第4話 カイル・モールズ

「ふむ、悪くないな」


 カイルは上機嫌に今日覚えたベルセイン流の技名を、いつものようにノートに記入する。

 そのノートには今まで覚えてきた技が全て書かれてある。


 この世界で生を授かってから早十二年、前世、佐竹健太の人生は順調そのものだった。


 新しく転生した世界、アムタリアは本当にゲームの中のような世界だった。

 この世界では魔法があり、モンスターが生息して、自分達の能力、つまりレベル、ステータス、スキルと言ったものが目に見えるようになっている。


 不幸ポイントをめいっぱい使って転生したのは、王国三大貴族の跡取り息子の長男、カイル・モールズ。


 子供ながら成人女性をも魅了する容姿と、大人の剣士すらをも凌ぐ、ずば抜けたステータス。 

そして、これこそ不幸ポイントを使った最大のチート要素。


 スキル『ブレイドマスターアビリティ』


 相手の使った剣技を一瞬にして覚えるチートスキル、これのお陰で、カイルは十二と言う若さで覚えた剣技はは百を越え、更にその技を組み合わせたオリジナル技を合わせると三百は越えていた。


「入寮前に五大剣術を覚えられたのは大きいな。」


 来週からカイルは、騎士団学校へと入寮になる、そうなればこの家にも卒業するまで帰ってこられるのは冬の休みのみになる。


 そうなるとしばらくは名のある相手と戦うことが叶わなくなるので、入寮間近で五代剣術を覚えたのは非常に大きかった。


 カイルが部屋にある巨大なベットの上で寝転び、くつろいでいると部屋の外からのノックの音が聞こえた。


「爺か?入れ。」


 部屋の主の許可をもらい、入ってきたのは執事服を着た凛々しい老人。

 爺と呼ばれた老人の名はグラン、モールズ家に四十年仕えている執事だ。

 幼いころからカイルの世話をしていたグランは、カイルの数少ない心を許せる相手でもあった。


「ベルセイン殿との稽古を終えたと聞いたので、調子の方はどうですかな?」

「ああ、上々だよ、技も一通り覚えたし、ベルセインを呼び寄せてくれたバカ親父に感謝だよ。」

「おお、あのベルセイン流ですらものにしてしまうとは……カイル様がいればモールズ家の将来は安泰ですな」


グランに褒められるとカイルは少し鼻高げに笑う。


「当たり前さ、俺はバカ親父や他の貴族とは違う。権力だけで威張り散らすのではなく、力もあることを知らしめてやる。」

「流石ですな……しかし、ぼっちゃま、実の父親であるレイン様をバカ親父などと言うのはどうかと……」

「バカにバカと言って何が悪い?領土の民に内乱を起こされ、数年たっても収められない間抜けな領主を、俺なら力を示して有無言わずに制圧する。それにその実の父は俺の事を厄介者と思っているみたいだしな。」


 カイルの言葉にグランが反論しようとするが、言葉が見つからず口を詰まらせる。


 現にカイルの父であるレインとカイルは仲が悪かった。原因はカイルの才能への嫉妬だ。

 かつてはレインもそれなりに剣の腕には自信があり、カイルが生まれたときは跡取りとして心底かわいがっていた。


 しかしカイルが六歳の時に行った稽古で、皆の見ている前で、幼いカイルに敗れてしまったのだ。

 その一件以来、レインは長男のカイルを遠ざけ、実力はかなり劣るが自分に従順なカイルの五つ離れた異母兄弟の弟、ベイルを構うようになっていた。


「今回のベルセインの指南も本来の目的は俺を負かすために仕向けたんだろうしな。」

「そ、そんなことは……」

「あるさ、何せ親父は……」

「私がなんだって?」


 カイルとグランの会話に突如男が割って入ってくる。

 煌びやか服装に無精ひげを生やした不愛想な男。この家の主人であり、カイルの父親のレイン・モールズだ。


「これはこれは父上、どうもお久しぶりです。内乱の方は収まりましたかな?」

「子供のお前には関係ない話だ。それより、今日はベルセインに稽古をつけるように言っておいたはずだが?」

「ああ、それならご安心を、もう終わりました。父上の期待通り、見事ベルセイン殿を打ち負かしました。」

「あのベルセインに勝ったと申すのか⁉︎」


 カイルの言葉に思わず取り乱すが、一つ咳を入れると、すぐさま冷静に振る舞う。


「ま、まあいい、それより来週には騎士団学校に通うようだが、決してモールズ家の名を汚すようなことはするなよ。」

「はい、ルイン王国の公爵家の跡取りとして、その名に恥じない学校生活を送って見せます。」


 カイルの言葉を聞くとレインは不機嫌そうにその場を後にする、そしてドアの前で小さくつぶやいた言葉をカイルは聞き逃さなかった。


「化け物め……」


そう言い残すとレインは部屋を後にした。


「聞いたか?実の息子に対して『化け物』だってさ」

「……すみません、歳のせいか少し耳が遠くなってしまったようで。」


 聞こえないふりをしているのか、本当に聞こえなかったのかはわからないが、カイルはグランの答えに小さく笑う。


「フフッそうか、聞こえなかったか、ならば仕方ないな。まあいい、俺は騎士団学校を卒業したら、すぐさま、当主を襲名する。そして反乱を起こすバカな愚民たちに自分たちの立場を教えてやるのさ。」


 学校の通う期間は最低六年、そのころのカイルの年は十八歳で、運命の年ともいえる十五歳を超えている。


 だが、カイルはそのことを忘れているわけではない。

 死なない自信があるのだ。


 まだ成長期に入ったばっかりの十二歳という年齢で、世界トップクラスの剣士ですら相手にならない。

 成長期真っ盛りの十五歳のころには今よりも遥かに強くなっているだろう。


 トラックが突っ込んでこようがドラゴンが襲ってこようが死ぬ気はしない。

 カイルは生き延びれることを確信していた。


「ま、その前にまずは卒業をしないとな」


 カイル・モールズとしての初めての学園生活が始まる。




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