鹿だと見えないとか言うやつ？」

「失礼な！」

「まあ、行ってみればわかるだろ、そこまで距離はどれくらいだ？」

「ん～、歩いて約一時間くらい？」

「……この場所でか……」

かかる時間を聞いたブランとロールがゲンナリする。

この場所で一時間を歩くと言うのがどれほど大変かを、これまでの戦いで身にしみていた。

リグレット達が門の中に入ってからかなり時間が経っているが様々なモンスターとの戦闘の連続で未だに振り向けば入口が見える距離だ。

「前途多難だな……」

ブランが大きくため息を吐いた。

「しかし……それにしても、リグは相変わらず凄いねぇ。あの、白龍達を一瞬で捕まえちゃうなんて。」

ロールが捕縛されている白龍達を見ながら呟く。

「うん、リグは反則……」

「いやいやいや、それを言うならリンスちゃんも充分凄いから！」

「どっちも側から見ればバケモンだよ。ったく、リンスといいリグレットといい、嫌になるぜ……こっちは必死こいて修行してこれなのに……おまけにあのネロとか言うガキはレベル四〇〇〇越えとかいうバカみたいなレベルなんだろ？どうなってんだ、畜生」

「仕方ないわ、ここら辺の人は少しがおかしいんだよ。

でも、ホント、あのネロって子は何者なんだろうね？」

「というより本当なの？レベル四〇〇〇って、そんな人存在するの？」

「うん……私も初めて見た……」

「まあ、今更どんな人がいたって驚かないわ。でもあの年であのレベルって事はやっぱリグと一緒の特殊スキル持ちって事かな」

「そうじゃないと、説明がつかないでしょあんな子供見たことないよ、最強の子供だよ」

「最強の子供……か」

リグレットの言葉を耳にしたブランが自然とその言葉を口にする。

「どうしたの？」

「いや、少し思い出しちまってな。前に俺のいた国にも最強と言われてた子供がいたなぁと思って」

「へぇ……他にもいるんだそんな子供。戦ったことあるの？」

「まあな、文字通り最強だと思ったよ。どんなに鍛えても俺ではあの高みまで届く気がしなかったな……」

話しながら昔の記憶が蘇ったのかブランが遠い目をしながら空を見上げた。

「……そんなに強かったんだ……有名な人なの？」

「あぁ、お前らも一度は聞いたことあるだろ……『カイルズ・モールズ』と言う名前をな……」

――

「う〜ん」

湖を目指して小一時間。

ひたすら森の中を進んでいると、先程からエーテルがポケットから小さな唸り声をあげていた。

「エーテルどうしたの？さっきから？」

「うーん、なんかさあ、さっきから誰かにつけられてる気がするんだよねぇ……」

そう言ってエーテルは後ろを気にして何度も振り向く、しかし何度見ても後ろには人っ子一人いなかった。

ネロ達も一応辺りを警戒するが今の所、なにも起こっていない。

「何度見たって誰もいねぇよ、そもそもこんな場所に入る奴なんて俺達の他にいねぇだろ」

そう言われるエーテルも反論できない。

確かにネロの言う通り、こんな危険区域にわざわざ入ろうとする物好きはそうそういないだろう。

「そんなことより、さあ、着いたよ。目的地の湖がさ。」

ピエトロが指の指す方向を見ると木々の隙間から森の出口を知らせる日差しが見える。

そして森を抜けた瞬間、目の前の光景に三人が言葉を失った。

そこにはとんでもなく大きな穴が空いていた。

いや、正確に言うと穴に見える湖だった。

ーーこれが……湖？

遠巻きでは穴にしか見えない。ネロが近づいて、こしらえて見る。すると微かに揺れる水面がみえ、辛うじて水があるのがわかる。

そして、中を覗けば湖の奥底までハッキリと見えており、魚がまるで宙を泳いでいるようだった。

「本当に透き通ってるなぁ」

ネロが一つ水を掬って飲んでみる。

「なんだこれ……」

口にしたネロが顔を顰める。

それは普通の水よりもはるかに甘みがある……かと思えば後から薬のような苦味がする、今まで飲んだことのない不思議な味だった。

そして、心なしか少し身体が軽くなったように思えた。

「フフ、ここの水は様々な治癒効果があると言われている貴重な水だからね、折角だからぜひ持って帰るといいよ。」

ピエトロは用意周到に瓶を取り出すとそれぞれに渡す。

ネロが水を汲みながら水の中を興味深そうにマジマジと見

ていると湖の底ににいぼんやりと輝くものを発見する。

「なんだあれ？」

ネロの声に全員が湖の底に視線を向ける。

力強い光を発しているそれは、まるでこの湖の栓のようにど真ん中に置かれてある。

そしてそれは見るだけで普通じゃないことがわかる。

「やっぱりあったね、あれこそ目的の白龍の至宝と言われる卵さ」

ーーあれが至宝……

遠くからでも光ってるが分かるほど輝く卵にネロは思わず見惚れる。

「よし、なら早速……」

「いや、少し待って」

　飛び込もうとするネロをピエトロが手で遮る。そして静かに耳を研ぎ澄ます。

「……」

「……な、なんだよ？」

ピエトロはネロの、呼びかけにも答えずただ周りの音に集中する。

しかし、場に大きな変化はなく、静寂のなかモンスターの鳴き声がこだましていた。

「……いや……なんでもない。気のせいだったみたいだ。」

そう言いながらもとピエトロは険しい表情を崩さずただ辺りを見回した。

「とりあえず。取り入ってもいいのか？」

「あぁ、よろしく頼むよ。」

ピエトロの許可をもらうと、ネロは上半身だけ裸になり水の中に潜る。

見たことない綺麗な模様をした魚達が泳ぐ中をスイスイと潜っていくと底にある卵を持ってすぐさま上がってくる。

「ぷは！よし、取ってきたぜ。」

ネロが陸に上がると卵を地面に置く。

「こ、これが、白龍の至宝……」

「近くで見るとより綺麗……図鑑で見た白龍の卵とも大きさも全然違うのねぇ〜」

先程話をしたことで胸のつかえが取れたのか……調子の戻ったエレナが目をキラキラさせながら、白龍の卵に頬擦りする。

「はは、至宝に興味津々なのは分かるが、ここは余り長居する場所じゃない、別にすぐに渡すわけじゃないしあとは帰ってからにしよう……」

ピエトロの言葉に三人が頷くとその場から立ち去ろうとする。

しかし、その直後、エーテルが大きな声をあげた。

「待って！近くに何かいる！今度は間違いない！」

その言葉に全員が周りを見渡す。

ネロも気配に気づいたようで警戒しながらエレナとピエトロを自分の後ろには来るよう指示を出す。

そして、先程出てきた森とはまた別の場所から巨大な鉈が飛んできた。

「危ない！」

ネロは飛んできた鉈をとっさにそれを掴む。

――これは、確か……

手にしたのは、よくオーガが持っている鉈に似ている。

ネロが武器を見つめていると

森の中からぱパチパチと手を叩く音と共に一人の男が歩いてきた。

「流石は大口を叩くだけはあるな、よく掴めたものだ」

「あ、あなたは⁉……」

「レクサス……兄さん。」

レクサスの後ろからモンスターが現れる。

「さて、それでは第二の実験を開始しよう……