海戦の終わり

シャル青井

ネギトロ対イクラ

 瑞々しい桃色に緑を乗せ、『ネギトロ』は大いなる海原をく。

 前方遥かに見ゆるは、黒い船体の上に宝石のような橙色の粒が輝く『イクラ』。

 イクラもこちらに気がつき、少しずつ船体を横に向けつつある。

 双方が砲撃面積を広くするため側面を向け合い、さりとて的を少しでも小さくするべく横腹を完全には見せぬようにしながら、なんとか白米シャリの届く距離まで間合いを詰める。

「もう一度大物食い、といこうか」

 ネギトロは先の海戦にて、『カニ』『カニミソ』の連合艦隊を後方からの奇襲により撃破することに成功していた。

 カニミソのあの臭いでは、見つけてくれと言っているようなものだ。

 しかし今度はそうは上手くいくまい。

 その時、イクラから何か礫が跳んだ。先に動いたのはあちらだ。

 それは予測よりも遥かに速い。この距離でシャリが届くものか。

 、慌ててイクラを再確認する。

 此処まで接近すればわかる。

 イクラはあの斜めに刺さった胡瓜を射出機カタパルトにして、白米を付けたイクラの粒を飛ばしたのだ。

 さらに数機のイクラが、胡瓜から飛び立つのが見える。

 迫る橙色の機影。

 そこから容赦のない白米が撃ち放たれる。

 そしてしばらく後、船体に衝撃が走った。

「敵白米、側面に着弾!」

 さらにもう一度。

「もう一発着弾!」

 明らかに足場が傾いている。

 長くは持たないか。

 その時だった。

 また別の軍艦巻が、水平線の彼方から姿を表した。

 黒く艶のない船体に、艶やかなソースに彩られた肉。

 食の暴力『ミートボール』である。

 それを確認したと思った瞬間、その圧倒的な質量を持つ肉塊が、ソースの糸を引きながらイクラに向かって放たれた。

 それがイクラの上に落ちると、胡瓜がへし曲がり、橙の粒が重みに耐えきれずはじけ飛ぶ。

 明らかに重い。

 そのまま、イクラは勢いに押し潰されるようにその側面を水面へと倒していく。

『ジャパンのグンカンマキ、低レベルデース!』

 これが、軍艦巻界の大艦巨砲主義の幕開けであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海戦の終わり シャル青井 @aotetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ