第14話 正々堂々
今、学校は完全に沈黙していた。それはまさに嵐の前の静けさというのに相応しく、学校内ではカイル率いる貴族と、ロイド率いる反乱軍が今まさに激突しようとしていた。
貴族側は中等部、反乱軍側は高等部の棟に立てこもり、それぞれの拠点としている。
反乱軍、総勢四百八十七人に対し、貴族側は百十三人、その兵力の差は歴然としていたがカイルという強大な存在がその兵力差を埋めていた。
本来ならこんな騒動は教師側が止めなければならない事だが、両軍のリーダーが、三大貴族と言う事で誰も止められずにいる。
そして、両軍が立てこもり数時間、双方に動きが見られ始めた。
――高等部棟
反乱軍は、高等部の校舎に、四百人もの人数が集まれる場所がないため、全員が集まれるように外で待機をしている。
季節は秋から冬へと変わり目、寒さも少しずつ感じさせる中、この場所は熱気で包まれていた。
集まったメンバーは、貴族制圧側と、カイル迎撃側の部隊に分けられており、制圧側の方はバジル率いる
剣士百三十名、
アーチャー二十名、
キャスター二十名、
そしてヒーラーを一名を入れた百七十一名の部隊を作り、
カイル撃退側は、ロゼを率いる
剣士百五名、
アーチャー八十名、
キャスター八十名、
ヒーラー五十名の遠距離攻撃を主力とした部隊編成されていた。
全員が整列したのを確認するとロイドが皆に呼びかける。
「よし、二手に分かれたな、ならこれより作戦を伝える、バジル率いる制圧部隊は、本来の中等部と高等部を行き来する廊下を使わず、校舎の外側から迂回して中等部に進行、迎撃側はその廊下を通ってくると思われるカイル・モールズの迎撃に当たれ。」
ロイドの言葉に全員が大きく返事をする。
ロイドは部隊のリーダーを務めるバジルとロゼを前へ呼び寄せると、それぞれにカードを渡す。
ロゼは難なく受け取るが、バジルはカードを不思議そうに見つめた。
「なんですかこれ?」
「それはボイスワープカード、通称はボイスカードだ、そのカードに魔力を入れると、同じ人間の魔力が入ったカード同士で会話ができる、その二つと私の持っているカードに、私の魔力が注入されてあるのでそれを通じて連絡を取り合える」
そう説明されるとバジルはへぇーと関心の声をあげる。
このカードは兵士や貴族たちは大抵持っているが、ルイン王国では一般市民には値段が高く手に入れ難い品物であった。
「これで私が二つの部隊と連絡を取り合い、指示を入れていく……本来なら発起人の私が前線に出なければならないのに、その張本人が一番安全な場所にいることを済まないと思っている。」
ロイドはそう言うと頭を下げる。
「いいんですよ、あんたがいなければ、立ち向かおうとせず、今頃学校は貴族の好き勝手にされてたと思うし、それだけで感謝ですよ。」
「そうそう、例え負けたとしても、まだ納得できると思うしな」
メンバーの言葉にロイドは少し笑顔を見せるとが、すぐに顔を引き締め、剣を高く空へと掲げた。
「よし、ではこれより貴族及び、カイルの討伐を開始する!全員無事で帰ってきてくれ!」
その言葉を合図に一同は大きな雄たけびを上げるとそれぞれの役目へと動き出した。
――中等部棟。
一方の貴族側は反乱軍とは真逆で士気は最悪だった。
殆どの者が初めての戦いに怯えている、今までは守られて当たり前の世界に住んでいただけに、未だに戦うのを嫌がる者もいた。
「じゃあ、これより家畜の掃討に行ってくる、連絡があったらカードを使え。」
「はい、ご武運を」
カイルが一人で渡り廊下へ向かうとオズワルトとベルベットはカイルに向かって敬礼をする。
今、貴族たちは中等部の外部からの出入り口に集まっていた。出入り口の手前には、爆裂魔法の入った魔法陣が敷いてある。
はっきり言ってカイルがいない状況下での貴族達の戦力差は絶望的だ、人数もそうだが個々の実力ですら相手が勝っている。
元々カイル側についている貴族たちは一部を除き、他の貴族とのパイプ作りを目当てに入学した者が多くで、ここにいるほとんどが、まともに剣を振っていなかった。
唯一その戦力差を埋めるものがあるなら、貴族の財力で買った
城下町で早急に探して唯一見つけた罠は、足元見られて高値であったが、上級魔法が入った罠だ。
兵器を買うという作戦もあったが、死人が出る恐れがあるため、使えないと判断し、断念していた。
この絶望的な状況でも、オズワルトとベルベットは貴族の前に立ち堂々と振る舞い、敵が来るのを待っていた。
実際この二人も、カイルのいないこのメンバーで勝てるとは思っていないだろう。
しかし決して無理と弱音は吐かない、自分たちが忠誠を尽くすカイルに託されたのだ。
二人は自分達ができる最善の策を行ない、相手をひたすら待ち続けた……。
しばらくの時間の後、偵察に行っていた貴族から敵が侵攻してきていると連絡が入った。それに応じて陣形を立てる。
そして数分後、連絡通り反乱軍が押し寄せてきた。
「いたぞ!貴族どもだ!一気に攻め入るぞ!」
先頭の男を筆頭に武装した、平民たちが攻めてくる。
――それなりの武装だな、あれなら死人は出るまい
オズワルトは相手の武具を付けているのを確認すると、罠の発動準備をする。
「まだだ、敵の軍勢全員が罠の攻撃範囲内に入るまで引き付けろ。」
オズワルトの言葉に貴族たちは動こうとしない。基より足が震えて動けないものもいるようだが。
平民たちがどんどん近づいているがまだ合図は出さない
――……まだだ、もう少し
そして一定の場所まで到達するとオズワルトが大きく手を上げて合図した。
「今だ!罠を発動させよ!」
その合図とともに突如地面が光りだす。
「な、なんだ⁉」
突如放った光に反乱軍が動揺する、そしてその直後地面から大きな爆発が起きた。
「しまった、トラップか⁉」
死人を出さないという事で火力はかなり抑えられてはいるが、それでも敵に与える被害は大きく、向こうの陣形を乱すには十分だった。
「さあ、次キャスター部隊、反乱軍に魔法をを放て!」
その言葉と同時に隠れていたキャスターたちが罠から逃れていた敵に火の魔法を撃つ。
敵が爆発範囲内に入る絶妙のタイミングで発動した罠と、魔法の追撃で反乱軍の被害は大きく、かなりの人数が脱落した。
――よし、かなり削れた、これで互角に戦える。
頃合いを未測ると、一気に攻めの合図をする。
「さあ、皆さん、高貴ある貴族たちに歯向かう愚かな愚民どもに思い知らせましょう!」
ベルベットの鼓舞に半ばやけくそになった貴族たちが一気に巻き返し、両者が激突し始めた。
――うしろが騒がしいな?戦いが始まったか?
爆発音の聞こえた後ろを振り返りカイルは呟く。
今、渡り廊下を歩いているが敵と思われるものには出くわしていない。
――まあ、ここから攻め込むほど向こうもバカじゃないよな。
ある程度予想していたが僅かに考えていた予想が外れ少し、しょんぼりしながら歩く、しかし、それは数秒の事、カイルは目の前を見て嬉しそうに笑った。
目の前には数えきれないほどの人数が集っていた。
そこの先頭に立つのはロゼ、何やら魔法の詠唱をしているようだ。
「……すごい数ですね、僕を倒すのにこれだけの用意を?」
「ええ、カイル……あなたの暴虐もこれまでよ」
「暴虐なんて酷い、僕はこの国の為すべきことをやったまでです。」
「そう、反省どころか自分の非も認めないのね……じゃあ仕方ない、ならばあなたを倒す!……ヴォルケーノ!」
ロゼは言葉を終えるとともに手を前に出すとロゼの手から龍の形をした炎がカイルに向かって飛び出した。
「おお、凄い⁉」
カイルは初めて見る上級魔法に心を躍らせた。
元々魔法に憧れを持っていたカイルだったが、カイルは十五歳の日に起こる不幸で魔法の暴発が起きること不安視して、魔法を覚えてこなかった。
カイルは初めて見れた上級魔法に少し嬉しそうにしながらも、自分に向かってくる炎の龍を剣の風圧で難なくかき消した。
上級魔法を風圧で消された事で流石のロゼも驚きを隠せず目を細める。
「想像以上に凄いわね……でも向こうは無防備、魔法攻撃さえ当たればなんとかなるわ。次、アーチャー!」
ロゼは火を消されるとすぐさまアーチャーたちに指示を出し、矢を射させた。八十ものアーチャーたちが一斉にカイルに向かって矢を放つ。
「いい連携だ」
カイルは周りに聞こえないような声で、相手をひっそり称賛する、そして空から降って来る無数の矢をすべて剣で弾いていく。
「そのまま矢を止めずに、キャスター、魔法を!」
今度は合図とともに、魔法部隊が大量の魔法を放ってくる。
カイルは余裕の笑みを見せながら、矢を弾き、魔法を避け、一歩ずつ足を進めていく。
「なんだあいつ?何したらあんな神業できるんだよ⁉」
カイルが近づくにつれ、部隊は弓を止め後退、代わりに剣士たちが打って出た。
「怯むな!次は俺達、剣士が出る番だ!つっこめぇ!」
剣士たちが勢いよく突っ込んでいくと魔法は彼らを援護する魔法へと変わる。
「カイルモールズ!覚悟!」
「面白い、ならばここまで来てみせろ」
カイルは突っ込んでくる剣士たちに無数の斬撃を放つ。
「くそ!なんだよこれ⁉」
次々と繰り出される斬撃に剣士部隊は近づく事もならぬまま、どんどん数が減っていく。
「さあ、頑張れ、ここまで来てみろ」
カイルが遊んでいるかのように、楽しそうに斬撃を繰り出す。
しかしその中で一人、斬撃を搔い潜り、カイルのところまで来て、一撃を入れる者がいた。
カイルは少し驚きを見せるもその一撃を華麗にかわす。
「へえ……やるなあ」
平民を評価することを避けてきたカイルだったが攻撃をかわしてきた相手にそのことを忘れ、思わず賞賛を送ってしまう。
「久々だな。モールズ」
「ん?誰だ?」
突如現れた剣士に首をかしげる。
「フン、お前の事だからそう言うと思たよ、これ、見おぼえないか?」
そう言うと男はカイルの前に鞘を投げる、その鞘にはモールズ家の家紋が入っていた。そしてそこでようやく思い出した。
「ああ……、お前か、悪かったな、随分顔が変わってしまったみたいで気づかなかったよ、……ところで誰?」
「自己紹介がまだだったな、俺の名前はレオン・ブライアン。お前に正々堂々、三百十五対一で勝負を申し込む」
カイルはその言葉に一瞬キョトンとするがその後、クスリと笑い頷いた。
「いいよ、なら
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