第39話 森林浴
炭鉱の町、オルグスより東に進むと見えてくる名もなき森。
一見はただの森だが、そこには古くからから妖精界とへ繋がると言われている妖精の泉と呼ばれる場所があり、オルグスではこの森には妖精がいると言われている。
ただ、この話を知る者はオルグスの町の者達だけで、アドラー帝国の中でも知っている者は少ない。
何一つ特徴がないので普通の人がわざわざ足を踏み入れる事はほとんど無いが、たまに森へ迷い込んだ者が妖精の影に驚かされていると言う。
「……というようにオルグスの町では有名な森なんだよ」
森までの道中でレイジが今向かっている森の説明してくれている。
「へえ、なら、結構知られてる話なんだな。」
「ああ、昔は多彩な交流もあったらしいし、子供の頃にレンジとティナも妖精を見たって騒いでたこともあったっけな。」
ネロは今の話を割と信用していた。
話が妖精の様なものを見た、もしくはそんな気がした、などというあやふやな物言いなら信憑性も欠けただろうが、『いる』や『見た』という確信的な表現だったのが大きい。
そしてどうやらここら辺では妖精は、幻とかではなく一つの種族として認識されていることから、ネロは今の話が眉唾の話ではないと考え、出会えることに微かな期待を寄せた。
「でもどうして隠しているんですか?」
今度は話を聞いたエレナがレイジに尋ねる。
「まあ、妖精は数いる人種の中でも幻と称されるほど数も少なく、か弱い種族だからね。同じ人としての括りでも珍しく、どの種族からも売買目的で狙われているから、妖精たちの身の安全も考えて、あまり話さないようにしているんだよ。」
妖精たちとのことを考えてともいえる理由にエレナは嬉しそうな顔をした。
「なるほど、そう言うことか。」
ネロが不意に声に出して呟く。
「どうしたの?いきなり?」
「いや、おまえの持ってた図鑑で何故か、妖精の内容だけ曖昧だった気がしたからな、初めはあまり情報を知らないだけだと思っていたが、もしかしたら意図的に情報を隠していたのかもしれない。」
エレナの持つ図鑑の著者はエレナの先祖でもある、かの勇者のパーティーだった英雄セナス、カーミナル。
読んだ歴史の本には、貴族の身でありながら自然と戯れ、生物の生態に研究熱心な魔導師だったという。
そしてその人物像から考えると、自然に隠れて暮らす妖精たちのためにも、あやふやな内容を記したと考える方が自然だろう。
ネロの考察にエレナも納得すると、そのままレイジに質問を投げかける。
「でも、そんな情報を私たちに教えてよかったのですか?」
「ああ、君たちは町の恩人だからね、君たちは信用に足る人物だし、町の者達も大目に見てくれるだろう」
信用たるもの……その言葉にネロは少し背徳感を覚える。
信用してもらえるのは嬉しいことだが、自分たちが妖精を探す目的は妖精を統べる、妖精の女王を殺して喰らい、毒無効化のスキルを手に入れること。
自分が生きるためにと、仕方がない事とはいえ、結果的には完全にその信用を裏切ることになる。
できれば、今後の事を考えると、この町の者達と、仲たがいするのは避けたいところ、万が一妖精を見つけても、その場にレイジがいると少々厄介だ。
ネロがどうにかレイジを引き離す方法を考えようとしたところで、今度はレイジからピンポイントな質問を投げかけられる。
「ところで二人はどうして妖精を探してるんだい?」
「え⁉」
「あ、それはですね……」
その質問にネロは思わず体をビクッとさせる、エレナも初めは気付かず答えようとしたところで、答えられないことに気づくと言葉が止まる。
「え……そ、その……」
エレナが必死で言葉を探す、ネロは上手く誤魔化せよ……と心で呟きながら黙ってみている。
「あ!、実は私、妖精の体に興味がありまして、一度、妖精をを解体したいなぁと」
「え?」
――本末転倒だ馬鹿野郎!
仕方なくネロは一度咳ばらいをし、レイジの注目をこちらに向ける。
「え、と……要は、妖精の話を聞きたいんだよ、妖精種族は珍しいから、妖精の生活とか妖精界の話なんてなかなか聞けるもんじゃないしな」
ネロの説明にエレナはコクコクと首を動かし、便乗する。
レイジもその話で納得すると、エレナはごまかせたことでホッとした表情を見せる。
「よし、ならもう少し足を速めようか、森までは、あと少しだよ。」
その号令に従うと二人はレイジの後について行き足を進めた。
――
オルグスからおよそ二時間弱、ネロ達は目的の森に到着した。
外から見る森は、綺麗な新緑の木々たちが並び特に変わったところもない。
話を聞かないと妖精がいるなどとは思わないだろう。
「じゃあ、俺は先に戻るよ」
「え?帰っちゃうんですか?」
引き留めようとするエレナとは逆に見えないところで小さくガッツポーズをするネロ。
と言うより引き留めようとする空気を読まないエレナに少しイラっとする。
「ああ、まだ仕事が残ってるし、それに妖精は大人がいると姿を現さないと言う説もあるしね。」
そう言って来た道を戻っていくレイジを見送ると、二人は、森の中へと入って行った。
――
「んんー、気持ちいい。」
森の中は自然で溢れて、空気が澄んでおり、エレナは大きく息を吸い込み、深呼吸をする。
「空気がおいしいね。」
「……ああ、そうだな。」
ネロもエレナの言葉に珍しく共感を覚える。
昨日は土まみれの暗闇の中にいたぶん、この緑溢れる景色と木々の間からこぼれる日差しが、一段と綺麗に見える。
――こりゃ、いい気分転換になりそうだな。
ネロも森林浴を楽しみながら探索をする。
――三十分後
ネロは飽きていた。
未だ楽しそうにネロの横を歩くエレナに、対しつまらなそうに歩くネロ。
初めこそ新鮮さがあったが、ずっと同じ景色が続き、ネロは飽きてしまった。
森を歩いてしばらく経つが、現れるのは森の動物くらいでモンスターも出る気配もなく、変わったところもない。
――ま、そんな簡単に出るわけないよな
そう自分に言い聞かせて、歩いていると、ネロは不意に立ち止まり後ろを振り返った。
「どうしたの?」
急に後ろを見たネロにエレナが尋ねる。
「いや……何でもない」
――誰かいた気がしたが気のせいか?
誰のいないことを確認すると、ネロは首を傾げながら再び前へと足を進めた。
――
歩いて小一時間、目の前を見て、異変に気付く。
目の前を見るとそこで森が途切れていた。
どうやら森の向こう側までつっきぬけてしまったらしい。
「森が終わっちゃったね。」
「なあ?泉なんてあったか?」
「あ、そう言えば……」
二人は歩いてきた道を振り返る、一応周りもみながら歩いてはいたが見落とした記憶はない。
昔からあるとされる場所だから泉が存在するのは確かなはず、しかしそれらしきものなんてどこにもなかった。
「とりあえず、もう一度戻って見るか」
二人は元来た道へと引き返す。
――
今度はくまなく調べながら歩く。
「ん?何だろう、あれ?」
エレナが何かを見つけたようで指をさした方を見る。
何かが地面に落ちている。
「あんなものさっきあったか?」
落ちているのは遠目でも見つかるほどの大きさで、見落とすほど小さくはない。
「もしかして、妖精が倒れているとか?」
「いや、ねぇだろ。妖精ってのは人から姿を隠してるんだろ?んなのにこんな堂々としたところで倒れているわけ……」
そう言いながら落ちているものを調べて見る。
大きさで大体、フィギュア程の大きさで、背中には太陽の光に反射する透明な羽らしきものが生えている。
まあ、一言で言うと……妖精だった。
炭鉱の町、オルグスより東に進むと見えてくる名もなき森。
一見はただの森だが、そこには古くからから妖精界とへ繋がると言われている妖精の泉と呼ばれる場所があり、オルグスではこの森には妖精がいると言われている。
ただ、この話を知る者はオルグスの町の者達だけで、アドラー帝国の中でも知っている者は少ない。
何一つ特徴がないので普通の人がわざわざ足を踏み入れる事はほとんど無いが、たまに森へ迷い込んだ者が妖精の影に驚かされていると言う。
「……というようにオルグスの町では有名な森なんだよ」
森までの道中でレイジが今向かっている森の説明してくれている。
「へえ、なら、結構知られてる話なんだな。」
「ああ、昔は多彩な交流もあったらしいし、子供の頃にレンジとティナも妖精を見たって騒いでたこともあったっけな。」
ネロは今の話を割と信用していた。
話が妖精の様なものを見た、もしくはそんな気がした、などというあやふやな物言いなら信憑性も欠けただろうが、『いる』や『見た』という確信的な表現だったのが大きい。
そしてどうやらここら辺では妖精は、幻とかではなく一つの種族として認識されていることから、ネロは今の話が眉唾の話ではないと考え、出会えることに微かな期待を寄せた。
「でもどうして隠しているんですか?」
「まあ、妖精は数いる人種の中でも幻と称されるほど数も少なく、か弱い種族だからね。同じ人としての括りでも珍しく、どの種族からも売買目的で狙われているから、妖精たちの身の安全も考えて、あまり話さないようにしているんだよ。」
「……なるほど、そう言うことか。」
ネロが不意に声に出して呟く。
「どうしたの?いきなり。」
「いや、おまえの持ってた図鑑で何故か、妖精の内容だけ曖昧だった気がしたからな、初めはあまり情報を知らないだけだと思っていたが、もしかしたら意図的に情報を隠していたのかもしれない。」
エレナの持つ図鑑の著者はエレナの先祖でもある、かの勇者のパーティーだった英雄セナス、カーミナル。
読んだ歴史の本には、貴族の身でありながら自然と戯れ、生物の生態に研究熱心な魔導師だったという。
そしてその人物像から考えると、自然に隠れて暮らす妖精たちのためにも、あやふやな内容を記したと考える方が自然だろう。
ネロの考察にエレナも納得すると、そのままレイジに質問を投げかける。
「でも、そんな情報を私たちに教えてよかったのですか?」
「ああ、君たちは町の恩人だからね、君たちは信用に足る人物だし、町の者達も大目に見てくれるだろう」
信用たるもの……その言葉にネロは少し背徳感を覚える。
信用してもらえるのは嬉しいことだが、自分たちが妖精を探す目的は妖精を統べる、妖精の女王を殺して喰らい、毒無効化のスキルを手に入れること。
自分が生きるためにと、仕方がない事とはいえ、結果的には完全にその信用を裏切ることになる。
できれば、今後の事を考えると、この町の者達と、仲たがいするのは避けたいところ、万が一妖精を見つけても、その場にレイジがいると少々厄介だ。
ネロがどうにかレイジを引き離す方法を考えようとしたところで、今度はレイジからピンポイントな質問を投げかけられる。
「ところで二人はどうして妖精を探してるんだい?」
「え⁉」
「あ、それはですね……」
その質問にネロは思わず体をビクッとさせる、エレナも初めは気付かず答えようとしたところで、答えられないことに気づくと言葉が止まる。
「え……そ、その……」
エレナが必死で言葉を探す、ネロは上手く誤魔化せよ……と心で呟きながら黙ってみている。
「あ!、実は私、妖精の体に興味がありまして、一度、妖精をを解体したいなぁと」
「え?」
――本末転倒だ馬鹿野郎!
仕方なくネロは一度咳ばらいをし、レイジの注目をこちらに向ける。
「え、と……要は、妖精の話を聞きたいんだよ、妖精種族は珍しいから、妖精の生活とか妖精界の話なんてなかなか聞けるもんじゃないしな」
ネロの説明にエレナはコクコクと首を動かし、便乗する。
レイジもその話で納得すると、エレナはごまかせたことでホッとした表情を見せる。
「よし、ならもう少し足を速めようか、森までは、あと少しだよ。」
その号令に従うと二人はレイジの後について行き足を進めた。
――
オルグスからおよそ二時間弱、ネロ達は目的の森に到着した。
外から見る森は、綺麗な新緑の木々たちが並び特に変わったところもない。
話を聞かないと妖精がいるなどとは思わないだろう。
「じゃあ、俺は先に戻るよ」
「え?帰っちゃうんですか?」
引き留めようとするエレナとは逆に見えないところで小さくガッツポーズをするネロ。
と言うより引き留めようとする空気を読まないエレナに少しイラっとする。
「ああ、まだ仕事が残ってるし、それに妖精は大人がいると姿を現さないと言う説もあるしね。」
そう言って来た道を戻っていくレイジを見送ると、二人は、森の中へと入って行った。
――
「んんー、気持ちいい。」
森の中は自然で溢れて、空気が澄んでおり、エレナは大きく息を吸い込み、深呼吸をする。
「空気がおいしいね。」
「……ああ、そうだな。」
ネロもエレナの言葉に珍しく共感を覚える。
昨日は土まみれの暗闇の中にいたぶん、この緑溢れる景色と木々の間からこぼれる日差しが、一段と綺麗に見える。
――こりゃ、いい気分転換になりそうだな。
ネロも森林浴を楽しみながら探索をする。
――三十分後
ネロは飽きていた。
未だ楽しそうにネロの横を歩くエレナに、対しつまらなそうに歩くネロ。
初めこそ新鮮さがあったが、ずっと同じ景色が続き、ネロは飽きてしまった。
森を歩いてしばらく経つが、現れるのは森の動物くらいでモンスターも出る気配もなく、変わったところもない。
――ま、そんな簡単に出るわけないよな
そう自分に言い聞かせて、歩いていると、ネロは不意に立ち止まり後ろを振り返った。
「どうしたの?」
急に後ろを見たネロにエレナが尋ねる。
「いや……何でもない」
――誰かいた気がしたが気のせいか?
誰のいないことを確認すると、ネロは首を傾げながら再び前へと足を進めた。
――
歩いて小一時間、目の前を見て、異変に気付く。
目の前を見るとそこで森が途切れていた。
どうやら森の向こう側までつっきぬけてしまったらしい。
「森が終わっちゃったね。」
「なあ?泉なんてあったか?」
「あ、そう言えば……」
二人は歩いてきた道を振り返る、一応周りもみながら歩いてはいたが見落とした記憶はない。
昔からあるとされる場所だから泉が存在するのは確かなはず、しかしそれらしきものなんてどこにもなかった。
「とりあえず、もう一度戻って見るか」
二人は元来た道へと引き返す。
――
今度はくまなく調べながら歩く。
「ん?何だろう、あれ?」
エレナが何かを見つけたようで指をさした方を見る。
何かが地面に落ちている。
「あんなものさっきあったか?」
落ちているのは遠目でも見つかるほどの大きさで、見落とすほど小さくはない。
「もしかして、妖精が倒れているとか?」
「いや、ねぇだろ。妖精ってのは人から姿を隠してるんだろ?んなのにこんな堂々としたところで倒れているわけ……」
そう言いながら落ちているものを調べて見る。
大きさで大体、フィギュア程の大きさで、背中には太陽の光に反射する透明な羽らしきものが生えている。
まあ、一言で言うと……妖精だった。
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