第15話 塵も積もれば……
中等部の校舎前で行われている、平民と貴族の争いは両軍共々拮抗していた。
数に戦力差があった貴族達だったが、罠による大々的な攻撃と、オズワルトの見事な指揮、ベルベットの獅子奮迅の活躍により、戦力差を覆していた。
「クソ、思った以上にやるじゃないか」
数でも、実力でも勝っていた平民たちだったが、勢いに乗っている貴族達にすこし押されていた。
初めこそ狼狽えていた貴族たちだったが、ベルベットの活躍に感化されると、勢いに乗り、動きに躊躇いがなくなっていた。
「当り前です、オズワルトの指揮を舐めないでください」
ベルベットが剣を交えている相手に誇らしげに言う、実際オズワルトの指揮は見事だった。
戦場に隙を見つけると、すぐさまそちらを畳みかけ、分が悪くなると絶妙のタイミングで後退させ、後ろで控えている魔法部隊に後続を断たせる。
オズワルドは剣の実力こそベルベットに劣りはするが、兵の指揮をさせれば、右に出るものはいない、指揮ならばカイルですら凌ぐだろう。
そしてベルベットは一人の剣士と死闘を繰り広げていた。
「それにそのセリフはこっちのセリフです……まさかあの時の脆弱な家畜が、ここまでやるとは思わなかったですよ。」
ベルベットが剣を交えているのはバジル・クレス。
以前にベルベットが完膚なきまでに叩きのめした男だった、それが今回は互角の戦いを見せている。
「あの時は少し冷静さが欠けていたからな、今はしっかりと剣を見極められる」
二人は会話をしながらも剣の動きは止めない、以前はまともに受けられず、すぐに敗れてしまったバジルだったが、今回はしっかり対応していた。
「なるほど少し評価を改めましょう……でも、それも決着が着くのは時間の問題です。」
そう言うとベルベットは剣の速度が上がる。唐突に上がった速度にバジルが顔を歪ませる。
「この速度……スキル持ちか……⁉」
ベルベットが持つスキル『アクセラレ―タ―』
一定時間攻撃を続ければ、ギアが上がり、攻撃速度が加速していくスキルだ。
バジルも徐々に会話をする余裕がなくなり始めている。
「……どうやら戦況も少しずつ動き始めているようですよ?」
バジルは周りを見ている余裕はないがベルベットの表情でどちらが有利かがわかる。
「所詮、あなたたちは勝てないのです、カイル様にも私達貴族にも……格が違う、価値が違う、住む世界が違う……あなたたちは、素直に家畜として飼われ、我々のいう事だけを聞いていればいいのです。」
「クッ……この……」
反論しようにもしている余裕がない、ベルベットのギアがさらに一段階あがると受けきれなくなったバジルの肩を切り付けた。
――渡り廊下
「フフ、もう終わりか?」
「まだまだぁ!行くぞ!」
こちらではカイル相手に全員が総動員で挑んでいた。
レオンを筆頭に剣士全員で交互に襲い掛かり、隙をついてロゼが指揮しながら、魔法や弓で攻撃。
平民総勢三百十五人、その数をカイルは楽しそうに相手をしている。
――しかし、減らないな
カイルの前に何人もの平民が倒れたが、すぐさまヒーラーたちが回復させ再び挑んでくる。
――流石にヒーラーこっちに全振りは考えてなかったな。ほんと、数だけは多いなぁ、まさに塵つもだな。
内心カイルにも飽きが見られて来た。まともに戦えるのはレオンとそのサポートをしているキャスターのトードのコンビだけ。それ以外はほとんど剣すら交えずに終わっていた。
「魔法部隊、こっちに補助魔法を!」
「了解」
――あれ?ちりつもって何の略だったっけ?
集中力が乱れ始めたカイルは適当なことを考えながら相手をしている。
それでも相手の攻撃が当たりそうになったことは一度もなかった。
「クソッ、よしじゃあ全員で一斉攻撃だ!」
「私たちも援護よ!、魔法部隊、皆集まって。」
レオンの合図に全員が突っ込む、そしてそれと同時ロゼが集まった魔法部隊の魔力を集めて一気に解き放った。
――塵も積もれば……
「うおおおおおおおお!」
「いっけええええええ!」
――邪魔になる。
カイルの一撃が魔法もろとも周りにいた敵全てを薙ぎ払った。
――
――おかしい……
ベルベットはとてつもない違和感を感じていた。
一度は崩れ欠けていた戦況が、未だに均衡を保ち続けている。いや、それどころか徐々に平民達の攻撃が再び息を吹き返していた。
――なぜ?
あの罠は上級魔法が施されており、まともに喰らえば、しばらくは動けないはず。
なのに相手は、どんどん戦線に復帰してくる。向こうに回復を使っている者の姿は見られない。
そしてそれはバジルにも言えることだ。ベルベットは先程から幾度かバジルを切りつけていた。
致命傷こそなかったが肩部からは流血が見られていて、普通なら剣を奮うことすらままならないはずだった。
しかしバジルはどんなに傷ついても怯むことはなかった。
初めは根性論で済ませていたが、バジルの状態を見て違うことに気づく。
――傷口が塞がっている⁉
先程までに傷つけていた部分が凄い速さで塞がっていく。
ベルベットは、すぐ様状況を把握した。回復魔法を使っている……それも普通の魔法ではない。
ベルベットは自分の今まで学んできた知識を記憶から探り出す。そしてその正体に気づくと、すぐさま地面に視線を下す。
ベルベットが予想した通り、この戦場の地面に青白く光る魔法陣が引かれていた。
――これはキュアフィールド⁉馬鹿な⁉︎そんな上級魔術使えるなんて。
キュアフィールドは、魔法陣の範囲内にいる味方の体力を回復させ続ける上級魔法、騎士団学校でこれほどの治癒魔術を使えたヒーラーは前例にない。
騎士団学校に入学するヒーラーは、戦場に出ることを前提として育てられるため、治癒術と戦闘訓練を両立するので、治癒魔法を覚えるのはせいぜい中級が限界なのだ。
もし上級の治癒魔法が使える学生がいるとするなら、ヒーラー特化の学校の首席レベルに匹敵するのだ。
―― 一体誰が?
ここ状況を覆すにはキュアフィールドを使っているヒーラーを倒さなければならないが、視界にそれらしき人物はいない。
場所からしてきっと奥に埋もれているのだろう……。冷静沈着なベルベットが見せた、焦りと動揺で作った、一瞬のスキをバジルは見逃さず攻撃し、ベルベットの剣はバジルに弾かれた。
「しまった!」
「よし、今だ!」
すかさずバジルが追撃し、ベルベットの防具が防いでいない肩部にバジルの剣が突き刺さる。
「ぐぅ……」
ベルベットが傷口を抑えうずくまる。
「俺の勝ちだな……」
上から見下ろし自分に剣を突き付けるバジルをベルベットが睨み付けた。
「……クッ……侮ってしまいました。まさかキュアフィールドを使える者がいるとは……」
「ふっふ、そうだろう?ま、あいつがこの魔法が使えるようになったのはお前たちのおかげだけどな」
そう言うとバジルは、まるで自分の事のように何故か自慢げな笑顔を見せた。
「……どういうことです?」
「いや、なに、俺達には最高の
――
反乱軍の部隊の最後尾にいる一人の少女が神に祈りをささげるように膝を折り、手を合わせている。
そしてそこから地面に生命の力が流れ込み、負傷し、戦線を離れた味方の傷を癒していく。
「よし、治った!これで戦線復帰できるぜ」
「フフ、張り切るのはいいですけど、あまり無茶はしないでくださいね?」
「いやぁ、オゼットちゃんがいるとまた怪我したくなっちゃうって言うかぁ、それよりどう?今度一緒に買い物でも?」
「おい貴様、抜け駆けは卑怯だぞ!」
「そうだそうだ!後でバジルに報告してやる」
「おい、それは待てって……」
戦場の中で見られる和やかな光景に彼女は優しく微笑む、こんな光景を見せているのは彼女の力のおかげだろう。
オゼット・イクタス
バジルの幼馴染で、かつて不注意でカイルにぶつかり痛めつけられた盲目の少女……
だがそれが皮肉にも、彼女の力を目覚めさせるきっかけとなってしまったのだ。
傷つき、痛みを知った彼女はこの痛みに嘆くのではなく、この痛みを他の者たちが受けることを嘆いていた。
――やはり私はどう言われようが人の痛みを癒したい。
聖母のような心を持ったは盲目の少女は、ヒーラーという枠を飛び越え、プリーストの才能を開花させたのだった。
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