第一章 カイル・モールズ編

第3話 1度目のプロローグ

――異世界アムタリア


日本がある世界とは、異なる次元にあるこの世界には魔法、スキルといったものが存在し、人間の他に、エルフ、ドワーフ、そしてモンスターと言った様々な種族がそれぞれ共存、争いを繰り返しながら生きている。


 そんな世界で編み出された剣術、ベルセイン流は五大剣術と数えられる流派の一つだ。

 今から数百年前、魔王を討ったとされる勇者のパーティーの剣士が編み出したとされているこの剣術は、自分の気を剣に宿すことを主体とする剣術で、一つ一つの剣技を取得するのが非常に困難な剣術である。


 その剣術の使い手、マルス・ベルセインはベルセイン流の正当後継者に当たる。

 幼い頃から父の厳しい指南と鍛練を受けいたマルスは、体に流れる、英雄ベルセインの血を遺憾なく発揮し、僅か十五の年で最終奥義までの習得に至った。


 この上達速度は歴代の後継者の中でも最速で、マルスの前の最速者ですらすべての剣技をマスターしたのは三十手前だった。


 天才、神童、英雄の再来、マルスに称えられる言葉は数えきれないほどだ。

 だがマルスはそこに満足しなかった。


――上には上がいる。


 マルスは更なる高みを目指し、強者を求め、世界各国を巡り、あらゆる猛者と闘って剣を磨き、その名を世界中に轟かせていった。


 そしてその戦いの中で編み出した最終奥義を越えた奥義『天翔絶風』。

 これを編み出したことでマルスは自分の強さを自信から確信へと変える。


――自分は強い


 マルスは強者に勝つたびに己の強さを噛みしめていった。



 ……しかしそう考えてたのはほんの数分前の事だった。


――自分は弱い。


今、マルスは絶望を抱き、膝を地面に落としている。

 原因は目の前にいる少年だ。


 きらびやかな金髪に思わず男ですら見とれてしまうほどの美しい顔立ち、だが瞳はまるで獅子のよう鋭く、歳の差が倍近くあるマルスを蟻を見るように見下していた。


――カイル・モールズ

 ルイン王国の大貴族、モールズ公爵の長男だ。


 名を轟かせたマルスがルインに滞在中に要せられた依頼、それは公爵モールズ家の長男、カイルへの剣術指南だった。


 大貴族なだけに報酬は絶大的なものであったが、元々貴族を好ましく思っていなかったマルスは依頼を断ろうとしていた。

 だが、それはとある噂を耳にしたことにより受けることとなる。

 とんでもなく強い貴族がいる。それがカイル・モールズ

 貴族は嫌いだが強いと聞けば戦いたくなる。マルスはその依頼を受けることにした。




……そして、今に至る。

マルスは自分を見下す少年を、弱々しく見上げる。十二歳という年で、まだ幼さはあるものの、その目には圧倒的強者の貫禄がある。

 未だに自分に起こったことに追い付かない。


 強いと聞いてどんな男が出てくるかと来てみれば、そこにいたのはまだ十五にも満たない少年だった。

ガセをつかまされた、そう思いながら、戦ってみれば実力は自分よりも上で、あらゆる剣技を受け止められ、そしてしまいめには……


 カイルは剣を目の前に掲げると目を閉じて剣に気を送り込む。

 そして、何もない場所に一度剣を振り抜いた。

その瞬間、目の前にとてつもない爆発が起こった、マルスはその光景に絶句する。


「天翔絶風……」


 気を剣に集中させ一気に解き放つベルセインの最終奥義

 マルスが世界をめぐり、死に物狂いで戦い続け、十年かけて編み出した技を、カイルは一度見ただけで完璧に取得。


 いや、天翔絶風だけではなく、ベルセインの全ての剣術をこの戦いでマスターしていたのだ。


「ふむ、悪くない技だ、流石はベルセイン流と言ったところだが、まだいろいろと改良できそうだな。」


 マルスの顔はみるみるうちに絶望の色へと変化する、自分が十年の歳月をかけて作った技をこの少年は一瞬で覚えたでけでなく、更に越えられるというのだ。


 マルスは自分の実力を過信した覚えはない。

だが自分よりも強いやつはいないと思っていた、それは今まで闘って勝利してきた猛者と、行ってきた努力に敬意を表してだ、……だがそれも負ければ過信に変わる。


「さて、じゃあ用も済んだし、もう帰っていいよ、報酬は約束通り渡すように言っておくから。」


 そう言うとマルスに興味をなくした、カイルはマルスに見向きもせずに、家の方へ振り返る。そして去り際に、小さく言葉をこぼした。



「しかし、こんな技に十年もかけるなんて、よっぽど剣の才能がなかったんだな」


 マルスの耳に入るようにこぼされた言葉、それは今まで天才と呼ばれてきたマルスの心をへし折るには充分すぎる一言だった。

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