第37話 特別
健太は特別に憧れていた。
平凡を嫌う健太が非凡とも呼べる特別に憧れることは別に不思議ではない。
テレビの中の芸能人、スポーツ選手、クラスの中心にいる同級生、平凡な自分とは違う、その全ての特別な人が健太の憧れの的だった。
特別な人……それは人の中で最も自由に生きれる人だと思った。
自分の好きな事をしながら、生きている。
社会の中で生きるために縛られる普通の人とは違い、誰も縛られることのない特別な人。
そんな人達に健太は憧れを抱いた。
だが、結局憧れるだけで何もしなかった、自分は平凡だからだ。
自分は平凡が嫌いだ、しかし自分は平凡なのだ、平凡はどう足掻こうが平凡なのだ。
平凡がなれないからこそ特別なのだ、自分は特別になれるものがなかった。
だから特別になる努力もせぬまま諦め、心を閉ざし、引きこもった。周りに比較対象がいなければ、特別は意味を持たないからだ。
誰でも時間とお金をかければ特別になれる非現実の世界に逃げ込んだ。
そうやって何ひとつやる前から諦めていた健太は結局、自分の才能を知る事なく死んでしまった。
そして死後に知らされた事実、それは自分は特別になれる存在だった。
健太は気づいてなかった、才能ある人も初めから特別な人などいないという事を。
しかしそれに気づかず死んでしまえば才能など意味がない。
死んだ後に知ったところで、あとの祭りだ。
だから今度は前回の反省を踏まえて生まれる前から知る自分の才能を伸ばしていった。
剣士として才能を発揮するため、幼い頃から必死で腕を磨き
生まれながら特別な地位を持つ貴族としてふさわしくなるため、貴族の知識と常識を身に付けた。
そして周りを見下すことによって、自分が特別な人間だという事を認識していた。
カイルとなった健太はいつしか特別に憧れていたことを忘れ、平民を嫌う、ただの貴族として過ごしていった。
――これが平民を嫌う理由か
ネロはベットの上で思い出したことを振り返り、気持ちを整理していた。
自分が平民を嫌っていた理由……それは自分が特別であることへの誇張。
平凡な地位の平民を見下すことによって自分が特別だという事を認識していたのだ。
自分は特別なのだから、平凡な地位の平民と対等に話してはいけない、平民と対等に話せば特別ではなくなる。
しかしそれに囚われすぎたせいで自分の思いを見失っていた。
前世で幾度と無く平民達と争いを続けていた時、何度も平民を認めそうになった。いや、実際に認めてしまった相手もいた。そしてその事に何度も自己嫌悪に浸った。
ロイドに問われた際も考えを改めようと思った。平民達の中にも話してみたいと思う相手が何人もいた。なんども自分の考えに揺らいだこともあった。
しかし、結局はなにもしなかった、
自分は特別なのだから平凡な人間と相容れてはいけない。そう思い、考えを変えなかった。
本来、自由に憧れて夢見た特別にいつの間にか縛られていたのだ。
それは最早思うがままに生きているとは言えない、自分が憧れていた特別ではない。
そしてそのことを踏まえて今一度考えてみる、自分がどうしたいのかを
前世で平民を粛清して行ったときは自分の意思で行ったもので後悔はない、そして今回のレンジたちを助けたのも自分の意思だ。
どちらも何一つ後悔はない、それでいい……。
平民を差別をしたいと思ったら差別し、仲良くしたいと思ったなら例え奴隷でも仲良くしよう。
もし自由に生きて皆に好かれるのなら良し、皆に嫌われることになっても構わない。
ただ、すべての選択に納得して生きていこう、自分にはそれをする力がある、それこそが特別を求めた理由なのだから……
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