第10話 決意

決闘が終わって一ヶ月。

 平民は、最早立ち向かう気力を完全に失っていた。


 唯一の望みだったレギオスが敗れた平民たちはもう抗う術を持たず、ただ、無心になり貴族たちに平伏した。

 結果的にはカイルの思惑通りになった、だが、雰囲気は平民はおろか貴族にすら滞った空気になっていた。


 原因はレギオス・ブライアンの死だ。

 

 あの戦いの後、レギオスは死んだ。それに伴い彼を支持していた者、そして戦いの協力を求めた者達はミラン・カーミルを筆頭に自ら命を絶った。


 初めは余興程度で見ていた貴族も所詮は子供、目の前で見知った者達が死んだのは、あまりにも衝撃だったようで、今や支持をしていたカイルを恐れ始めているものも、少なからず出始めている。

 そしてカイルはその状況に苛立ちを感じていた。


――全くどいつもこいつも……、お前らだって殺せって言ってたじゃないか。


 カイルはここ毎日、寮の庭で苛立ちを振り払うように剣を振っている。

 決闘での殺しは罪ではない、今回カイルは何も非はない、だが群がっていた貴族たちは手のひらを返したようにカイルから遠ざかった。今そばにいるのは本当にカイルを心酔している者たちだ。


――家畜一匹殺して騒ぎすぎなんだよ。


 カイルは死というものにあまり関心がない。カイルは知っているからだ、転生という存在が実在することを。

 たとえ死んだところで新しい命に生まれ変わる。別に悲しい事じゃない、転生して、ほしかった人生を手に入れたカイルはそう考えてる。


 ……ただ、そう考えているカイルでも、心の隅に微かな喪失感を覚えていた。

 レギオス・ブライアン。油断していたとはいえ、初めて自分を傷つけた男、もしあのまま向こうが生きていたなら自分は負けていたのかもしれない、先程の戦いで感じたのは、純粋に楽しいという思いだった。


事実上、自分が初めて力を奮えた戦いでもある。今までいなかった年齢の近い相手、この先、彼がもし生きていたのであれば、どう成長したであろう?


 いろんな技を編み出し、自分に立ち向かってきたのではないだろうか?

 またレギオスと戦いたい、しかしそれは叶わない、自分で殺したからだ。


  カイルは初めて自分の行動に後悔を覚えた。だがそれをカイルは認めようとしない。

  カイルは全ての雑念を振り払うように剣を振り続けた。




「あまり、無理をし過ぎると体を壊しますよ?」


 不意に聞こえた声に剣を止め、声の方を振り向くと、そこにはオズワルトが立っていた。

 オズワルトの言葉に時計を見る、時間は素振りを始めて三時間は経っていた。


「もうこんな時間か……」

「あまり過度な鍛錬はやめていただきたい、天才が努力すると凡人は勝てません。」

「ほう、俺に勝つつもりでいたのか?」

「守るべき人が、自分達より強いと立場がありませんからね」


 オズワルトの返しに、カイルは小さく笑った。そして不意に尋ねてみる。


「……なあオズワルト、俺は間違っているか?」

「いいえ、間違ってはおりません、」


 何の質問かも聞かずに、間も入れずの即答、その回答にカイルはまた笑う。


「そうか、まあ、お前の答えなど、どっちでもいいさ、答えを強制的に正解にできるのは強者の特権だ、そしてその権利は俺にある。」


カイルは剣を空に掲げ、星に誓うように言う。


「例え間違いだと言われようとも、俺は考えを変えるつもりはない。俺は俺の考えで突き進む、そして、自分の理想の景色を見続ける!」


  転生してからもうすぐ十三年たとうとしている。今までカイルは自分の思うがままの人生を歩んできた、そしてそれはこれからも変わらない。


 例え死の運命が待っていようが、それを乗り越え、歩み続ける。心の隅にあった小さな迷いを振り払い、決意を固めるように言った声は自然と大きくなって外に響いた。


 そしてその言葉にカイルの決意を見たオズワルトはカイルの姿に改めて忠義を誓ったのだった。



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