第38話 妖精の森

 ホーセントドラゴン討伐から一夜が明けた。

 昨日あれほどの騒ぎがあったにも関わらず、町の者達はホーセントドラゴンが討伐されると翌朝から早速作業を再開していた。

 別に急ぎの仕事でも無いのだが、長年鉱山で働き続けていた者達ばかりなので、どうもずっと手を止めるのは嫌なものが多いらしい。


 そしてそんな仕事熱心な町の者達とは裏腹に、満足いくまで眠ったネロはお昼前に眼を覚ます。


 寝惚けまなこを擦り欠伸をしながら居間に行くが、ネロが起きてきた頃にはもう家には誰もいなくなっていた。

 昨日まではこの時間帯にもコルルが一人家にいたが、昨日から父親のレンジと再び暮らすようになり、その姿はもうなかった。


 ネロはマイペースに顔を洗い、眼を覚ますと、多分エレナたちがいると思われる 鉱山へ向かった。



――

 ネロは少し困っていた。

 鉱山までの道のりの途中、ネロはたくさんの人たちに声をかけられる。

 今までは平民にどんなに声をかけられても無視をしてきたので、返事をするのにも凄く抵抗がある。


 別にしたくなければしなくても構わないとは思ってはいるが、しないならしないで少し罪悪感を覚える。 元々ネロも差別意識さえ除けば根っからの悪ではない、現に対等である立場の貴族に対しての態度は、決して悪いものではなかった。

 人から向けられる友好的な態度を無下に出来ないネロは、冷めた態度をとりながらも一人ずつ対応し、鉱山に着く頃には少しへばっていた。


――

「はぁ……疲れた」


 鉱山に着くとネロは一息つく、昨日も来たはずなのに昨日よりも何倍も遠い距離に感じた。


「あ、お兄ちゃん!」


 不意に聞こえた幼い声に顔を向けると、レンジとコルル親子がこちらにやってくる。


「随分、遅いお目覚めだな、さすがは貴族様だぜ。」

「昨日は誰かさんのせいで余計に疲れたからな、これくらい休ませてもらって当然だろ?」


 お互いが嫌味を言いながら小さく笑う。そこにはもう敵意はもうない。


「それより、なんでコルルがここに居るんだ?」


 相変わらずのニコニコとした表情を浮かべるコルルを見ながらネロがレンジに尋ねる。


「昨日いろいろ話しあってな、ずっと家に一人で置いておくのもなんだからって、休憩所の中にいることを条件にコルルを連れて来ていいって事になったんだ。」


 そう言ってレンジはコルルの頭を撫でる。

 本来危ない道具や、不安定な岩場がある危険な鉱山に子供を置いてはおけないが、コルルなら勝手に出歩かないと信用してのことだろう。


「で?お前はコルルを口実にサボりか?」

「ハッ、馬鹿が、怪我を口実にサボりだよ。」


 レンジが包帯が取れていない肩を見せ、怪我をアピールする。ただ怪我自体はほとんど大丈夫そうだった。


「ところで、ここにエレナはいるか?」

「ん?ああ、あの嬢ちゃんなら、兄貴の同行の元、あの怪物のいた場所で色々調べてるぜ。」


 ――やっぱりな。


 予想が当たってネロは少し満足そうにすると、手を振るコルルに見送られながら鉱山の中に入って行った。



――

「おい、こっちの岩運ぶの手伝ってくれ」

「トロッコまだか?だいぶこっちも溜まってるんだが」

「そこ、気を付けろ!結構足場が緩んでるぞ」


 自分の足音が響くほどの静寂だった昨日とは違い、鉱山の中は現在沢山の労働者の声で賑わっていた。

暫く仕事が止まってた分、労働者たちの働きっぷりは凄い。

 ホーセントドラゴンによって崩れた場所や穴の修復を中心に作業にはいっており、今ではその部分はほとんど直っていた。

 ネロは鉱山の中でもたくさんの人に声をかけられる。しかし行きしで慣れたのか来た時の様な抵抗は少しなくなっていた。


 そしていくつもの分かれ道になっている膨らんだ場所まで行くとドラゴンと出くわした道の方を見る。

 現在その場所は封鎖されているようで、出入りできないように、そこの道は柵が施されてある。ネロはそれをかいくぐり中へと入って行った。


――

しばらく歩き、昨日の戦いの痕が残るところへいくと、そこにはレイジ立会いの下、頭にライトをつけたエレナがドラゴンの死骸を漁っていた。


「やあ、ネロ君、おはよう」

「……ああ」


 ネロとレイジが軽く挨拶をかわす。

 エレナはネロが来て居ることに気づかないで熱心に死骸を観察して居る。


「……こいつは朝からずっとこんな感じか?」

「ああ、ずっと夢中で調べてはメモを取っているよ、本当に研究熱心だね。」


――……研究熱心ねえ、一体こんなに調べてどうするつもりなのか……


 ネロは相変わらずのエレナのモンスターマニアっぷりに呆れている。


「そう言えばエレナちゃんから聞いたんだけど、なんでも二人は妖精の国を探してるとか?」


 そう尋ねられたことでネロは本来の目的を思い出す。


「まあな、つっても今のところ宛は無いがな。」

「ならば、ここから東にある森に行くのはどうだい?あそこでは昔から妖精の目撃証言がある、もしかしたら何か関係があるかもしれないよ」

「そんな場所があるのか?」


 旅だってまだ十日程度、これといった情報収集はしていないのに、そんなに簡単に見つかってしまうもんなのか?

 上手く行きすぎではないかとも思うが、この世界はゲームの世界ではない。

 目的の場所が簡単に見つかってもおかしくはないのだ。


「あ、ネロ、来てたんだ」


 レイジと話し込んでいると、エレナがようやくこちらに気づき、近寄って来る。

 エレナは調べすぎたせいで、鼻の上に土がついており、服も土まみれになっていた。


「お前はもう少し、見た目を気にしろよ。」

「大丈夫、手で払えば取れるから」


そう言って、土を手で払い落とし、どう?っと言わんばかりの表情でドヤ顔するが、はっきり言って取れたとは言えない。

その程度とれたくらいで満足するエレナにネロはもう女子力を求めることをあきらめた。


「それで……調べて何かわかったのか?」

「うん、聞いて!それがもう凄い事がわかったの!」


 そう言ってエレナが興奮し、話し始める、こういう時のすごいってのは大体専門家にしか凄さがわからない事ばかりだ。ネロは期待せず話を聞く。


「どうやらホーセントドラゴンは鉱物を体内に取り込むことによって体をその鉱物で覆うことができるみたい。多分だけど、この鉱山で取れるアルカナはこのドラゴンが全部食べちゃったと考えた方が良いわ、レンジさんや、他の人が見つけたアルカナは、このモンスターの食べ残しだと思うの。」

「へえ……」


ネロはあまり興味なさそうに反応する。


「で、ここからが本題なんだけど、ホーセントドラゴンはどうやら死ぬと、体全てが覆われた鉱石になるみたいなの⁉つまり、今あるこの巨大なドラゴンの死骸は全部アルカナなのよ!」

「…………はあぁ⁉」


 思った以上に凄い事だった。

 昨日倒した、ホーセントドラゴンの体は全長五メートル近くあり、重さも百キロは軽く越えている。

 その巨体全てがアルカナだというのだ


 これだけのアルカナがあれば、アルカナ防具フル装備の小隊が一部隊作れてしまう、売れば超大金持ちに、国に献上すれば爵位が二つ位上がるレベルだ。


「どうする?町の人達は私たちの好きにしていいって言ってるけど」


 そう聞かれるとネロは少し悩む。

 これほどの物を捨てたり、あげたりするのは勿体無い。

 だからと言って持って行こうにも、こんなものを持ち運べるわけがない。


「……とりあえず、この話はまたあとで考える、まずは妖精がいるって言う森が先だ。」


 そう言うとネロは再びレイジの方に顔を向ける。


「その森はここから近いのか?」

「今から行っても夕方には帰ってこれる距離だよ。俺達が子供の時に行ってたくらいだしね。もし、良ければ案内させてもらうよ。」


 そう説明されるとネロは一度アルカナはおいて置き、そこに行くことを決め、早速その妖精がいるという森へ向かうことにした。


ホーセントドラゴン討伐から一夜が明けた。

 昨日あれほどの騒ぎがあったにも関わらず、町の者達はホーセントドラゴンが討伐されると翌朝から早速作業を再開していた。

 別に急ぎの仕事でも無いのだが、長年鉱山で働き続けていた者達ばかりなので、どうもずっと手を止めるのは嫌なものが多いらしい。


 そしてそんな仕事熱心な町の者達とは裏腹に、満足いくまで眠ったネロはお昼前に眼を覚ます。


 寝惚けまなこを擦り欠伸をしながら居間に行くが、ネロが起きてきた頃にはもう家には誰もいなくなっていた。

 昨日まではこの時間帯にもコルルが一人家にいたが、昨日から父親のレンジと再び暮らすようになり、その姿はもうなかった。


 ネロはマイペースに顔を洗い、眼を覚ますと、多分エレナたちがいると思われる 鉱山へ向かった。



――

 ネロは少し困っていた。

 鉱山までの道のりの途中、ネロはたくさんの人たちに声をかけられる。

 今までは平民にどんなに声をかけられても無視をしてきたので、返事をするのにも凄く抵抗がある。


 別にしたくなければしなくても構わないとは思ってはいるが、しないならしないで少し罪悪感を覚える。 元々ネロも差別意識さえ除けば根っからの悪ではない、現に対等である立場の貴族に対しての態度は、決して悪いものではなかった。

 人から向けられる友好的な態度を無下に出来ないネロは、冷めた態度をとりながらも一人ずつ対応し、鉱山に着く頃には少しへばっていた。


――

「はぁ……疲れた」


 鉱山に着くとネロは一息つく、昨日も来たはずなのに昨日よりも何倍も遠い距離に感じた。


「あ、お兄ちゃん!」


 不意に聞こえた幼い声に顔を向けると、レンジとコルル親子がこちらにやってくる。


「随分、遅いお目覚めだな、さすがは貴族様だぜ。」

「昨日は誰かさんのせいで余計に疲れたからな、これくらい休ませてもらって当然だろ?」


 お互いが嫌味を言いながら小さく笑う。そこにはもう敵意はもうない。


「それより、なんでコルルがここに居るんだ?」


 相変わらずのニコニコとした表情を浮かべるコルルを見ながらネロがレンジに尋ねる。


「昨日いろいろ話しあってな、ずっと家に一人で置いておくのもなんだからって、休憩所の中にいることを条件にコルルを連れて来ていいって事になったんだ。」


 そう言ってレンジはコルルの頭を撫でる。

 本来危ない道具や、不安定な岩場がある危険な鉱山に子供を置いてはおけないが、コルルなら勝手に出歩かないと信用してのことだろう。


「で?お前はコルルを口実にサボりか?」

「ハッ、馬鹿が、怪我を口実にサボりだよ。」


 レンジが包帯が取れていない肩を見せ、怪我をアピールする。ただ怪我自体はほとんど大丈夫そうだった。


「ところで、ここにエレナはいるか?」

「ん?ああ、あの嬢ちゃんなら、兄貴の同行の元、あの怪物のいた場所で色々調べてるぜ。」


 ――やっぱりな。


 予想が当たってネロは少し満足そうにすると、手を振るコルルに見送られながら鉱山の中に入って行った。



――

「おい、こっちの岩運ぶの手伝ってくれ」

「トロッコまだか?だいぶこっちも溜まってるんだが」

「そこ、気を付けろ!結構足場が緩んでるぞ」


 自分の足音が響くほどの静寂だった昨日とは違い、鉱山の中は現在沢山の労働者の声で賑わっていた。

暫く仕事が止まってた分、労働者たちの働きっぷりは凄い。

 ホーセントドラゴンによって崩れた場所や穴の修復を中心に作業にはいっており、今ではその部分はほとんど直っていた。

 ネロは鉱山の中でもたくさんの人に声をかけられる。しかし行きしで慣れたのか来た時の様な抵抗は少しなくなっていた。


 そしていくつもの分かれ道になっている膨らんだ場所まで行くとドラゴンと出くわした道の方を見る。

 現在その場所は封鎖されているようで、出入りできないように、そこの道は柵が施されてある。ネロはそれをかいくぐり中へと入って行った。


――

しばらく歩き、昨日の戦いの痕が残るところへいくと、そこにはレンジ立会いの下、頭にライトをつけたエレナがドラゴンの死骸を漁っていた。


「やあ、ネロ君、おはよう」

「……ああ」


 ネロとレンジが軽く挨拶をかわす。

 エレナはネロが来て居ることに気づかないで熱心に死骸を観察して居る。


「……こいつは朝からずっとこんな感じか?」

「ああ、ずっと夢中で調べてはメモを取っているよ、本当に研究熱心だね。」


――……研究熱心ねえ、一体こんなに調べてどうするつもりなのか……


 ネロは相変わらずのエレナのモンスターマニアっぷりに呆れている。


「そう言えばエレナちゃんから聞いたんだけど、なんでも二人は妖精の国を探してるとか?」


 そう尋ねられたことでネロは本来の目的を思い出す。


「まあな、つっても今のところ宛は無いがな。」

「ならば、ここから東にある森に行くのはどうだい?あそこでは前から妖精の目撃証言がある、もしかしたら何か関係があるかもしれないよ」

「そんな場所があるのか?」


 旅だってまだ十日程度、これといった情報収集はしていないのに、そんなに簡単に見つかってしまうもんなのか?

 上手く行きすぎではないかとも思うが、この世界はゲームの世界ではない。

 目的の場所が簡単に見つかってもおかしくはないのだ。


「あ、ネロ、来てたんだ」


 レイジと話し込んでいると、エレナがようやくこちらに気づき、近寄って来る。

 エレナは調べすぎたせいで、鼻の上に土がついており、服も土まみれになっていた。


「お前はもう少し、見た目を気にしろよ。」

「大丈夫、手で払えば取れるから」


そう言って、手で払いのけて土を落とすし、どう?っと言わんばかりの表情でドヤ顔するが、はっきり言って取れたとは言えない。

その程度とれたくらいで満足するエレナにネロはもう女子力を求めることをあきらめた。


「それで……調べて何かわかったのか?」

「うん、聞いて!それがもう凄い事がわかったの!」


 そう言ってエレナが興奮し、話し始める、こういう時のすごいってのは大体専門家にしか凄さがわからない事ばかりだ。ネロは期待せず話を聞く。


「どうやらホーセントドラゴンは鉱物を体内に取り込むことによって体をその鉱物で覆うことができるみたい。多分だけど、この鉱山で取れるアルカナはこのドラゴンが全部食べちゃったと考えた方が良いわ、レンジさんや、他の人が見つけたアルカナは、このモンスターの食べ残しだと思うの。」

「へえ……」


ネロはあまり興味なさそうに反応する。


「で、ここからが本題なんだけど、ホーセントドラゴンはどうやら死ぬと、体全てが覆われた鉱石になるみたいなの⁉つまり、今あるこの巨大なドラゴンの死骸は全部アルカナなのよ!」

「…………はあぁ⁉」


 思った以上に凄い事だった。

 昨日倒した、ホーセントドラゴンの体は全長五メートル近くあり、重さも百キロは軽く越えている。

 その巨体全てがアルカナだというのだ


 これだけのアルカナがあれば、アルカナ防具フル装備の小隊が一部隊作れてしまう、売れば超大金持ちに、国に献上すれば爵位が二つ位上がるレベルだ。


「どうする?町の人達は私たちの好きにしていいって言ってるけど」


 そう聞かれるとネロは少し悩む。

 これほどの物を捨てたり、あげたりするのは勿体無い。

 だからと言って持って行こうにも、こんなものを持ち運べるわけがない。


「……とりあえず、この話はまたあとで考える、まずは妖精がいるって言う森が先だ。」


 そう言うとネロは再びレンジの方に顔を向ける。


「その森はここから近いのか?」

「今から行っても夕方には帰ってこれる距離だよ。俺達が子供の時に行ってたくらいだしね、もし、良ければ案内させてもらうよ。」


 そう説明されるとネロは一度アルカナはおいて置き、そこに行くことを決め、早速その妖精がいるという森へ向かうことにした。

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